今でこそ私はここでの居場所をもっているが、入隊当初は結構な色眼鏡でみられた。陰口もいわれたし、嫌がらせも多々あった。副長である土方でさえも、入隊を認めていなかった。ただ、沖田は違った。私と他の隊士に対する態度は変わらなかったし、いじめとかそういう類のものにはむしろ面倒臭いような感じだった。
だから、私は沖田をかなり信頼していたし、尊敬もしていた。実際に隊士の中でよく話すのも彼だし、隊を組まされるのも彼が指揮する一番隊が多かった。
なのに、最近はどうだろう。
よく目が合うことは確かだ。ただどう反応していいのか分からなくて思わず逸らしてしまう。それが原因なのかよく話すのに、何だか避けられている気がするのだ。
実際に昨日だってそうだ。何故わざわざ志村道場にいったのだろうか。私がいつもの駄菓子屋に呼びにくるのが嫌だったのか。しかし今まで彼があそこの駄菓子屋をサボり場として変えることなど今まで一度もなかった。
何だか知らないうちに沖田との距離が離れていくような気がしてならない。表面上はあまり変わらずとも、何処か心の奥底では離れてしまっていると。
ああ、不安で仕方ない。見えない不安こそ最も恐ろしいものなのだ。それにしても、何故こんなにも私は不安でならないのだろう。
「どうですかね?」
と隣の男の方へ向いたものの、いきなりうっ、と言い出し、白目をむく。手を動かして水を要求しているので、湯呑を渡せば喉を上下に動かし、一気に飲み干した。
「あの、私の話聞いてました?」
「ああ、あれだろ。暗黒大陸についてだろ?俺が考えるに、あれは「違います」
あ、そうだっけ。という目でこちらを男は見るが、全く違う。ああ、やっぱりこの男に相談した私が馬鹿だったかなと少々後悔する。しかし、この程度のことで近藤や土方ましては他の隊士に相談するのも気が引けて、少なからずとも私と沖田をしっているこの男坂田銀時しか思い浮かばなかったのだから仕方がない。
「やっぱり、もういいです」
「ようするに、高校生特有のあれだろ?」
「だからさっきから何いってるんですか」
「まあ、どうにかなるだろ」
こっちは本気で相談しているのに、どうにかなるとは全くどういうことだろうか。
二人分にしては多い勘定を支払い、それじゃあまた、と別れの挨拶をすれば、名前ちゃんも意外と可愛いところあんのな、と頭をぽんぽんと優しく撫でられた。意外という言葉に引っかかかったが、素直に受け取っておく。
「鈍い女に、うぶな男」
坂田さんが何か言ったような気がして、振り返ったが彼は背を向けて片手をひらひらさせるのみだった。そして、なぜだか、悪寒がするのだった。