ある日のスケーターたち(+温泉組)

 本日、フラワーショップ『ちゅーりっぷ』とイタリア料理店Sia la luce≠フ休日が被った。さらにデパート前広場での書道パフォーマンスを終え、諸々の仕事を終えて時間が空く。中学生は学業を終え、進学校でなければ高校は放課後を迎える。バイトの予定がなければ、自由な時間だ。途中でミヤと合流し、目的地まで一緒に滑る。一方、シャドウは道中で××と出会った。学生組と違い、こちらは徒歩である。「やぁ、今から?」「あっ、そうですね。って、外だとつい敬語を使っちまうなぁ」「いいんじゃない? 今は『シャドウ』じゃないんだし」そう××が今の外見を指摘すると、仕事帰りの薫と鉢合わせた。「あっ、薫。今終わったとこ?」「あぁ。向かうところだ」「車があればすぐなんだけどなぁ」生憎、シャドウは店の営業車を拝借しての足となる。これはできない。徒歩で目的の場所に向かうと、既に学生組が到着していた。「おっ! 遅いって、三人とも!」「んっ、席はまだ空いてるって」「食べるか喋るか、どっちかにしなよ」既に高校生の二人は食べていて、ミヤはゲームだ。「食事中にゲームをするなよ」シャドウは食事の並ぶテーブルに着き、薫と××はカウンターへ向かう。いつもの場所だ。「おい、いつもの」「見てわかんねぇのか! 忙しいんだよ!!」「お水貰っていい?」「あぁ、いいぜ!」××とで態度が一八〇度違う。「だって」と××が立ち上がろうとした途端、この店の主、虎次郎が一旦調理の手を止めた。スタスタとカウンターキッチンの中に入り、二人分の水を出す。「もう少し、待っててな」「うん」「チッ! 媚びた声を出しやがって。酒はまだか」「もう少し待ってろ!!」相変わらず、薫に対して辛辣だ。
 キッチンは慌ただしく、メニューの開発も兼ねて、本日のシェフの気まぐれメニューを出す。別名、試作品メニューだ。商品として出す前提である以上、一切の手抜きはしていない。暦やランガ、シャドウやミヤは舌鼓を打ち、××は黙々と堪能する。その傍らで、薫はいつものワインを楽しんでいた。キープした白ワインである。いつものボトルを飲み終えた分、新しいものとなっている。同じシャトーの畑から生み出したボルドー・ブランだ。優雅で華やかな香りと、柑橘類と南国フルーツ、ナッツなどの複雑に絡み合う味も楽しめる。注ぐ度にふわりと香るが、テーブルへ行き着く前に雑談や料理の味や匂いとで掻き消される。虎次郎も料理を出し終え、キッチンから出てきた。一息吐く。スケーター恒例の話に華を咲かせ、脱線して直近のことを話し合う。性別が同性同士だと、弾む話も弾みやすいらしい。唯一性別の違う××は、ポツンと男たちの輪ではしゃぐ様子を眺めた。
(そういえば)
 またしても薫と虎次郎が喧嘩をする。こういう話はあまり受けないだろう、でも気になるところはある。できれば、聞く機会があれば聞きたいものだ。「あーあ、また喧嘩しているよ。あの二人」「ねぇ、暦。おかわりって、今頼めば、できるかな!?」「まだ食うつもりなのかよ!?」「少しは遠慮ってものを知ったらどうなの?」「見てるだけで腹が膨れてくるな」ランガの完食した量に、シャドウがゲンナリする。話が途切れた瞬間を見て、××は切り込んだ。
「そういえば、ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど」
 突然口を開いた××に、一同の視線が集まる。殴り合いの喧嘩まで発展した二人の視線も、そちらへ向いた。それもそのはず、今まで黙って聞きの役に徹していたからだ。急な注目に居心地の悪さを感じつつ、××は質問を出す。
「もし兄になってもらうんだとしたら、ジョーとチェリーのどっちが良いとか、ある?」
「へっ?」
「は?」
「えっ。ジョーとチェリーが兄貴になったら、って話?」
「んっ、考えたこともなかった」
「なんか、二人が身内だったら毎日喧嘩で煩くない?」
「だから、その一方だけを選ぶって形で」
「うーん、だとしたら俺はジョーかな」
「俺も。毎日美味しいご飯を作ってくれそうだし!」
「おい!!」
「じゃ、せーのでお兄ちゃんになってほしい人のところに行こう。せーのっ、で」
「ばっかみたい。まぁ、付き合ってもいいけど?」
「おい。待て。なんだ、その話は」
「じゃぁ、行くよ。せーの」
「なんか、新たな火種が生まれそうだな」
 細目で様子見に徹するシャドウの前を、三人が動く。「どちらが身内かって、いわれたらなぁ」「毎日作ってくれると嬉しい」「お前らなぁ!」「そんなの、いわれなくても当然でしょ」「なに?」「こっちになるよね」「なに?」「なッ!?」綺麗に二つに分かれた。

