サンタさんの是非とポッキー(ちぇ)

「薫ってさ、何歳までサンタさんを信じてた?」
 ポキリ、と桜屋敷薫の口に入っていない先端が折れる。持ち手のクッキー部分を抓んだ状態で、桜屋敷は固まった。眼鏡が曇っている──というより、光を反射している。何故、そのような質問が出たのか?≠アの質問に対して、明確な答えは出ない。××の目を見るが、自分の過去を知る様子はない。少なくとも、幼い頃はサンタを信じていたという桜屋敷の過去を知っての発言ではない。
 口に残るポッキーを、口を閉じたまま咀嚼する。もぐもぐと細かくしたあと、ごくっと腹に飲み込んだ。質問の答えを待つ××にいう。
「なんで聞くんだ」
 先に意図を尋ねた。しかしながら意図や悪意はないのか、××はキョトンとしてすぐに弾き返す。
「単純に気になって。あと、家庭によって違うじゃん?」
「それはそうだが。だからって、なんでそれなんだ」
「今手掛けているものの関係で。ほら、環境が特殊だと一般性を持たないじゃん?」
「特殊だと?」
「キリスト教の誕生を祝い、教会で開かれるミサやら社交界に参加したりすること」
 一般的じゃないでしょ? と日本の土壌と比較して尋ねる××に「それもそうだな」と桜屋敷は頷いた。少なくとも、自分の家庭でそんなことを開かれた覚えはない。「食べる?」「貰おう」××の手が袋を振り、数本を出した。その差し出された内の一本を摘まみ、桜屋敷は食べる。ポリッと一口齧りながら返答を考える。どう自分の体験に触れず話すかを考えている内に、××が続きを話した。
「クリスマスツリーを飾ったり、ベッドの傍に靴下を垂らしたり。その傍にクッキーやミルクを置いたり。お手紙を出すか置くかもあったかな? 感謝のお手紙とか」
 非常に心当たりがある。少なくとも、桜屋敷にとって身に覚えがありすぎた。──なにせ、ギリギリまでサンタの存在を信じていた過去の持ち主である。クリスマスツリーを飾って「サンタさん、見てくれるかな!?」とか「これでサンタは読めるはずだッ!」とか策を練ったりなど、今思い出すと恥ずかしい。頭を抱えたくなる。
 カァッと赤くなる顔を見られないよう、秘かに顔を反らす。××は後頭部を見せる桜屋敷に構わず、話した。
「そういうのはあるけど、ヨーロッパ諸国の文化も入ってるでしょ?」
 桜屋敷は答えない。暫くの間を空けたあと、
「そうだな」
 と、重々しそうにいった。その重圧を受けた沈黙に首を傾げながらも、××は聞く。
「戦後日本の歴史を顧みたとして、アメリカの影響も受けているだろうし」
「そ、そもそもだッ!! れ、歴史的なところから見るのが、間違っているんじゃないのか?」
「そう? 一般的なのを知るには、一番だと思ったんだけど」
「カーラ」
『それなら日本の俗習について調べた方が答えに近いと思います』
「流石最先端AIのカーラ! 答えをズバッといってくれるね。でも、その資料に至るまでが」
『只今検索しております。暫くお待ちください』
「マジで?」
「大マジだ」
「カーラ、いや薫の出血大サービス?」
「有難く思えよ」
 シュパッと出した扇子で口元をさらに隠す。これで、サンタの話について遠ざかっただろう。少なくとも、桜屋敷のサンタ事情へ触れないはずだ。カーラの挙げる資料の名前に「ふむふむ」と××は頷く。メモを取り終えると、カーラに礼をいった。
「ありがとう。ところで、薫って何時頃まで信じてたの?」
「まだ引っ張るかッ!! だから、それを聞いてどうするんだ!」
「さっきもいったじゃん」
「言ってない!!」
「はぁ、具体的な例が欲しいの。男の子と女の子だったら、話が違うじゃん?」
「なんだ。小学生の頃の話をしているのか」
「そういうこと。大抵、小学校の中学年か高学年でバレたりしない?」
「えっ」
「へっ? 親がプレゼントを置く場面をたまたま目撃しちゃったりとか」
 して、と××が続ける前に桜屋敷が黙った。扇子ではなく、手で口元を覆い隠している。(本当だったのか)小学生の頃、同級生から聞いた話が真であったことを、大人になった今、知った。「父さんが枕元にプレゼントを置いていてさ」「そんなわけないだろう。サンタはいるんだぞ」疑いもなく純情に、そう返したあの頃が恥ずかしい。黒歴史だ。桜屋敷は、この過去に触れたくない。少なくとも今は、口にしたくなかった。
 同時に、どれほど両親が『サンタ』の存在はいると隠して夢を見させ続けた努力が、身に染みてくる。幼い桜屋敷がガッカリしないよう、配慮という配慮をしていたのだ。クリスマスプレゼントも、桜屋敷が伝えてなくても手紙に書いた内容を用意している。この遠回りであるものの確実に用意するという積み重ねが、如何に愛されていたかを告げる。
 黙る桜屋敷に、××は覗き込んだ。
「薫?」
「なんでもない。そうだな、親がバラすというパターンもあるぞ」
「やっぱり。まぁ、普通だとバレるまで『サンタはいる』って思うもんだよね」
「あぁ。一本貰うぞ」
「どーぞ。あ、もうイチゴ味しかない」
 レジ袋を漁る音と××の呟きに、桜屋敷の目が行く。見れば、自分の髪色に近い。(まさかな)そう思いつつ、味の感想をいう。
「ストロベリー味は美味いぞ」
「知ってる。だから買ったんだし」
「そうか」
 ポリッと最後の一本を食べる。チラッと××を見た。
「味でか?」
「うん。ストロベリーチョコも美味しいからね。抹茶も同様」
「確かに、美味いがな」
「なに? あぁ、うん。なんとなくわかった」
「色が気に食わん」
「色はどうしようもないじゃん。じゃぁ、百歩譲ってほうじ茶」
「それなら許そう」
「抹茶より、好みは分かれそうだけど」
 ビリッと裂いた袋から、一本取り出す。××の口に運んだそれを見て、桜屋敷は最後の一口を押し込んだ。スタンダードなチョコレート味が、口に広がる。
 咀嚼し、ゴクンと飲み込んでから××にいった。
「もう一つ、貰えるか」
「ん? いいよ。というか、薫?」
「なんだ」
「それ、ポッキーゲームの食べ方なんじゃ?」
「質問に答えてやったんだ。当然、その礼は貰う」
「ポッキーゲームで?」
「半分くらいいいだろ」
 許可が下りる前に、自由になったクッキー部分の持ち手を噛む。そこからガブリと食べ進め、唇との距離が空いたチョコレート部分のところで噛み切った。
 ポキリ、とポッキーが折れる。持ち手とストロベリーチョコは桜屋敷の口に、折れたストロベリーチョコが××の口元に残る。
 スッと、桜屋敷の折った痕に手を伸ばした。そこを指で押して、口の中で食べ進める。
「薫ってさ」
「なんだ」
「意外と、強引に出ることが多いよね」
「悪いか」
 奪ったポッキーを食べ終え、桜屋敷はもう一つ食べた。


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