「おにーさん、暇?」

ぼりぼり海苔煎餅を大口開けて食べながら、けらけらとテレビみたかと思いきや、思いたったように彼女は言った。


「ねえ、暇?」

暇と決めつけて強引に詰め寄る彼女は、ずるい。











「暑くない?」
と言いながら、慣れた手つきで空調を変える。彼女の顔は、オレンジの電灯の光に照らされた。


明日、暇?という言い方だったはずなのに、生返事をしたら、じゃあ着替えていこっかと軽いのりで言われたのが20分程前だ。車もってるのなんて知らなかったし、ましてこんな品のあるセダンだとか。



「びっくりした?私が免許持ってただ何て」

どうやら思っていたことは、感づかれていたらしい。仕事で使うのか聞いたら、昔の男の、と笑いながらいう。そして、ラジオからこの時間にはそぐわない甲高い女の声が響いた。









車を走らせて何分経っただろうか。彼女は、着いたと一言言い、車を出た。俺も彼女に続く。



着いたのは、海だった。暗くてよくわからない。けど、波の音は聞こえる。


「誰もいねえな」

「まあ、こんな時間だしね」


海風で彼女の髪が靡いた。彼女は髪を掻き分けたが、その顔は凛として落ち着いたまた俺の知らない顔だった。


「ばかだな、私。もう、何もかもどっかいっちゃえばいいのに」

そういった本人が何処か遠くへふらっと行っちまう気がして、俺はどうしようもなく不安になったので、彼女の手を引き、強く抱きしめた。



「おにーさんってさ、やっぱり優しいね」

「あったりめーだろ」



好きな女には、誰だって優しくする。だから、一人で泣くなんてみみっちいことするのは、勘弁してくれよ。