ある日の話(じょ)

 最近知ったことだが、視聴率を上げるためにコスプレして動画を撮るらしい。そういう文化が、スケートボードのストリート文化にあったということだ。「虎次郎も、そういうつもりで?」「んー? アハハー」笑って流された。どうやら、答えたくないことらしい。
「だったら、私もなにか奇抜な服装をしようかな? 注目を集めそうな」
「奇抜って。別に、今のままでも良いと思うぜ?」
「あ。『奇抜』っていっても、シャドウみたいなレベルだよ? 虎次郎と薫のは、うん。まだ仮装に収まるから」
「どういうフォローの仕方? けど、暦やスノウも普段着に近いだろ? 充分、今のままでも大丈夫だと思うぜ」
「うん、ありがとう。でも、面白そうだとは思わない?」
「俺は他の誰にも、キミのそんな姿は見せたくないかな」
 どうしてこうも、すぐに口説く。ムッとすると、虎次郎が申し訳なさそうに眉を下げた。「ごめんって」そうもすぐに謝られると、二の句も継げなくなる。
「じゃぁ、とりあえずスナップビデオは撮るとして」
「撮るのかよ。なぁ、それって決定事項?」
「うん。やりたいリストに上がっていることかな。で、撮るとしたら足元?」
「だろうな。スケーターならテクニックを見る」
「つまり、足元から攻めた方が良い感じ?」
「だな。でも、普段のままでも充分素敵だぜ?」
「スナップビデオを撮るにしても?」
「それはちょっと止めてほしいかな」
「なんで?」
「世界中の人に、キミの姿を見られるわけだろう?」
 まーた口説きのモードに入った。とはいえ、配信する以上そうなるだろう。モグモグと食べる。「まぁ、ネットには公開しないけど」「『けど』?」うっ、いつになくマジな方のトーン。虎次郎から貰ったものを食べながら、考える。
「趣味では、撮ってみたいかな。ほら、記録用! どこで失敗したかも見れるし」
「あぁ、それは便利だよな」
「『でも』?」
「個人で楽しむ範囲には収めてほしいかな。仮面を被るなら、まだ安心できるが」
「顔出しはダメってこと?」
「まぁ、特定されちまうだろ?」
「それは、そうだね」
「女ってだけで危険なんだから、ネットに上がったら猶更だろう? だから、スナップは撮るにしても公開はダメだ」
「でも、SのSNSだとたまに私の滑ったときの映像が流れているんだけど」
「Sのルールが適応する限りは、大丈夫だろう」
「それもそうかなぁ」
 愛抱夢の裁量次第か。判断に苦しむ。パクッと一口食べた。


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