たまには驚かせたい(じょ)

(たまには、甘えたい)
 こう、虎次郎の主導的なものじゃなくて、自分からやるというか。なんかふわっとでしか説明できない。とにかく、虎次郎に悟られてるのではなく、自分から不意打ちをかけるような感じでやりたいのだ。(といっても)背後からやってもダメ、正面からやってもダメ。こっそりと近付いてもダメ。全てバレた。流石女タラシの虎次郎である。一発で「寂しかったのかい?」「可愛いなぁ、俺の天使は」とドロドロに甘やかしてくる。それではダメなのだ。もっと、こう。虎次郎の不意を突きたい。
「虎次郎がそう察しやすいのって、やっぱイタリアに行ったから? それともナンパの賜物?」
「あのさ。そーいうこと、このタイミングでいうかなぁ」
 私を抱き上げた虎次郎が、ちょっと呆れ気味にいった。そうでなければ、流れるように抱き締めるのも抱き上げるのもできないだろう。ギュッと腰を抱かれて片手でお尻を支えられながら、虎次郎の胸に手を着く。私が虎次郎を見下ろす体勢だ。けれど特に不満に思うこともなく、寧ろ喜んでいる。けれどもこの質問に対しては、不満に思ったようだ。眉を下げて笑わない虎次郎を見て、そう思う。
「なにか気に障ったか?」
「たまには虎次郎の不意を突いて、ドッキリさせたくて」
「例えば?」
「急に抱き着いて、ドキッとさせたりとか」
「そいつは嬉しいな、いつでも大歓迎だぜ」
「でも、虎次郎慣れてるじゃん。驚いてくれないし」
「驚くのと嬉しいのとは違うだろう?」
「私は驚かせたいの」
「俺は××といるだけで、充分幸せだぜ?」
「虎次郎を驚かせたいんだって」
「俺は充分、××といて胸がドキドキしてるぜ?」
「そういう意味じゃなくて」
 ドキッと不覚にも虎次郎の胸をときめかせたいのだ。今も、こうしてキスをしてくるし。ちゅっと顎の下や喉にキスを送られる。(虎次郎より背が高いと、こうなるのかな)じゃぁ、逆に虎次郎の顎や首とか、背伸びをしてキスをすると、驚かせれるとか? これには獅子奮迅、虎穴に入らずんば虎児を得ず並の気の持ちようが必要だろう。虎次郎が私の疲れを察して、下ろしてくれる。けど虎次郎の膝の上だ。私の腰を抱いた状態で、膝立ちの私を見上げている。(きっと、こうしてもならないんだろうなぁ)自由になった両手で虎次郎の肩を掴んでキスをするけど、喜ぶばかりだ。「ハハッ」と笑って、同じところにキスをし返す。これじゃぁ、恋人同士のやり取りだ。いや、悪くはないけど。私は、もっとこう、虎次郎を驚かせたいのだ。ガプッと噛みついてみても「痛いなぁ」と笑うだけだ。もう少し抵抗を続けてみる。
「んぁ」
「ハハッ、擽ったいな。じゃ、やり返しちゃおっかなっ?」
「もう。今は私の番だって」
「こうして、かわりばんこにキスをしてると恋人同士みたいだね」
「虎次郎にとっては違うの?」
「自覚させたかったから、わざといった」
「驚かせたい、っていったじゃん」
「聞いてる」
「たまには、ドキッとしてみない?」
「いつも××の一つ一つにドキッとしている」
 といって、キスを落としてくる。いつの間にか、形勢逆転もしているし。虎次郎が私を押し倒したものだから、主導権を取られてしまった。しかも私がベッドに寝転がった状態で、虎次郎はまだ床に立っている。体格差が憎らしい。ちゅっと米神にキスを落としてから、頬へ首へ肩へ顔を埋めてくる。「もしかして、このままするつもり?」身体を支える虎次郎の手を掴んだら「って、いったらどうする?」と挑発される。くっ、私より目線の高さが低い癖に! 主導権を握られた上での余裕を見せられると、ちょっと気に食わない。いつも虎次郎を驚かされて空振りに終わる分、余計に。ポンッと手を叩いてみれば「仰せの通りに」といって身を引く。意外と呆気ない。身体を起こして追い打ちをかけてみるけど、嬉しそうにへにょっと笑うだけだ。ちょっと困ってるのは、なんでだろう。
「俺の我慢も、限界があるんだぜ?」
「そう」
「何回いったら、わかってくれるのかな?」
「寸止めも結構大変みたいだね」
「お前な。優しくするのも限界があるんだぞ!」
「素が出た」
「はーぁ。女の子には優しくがモットーなんだよ」
 口説きもスケートも強引が信条だけどな、と呟いて目尻にキスを落としてくる。「キス魔」「嫌っていっても、やめてやらねぇ」「なにそれ」「××がわからないからだよ」そんな、急に人のせいにされても。さっきまでの優しい下手に出た虎次郎はどこへ行った?
「急に口調も柄も悪くなって」
「そうさせたのは、お前だぜ? イタリア男の流儀は、またの機会をお楽しみに」
「回数券とかあるんだ」
「仏の顔もなんとやら、の方が近いな」
「ふぅん?」
 クイッと顎を指で持ち上げられての、前髪の付け根の付近や耳の付近へのキス。結構際どい。手付きも強引さを持ってきた。「エッチ」「そうさせてきたのは、そっちだぜ?」「してないし」「いーや、した。何度も煽るようなことをしただろ」「それは虎次郎を驚かせようとして」「逆に理性がぶっ飛ぶ」(なるほど)どうやら、下手に打つと虎次郎の理性を飛ばしてしまうらしい。これはいけない。先に虎次郎を驚かせたいのに。
 行為の合意を伝えるため、虎次郎の背中に手を伸ばす。相変わらず、大きいし広い。服を這う手に、イタリア男のナンパ癖みたいなのは感じられなかった。


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