ベッドから離してくれない恋人(じょ)

(ちょっとやることがあったんだった)
 パチッと目が覚める。まだ瞼が重いけど、そうはいってられない。腰に垂れてた腕がのそっと落ち、身体が自由になる。ベッドから出ようと服を整えてたら、のっそりと後ろから体重が掛かった。虎次郎である。寝起きだから目がトロンとしてるけど、離すつもりはないらしい。声をかけるよりも先に「どうした?」と寝起きで聞いてくる。声は掠れているけど、甘い感じは掠れない。うとうととしながらも頭に鼻を埋めてくる。「ちょっと、やることがあって」虎次郎の眠気に釣られて返したら「そんなに?」と耳元で囁かれた。
「明日に回すのも、無理そう?」
「うーん、気付いたらやりたい、というか。忘れそう」
「急ぎの案件か?」
「忘れたらヤバそう」
「朝や翌日に回しても、大丈夫そうか?」
「それなら、大丈夫かも」
「なら、その日に俺が『やることあるんじゃないか』って教えよう。それで問題ないだろう?」
「そのときに思い出せればいいんだけれど」
「じゃぁ、思い出すようにしてみよう」
 といって、ちゅっと目尻にキスを落としてくる。そのまま、ストンと。虎次郎に抱き締められたまま、ベッドへ戻される。ついでに馬乗りにもされた。(こういうところで、強引さを出されてもな)と思いつつ、唇にちゅっとキスを落とされる。「まるで天使のキスみたい」「天使ってのは、俺の目の前にいる人のことかな?」「天使のキスって、死の予言って見方もあるみたい」「俺があげたいのは、君が幸せになれるようなことかな」そういって、額にチュッとキスを落としてくる。本当、口説き文句が上手い。
「それ、昔から?」
「なにが?」
「そう、女の子を口説くの。聞いてて、ちょっと恥ずかしい」
「ナンパもそうだが、ストレートに褒めた方がわかりやすいだろ?」
「なにが?」
「その子のそういうところが素敵だってところ。おっと、××は別だぜ?」
「もし同じだといわれたら、浮気だと疑ってたところなんだけど?」
「ははっ、笑えない冗談だな。俺の天使は心配性だ」
「そう、キスをされても」
 ちゅっと今度は手の平にキスを落としてくる。「こういうことも、他の子にしたり?」「しても唇か投げキッスか、手の甲だな」「うわぁ」どっちにしろ、うん。女の子だと好きになっちゃうようなところだ。首筋に吸い付いてくる。「こういうところも?」「こういう雰囲気になったら、だな」そう人前ではしないらしい。けれど、他の女の子とこういうことをしたこともある、って匂わせられると、ちょっと。
(嫉妬心が、沸き立つというか)
 複雑な気持ちになってたら、スッと虎次郎が離れた。カプッと耳を甘く噛まれてから、ふぅっと息を吹きかけられる。「ちょっと」「悪い、悪い」そう悪戯っぽく笑われても、困るんだけど。ギュッと虎次郎の腕を握って睨みつけたら、トロンと目尻の垂れた虎次郎の目と合った。
「でも、今はお前だけにしかしてないぜ? ファンの子にも、勿論だ。投げキッスも、最近していないだろ?」
「ウィンクはしてるけどね」
「ダメ?」
「それくらいは、いいけど。本当、罪な人」
「悲しませたくないんだ。嫌だったら、いってくれ」
「浮気はしないんでしょう?」
「お前一筋だぜ? 目移りなんか、するかよ」
 ちゅっと、今度は手首にキスを落とされる。さり気に手の平にもキスを落としていたし、本当。手慣れてるなぁ。はぁ、と溜息を吐いてしまう。「なぁ、××」縋るように虎次郎はいってくる。
「俺の行動で不安に思うようなら、すぐにいってくれ。直すからさ」
「ちゃんといってるから、大丈夫だよ。こういうことを、他の女の子にしなければ」
「懐がでかすぎるだろ」
「したの?」
 呆れたようにいうものだから、すかさず聞けば、すかさず返ってくる。
「してねぇよ」
 些か不機嫌そうである。浮気を疑われて、ちょっと怒っているようだった。
「そんなに疑うようなら、今度教えないとな」
「なにを?」
「俺がどれだけ愛しているか、ってことだ」
 ちゅっとまた手の平にキスを落とされる。こうも見つめられてハッキリいわれては、不覚にもドキッとせざるを得なかった。


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