 虎次郎のところに暦とランガが、薫のところにミヤと××が付いたのである。
 ショックは虎次郎が、衝撃は薫が大きい。なにせ、身内の兄にと××が選んだのが薫である。これにワナワナと虎次郎は震えたが、気を取り直した。──「どうせ身内だと、付き合えないだろ!」──血縁の壁を持ち出した。立て直したものの、「身内として選ばれなかった」という悲しみは強い。結局、虎次郎の声は震えたままだった。薫は想定すらしなかった事態が起きて、現実を飲み込めていない。
「な、なぁ。なんで」
 震える虎次郎の声で、薫は現実に戻る。ピクッと身体が跳ねて意識が戻った。
「そっちを選んだんだ? 薫のどこが良いんだよ」
「そりゃぁ」
 ××が答える前に、薫を選んだミヤがギュッと選択した兄の腕を握る。袖の後ろに隠れる形となった。
「お金をすごく持ってるからに決まってるじゃん。ねぇ、ママー。新作のゲーム、買ってくれるんだよね?」
「誰が買うかッ!! このマセガキ!」
「こら! 薫!! 子どもになんてこというの!?」
「ぐっ、しかし!! 中学生といえども、コイツだって立派なスケーターだ!」
「だからってマセガキは良くないと思うな!? もう少し、柔らかい言い方はないの!?」
「ぐう、ぐぬぬッ」
 惚れた手前言い返せない薫の前で、ミヤは××の後ろに隠れる。「マセガキ」発言に憤る××の背後で、ベッと薫に向かって舌を出した。下瞼も指で下げる。完全に挑発しているスタンスだ。ピキッと短気な薫の青筋が立った。肩も怒る。「このッ!!」「えーん、怖かったよぉ」「子どもはただでさえ繊細なんだから。駄目だよ!」「ぐぅ、MIYAの生意気なところを見ていないから、そういうことをいえるんだ!」「そうであっても、子どもに対する言葉は柔らかくして!」「べぇ、だ」「ほら! 見ろ!! こういうところだッ!!」「そうであっても!」ギャアギャアとミヤの態度を中心に騒ぐ薫と××に、ボソリと暦はいう。
「おっかねぇ」
「あの人、あぁいうところもあったんだ」
「アイツも引かないときは引かないからなぁ。こうなったら長引くぞ」
「うへぇ。似た者同士?」
「んなわけないだろ」
「すごい断定」
「ねー、ママァ。新作のゲーム買ってー」
「誰が買うかッ!」
「新作のゲームといっても、色々とあるからね。ちゃんと一つに絞らなきゃ」
「それくらいわかってるよ。でも、ママなら太っ腹だから二つくらい買ってくれるよね?」
「だから買わんと、って! 誰がママだッ!?」
「今更、そこのところをいう?」
「なんか、夫婦喧嘩っぽくね?」
「さぁ」
「んなわけねぇだろ!! おい! これ以上長引くようなら、俺が相手してやる!」
「なぁに、しゃしゃり出てるんだ。このぼんくらッ! お前に関係ない話だろ!!」
「いーや、関係あるね! これ以上、黙って見てられるか!」
「なぁにが黙って見ていられるか、だッ! 類人は引っ込んでろ!!」
「お前こそ引っ込みやがれ! このロボキチッ!」
「それはこっちの台詞だッ! 原始人!」
「だったら決着を付けようじゃねぇか!!」
「望むところだッ!」
「やっぱ、新作のメガンテ辺りが気になるんだよね。でも、PG15辺りのレートが付いていたような気がして」
「だったら、ギリできないじゃん。僕、両親を心配させるようなほどまではしたくないし」
「なら、こっちがオススメかなぁ。RPGだとしたら、Steamで検索するのも面白いよ」
「へぇ。名前だけなら聞いたことある。確か、そこからNintendo Online へ参入したんでしょ?」
「流石。よく知ってるね」
「こう見えてゲーマーだからね! 僕は!! 舐めないでほしいね」
「なら、今度全年齢でできるやつ調べてみようかなぁ」
 虎次郎が参入した途端、二人をそっちのけでミヤと××はゲームの話に華を咲かせた。どうやら、ゲーマー同士で積もる話が出てきたようだ。
 この二つに分断された会話を見て、暦はぼやく。
「えげつねぇ」
「綺麗に分かれてるね」
「似たような性格で分かれたんじゃないのか?」
 犬猿の仲とゲーマーの血、似た者同士の気質が惹かれ合った結果といえよう。成人済みの××が外したフィルターを通して、ミヤはインディーズゲームが売買される市場を眺める。この一方で、幼い頃から腐れ縁である薫と虎次郎は、昔と変わらない喧嘩を続けた。
 暦は呆れた目で眺め、ランガはこれら会話する様子を眺めながら、スパゲッティを食べる。酒に弱いシャドウは、ワイングラスに注いだオレンジジュースをちびちびと飲んだ。未だに喧噪とゲーマー同士の議論は休まらない。
 ほとぼりが冷めるまで待った。


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