沖縄のクリスマス in 疑問

 北海道・本州・四国・九州・沖縄──他に南国諸島などがあるが、それらは全て『日本国土』だ。同じ『国』に所属するからこそ、文化や祝日も同じものを使う。カレンダーに記載される内容も、仏滅やら六曜を除いては、全て同一の基準を用いている。それでも、北や本州と南とでは土着文化が使う。方言かって同じだ。それは古くの戦国時代や蝦夷征討まで歴史を遡ることができよう。
 そう××は難しいことを考え始めたが、それは今の疑問に関係ないと気付いた。Sia la luce≠フオーナーシェフ、虎次郎が出した賄いを食べる。残った材料で作ったデザートだ。ジェラートであり、虎次郎が一から作った試作品ともいえる。一口掬えば、イチゴの甘酸っぱさが広がる。シャリシャリとした食感が、キィンと頭を冷やした。蜂蜜の甘さも、ちょうどいい。一方、薫といえば今回も白ワインだ。酒を一口飲み、今日一日を自分に労わっている。対して、虎次郎は黙々と店を閉める準備をしていた。
 時刻は深夜十一時過ぎ。日が昇る時間帯に会えない分、こうして用事があれば虎次郎の店に集まることが多かった。××は仕事から抜け出せる範囲で、薫は接待などの延長で滞在もしくは愛機の充電のための立ち寄りなどである。虎次郎は自分の店が集合場所となっている分、そこから動くことはない。精々、自分の店を経営する上で重要な仕事をする限りだ。「お前も食うか? 今日付けのイチゴ」「要らん、といいたいところだが。今日だけは貰っておいてやろう」「気に入らねぇ態度だなぁ!」「出すだけ出して没収するなッ! 脳筋ゴリラ!」「この店は俺がルールなんだよ! ドケチ眼鏡ッ!!」「だったら店の前に書いておけ!」「てめっ!! 勝手に盗るんじゃねぇよ!」「客に料理を出すのは当然だろう」「そりゃ、客にはな!!」「今日付けのイチゴなんだ」「あぁ、ジャムにしても余っちまうからな」そもそも使い切れる量じゃない、とボヤく虎次郎の前で、薫が食べたイチゴの感想を零す。「うん、甘酸っぱい」AI書道家は味にも煩いようだ。
 そのようなやり取りのあと、××は尋ねた。
「そういえばさ、沖縄のクリスマスってどういうの?」
「ん?」
「なに?」
「あっ、沖縄のクリスマスってどういうものかなって。雪降らないし」
 なにせ沖縄に来て初めての冬だ。本州ほど着込まないにせよ、秋の涼しさと夜長程度の寒さはある。『ホワイトクリスマス』の概念もなさそうなのに、どう祝うのだ。本州生まれの本州育ちの××は、疑問に思う。それを虎次郎と薫は疑問に思った。
「なにって、別に変わらないだろ?」
「文字通り、雪は降らないけどな」
「やっぱり。クリスマスデートとかはするの?」
「そりゃぁ、勿論。デート向けスポットもあったりするぜ? 今度、一緒に行ってみようか!」
「でも滑ったら通報されるんでしょう?」
「当然だ。というか、ナンパするなッ! ボケナス」
「どこで誘おうが俺の勝手だろうが!! 卑怯眼鏡はすっこんでろ」
「お前がすっこんでろ! 原始人!!」
「重箱隅突きピンクはあっち行ってろ!」
「なんだと?」
「やるか?」
「望むところだッ!」
「へぇ」
 ガツンッ! と互いの額が激突した直後に、××が場違いな声を出す。自身のスマートフォンで調べ、沖縄の有名なスポットを調べていた。その声色に、互いに相手の行動を阻害しようとする。薫は虎次郎の襟首を掴み、虎次郎は薫の肩を掴んだ。睨み合う状況は解かれない。××はスポットの概要を読みながら呟く。
「よく考えてるよね。観光業者。ハートに絵巻みたいにするの、日本人の俗信を捉えてると思わない?」
「ちょっ、と、その辺り、は、わからないッ、か、なぁ!」
「愛だの恋だの現《うつつ》を抜かす輩が釣られるからだろッ!」
「そうなんだ。確かに、恋は盲目だと藁にも縋るような思いになっちゃうからね」
「さっさと離しやがれ! 卑怯眼鏡ッ!!」
「ならお前が先に退《ひ》けッ!! 卑怯ゴリラ!」
「真似すんじゃねぇよ!!」
「そっちこそ真似するな!」
「お前の方が先に真似したんだろ!」
「そっちだ! ボケナス!!」
「それを上手いこと引き寄せて、今も盛り上げてるの、控えめにいってもすごいよね」
「話がちっとも聞けねぇだろ!! さっさと退《ど》けよ!」
「お前に話しかけているわけじゃないだろ!! 寝言は寝て言え!! ボケナスッ!」
「あぁ!? なんだって!?」
「やるか!?」
「望むところだッ!!」
「いや、独り言でいいから。話の分かる人なんて、相当いないし」
「えっ!? そ、そんな悲しいことを言わないでくれよ。ガッティーナ。君がそんなことをいうと、俺は悲しくて胸が引き裂かれちゃうよ。なぁ、そんなこといわず、俺にもう一度話してくれないか?」
「なにをほざくかッ! このタラシゴリラがッ!!」
「うーん、先に気持ちだけは受け取っておくね。ありがとう、虎次郎。うん、気を遣っててくれて」
「俺は本心でいったんだぜ? ××。そう意地悪なことをいわない」
「不愉快だッ!!」
「ッ!! い、ってぇなぁ!? 急に鼻に裏拳入れてくんなッ! 暴力眼鏡!!」
「お前が目の前で口説き始めるからだろうがッ! ボケナス!!」
「あ!? 嫉妬とは見苦しいなぁ! だったらお前も口説けばいいじゃねぇか!! 薫!」
「お前と一緒にするな! ボケ虎次郎!! 表へ出ろ! どちらが上か、わからせてやる」
「おぉ、望むところじゃねぇか! 勿論、負けたら覚えているだろうな!?」
「お前に負けるつもりなどない!!」
「いってろ!」
「うん? なにか、勝負するつもりなの?」
「あぁ!」
「無論、勝負の内容はコレだ!」
「って、なぁに自分の得意分野で仕掛けてんだッ!? この卑怯眼鏡!」
「三秒で片を付けてやる。さっさと筆を持て」
「誰がこんな不平等な勝負に乗るかッ! 陰湿眼鏡!」
「だったら、お前の負けということだな! 虎次郎!!」
「んだと!?」
「あぁ!?」
「あーあ」
 ぐぎぎ、と無言の睨み合いが続く。××は付き合いきれなくなり、ジェラートをまた一口食べた。溶けかけている。薫と虎次郎の喧嘩もまだ、終わる気配がなかった。


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