ベッドから離してくれない恋人(ちぇ)

(しまった。やることがまだあった)
 もぞもぞと布団から出る。すると、薫がもぞっと腰を掴んできた。そのまま布団へ引き摺り戻そうとする。「ちょっと、もう」「んっ」薫の寝起きは悪い。しかもガタイの良くて新調も高い分、力で押されるとどうしようもない。ずるずると引き摺られて、薫の腕の中に閉じ込められる。「もう、薫ったら」ギュッとぬいぐるみを抱き抱えられるようにされては、どうしようもない。ポカッと肩の部分を叩いてみるが、反応なし。グリグリと旋毛に顔を押し付けるだけだ。ギュッと、足で強くホールドされる。まるで人をぬいぐるみ扱いである。肩も強く抱き締められては、身動きも取れない。(もう)もぞもぞと上へ這い上がる。肩幅の広さが腰の狭さに窄められ、薫が呻く。んっ、ともぞもぞと頬を擦り寄せてきた。薫の髪が擽ったい。プハッと顔を出すと、薫の寝顔と対面した。(本当、こういう顔は幼いんだから)いつもの鋭い眼差しも消えて、目尻が柔らかい。いつもの言動とはかけ離れているほど、寝息が健やかだ。普段の『桜屋敷薫』──いや、AI書道家の場合は寝るところさえ想像できないに違いない。よくて仮眠か──しか知らない人だと、わからないだろう。ムスッとした顔も、表情筋が緩んで柔らかい。ぷにぷにと触っていたら、薫が呻く。「んんっ」と眉を顰めて、寝返りを打とうとした。そのせいで、腕を動かせる範囲がグッと狭まる。脇を締めるしかない。けれど薫の寝顔を触り続ける。こんな機会なんて、滅多にないからだ。(口の中に指を入れると、どうなるんだろう。噛むのかな?)スッと唇を撫でてみると、薫の口が窄む。ちょっと閉じたような感じだ。反射によるものだろう。(赤ちゃんの反射って、なんだっけ)モロー反射? そう思ってたら、薫が起き出した。もぞもぞと身動ぎをして、顔を顰めている。まるで、くずりたがってる赤ちゃんのようだ。私も釣られて、身体を動かされる。それでも負けじと薫の顔を触ったら、不機嫌そうに起きた。熟睡したときに下がった眉が吊り上がって、柔らかく垂れた目尻が吊り上がる。ほうと惚けたように小さく開いた口はへの字に引き締めて、パシパシと瞬きをした。(睫毛、長い)そうっと手を伸ばしたら、頬を乗せられて枕に沈められた。
「なんだ」
 寝起きだから声が低い。グリグリと私の手の平に頬を擦りつけながら、熟睡しようとする。「やることがあって」と伝えたら、薫が寝ながらムッとする。無意識のことだろう。断ると言いたげに、薫が体重を乗せた。グッと片手で引き寄せてくる。
「ちょっとやるだけ」
「んっ」
「ん、じゃなくて。薫?」
 ダメだ。聞こうとしてくれない。完全に寝に戻ったようだ。すやすやと眠ってしまっている。(本当、一旦寝ると起きるまで時間かかるんだから)一定の時間を寝ないと、絶対に起きようとしない。ちょっと腹癒せ半分で、熟睡する薫にキスをしてみる。のろのろと薫が動いて、キスをし返そうとする。けど半分寝てるものだから、方向が外れる。鼻の横にキスをしてきた。(もう)空いてる手で薫の頬を包んで、やり返す。ちゃんと唇にキスをした。すると、薫が少し呻いて体重をかけてくる。「んっ」と唇の端にキスを落としてきた。やっぱり外れてる。
 ちゅっと薫にキスを続ける。薫の口が軽く開いて、唇は乾いたままだ。寝息が漏れ続ける。(なんか、私だけでもな)ちょっと止めれば、もぞもぞと薫が動く。私の額に顔を埋めてきた。ぐりぐりと唇を押し付けてくる。
 熟睡した薫は、寝ていても私を離そうとしてくれなかった。


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