昼下がり。昼食後でお腹も満たされた上に、よい天気。名前は期待を裏切らず、軒先でふあ、と声に出るまでの大きな欠伸をしていた。こんなに暖かい日は心ゆくまで昼寝をしたいものだ。そう考えていると名前は人の気配を感じ少しだけ顔を強張らせた。だがすぐにその人物が予感したものでないと分かると、すぐに先程のぼけっとした引き締まりのない表情に戻った。

「大丈夫、副長じゃないですよ…ったくどんだけ険悪な仲なんだか」

「なあんだ。ザキ君か」

名前は胸を撫で下ろした。山崎は全くこの人は、と思った。ただでさえ、沖田隊長や副長にこき使われる毎日だったのに名前が来てからというもの、山崎の日常はさらに悪化した。副長の当たりは激しくなるばかりだしオマケに名前にはミントンやってる所を副長にチクられたり、ミントンの羽を隠されたりなどからかわれる毎日だ。

それでも。
それでも、山崎は名前を憎めなかった。勤務中にも関わらず隣で既にうたた寝をする名前を憎めるはずもない。子どものようにすぅすぅ寝息を立てて眠る名前に向けられた山崎の目線は、年下の女にというよりは親心に近かった。


「ほら、そろそろ副長来ますよ」

そう声をかけたらビクッとし慌てて名前はキョロキョロと辺りを見渡した。周囲を確認すると、

「もう、ザキくん。いないじゃん!驚かさないでよね!はあ、本当に何であんな人が副長何だろう。冷蔵庫の中マヨネーズで一杯で気持ち悪いし、煙草臭いし、言い方キツイし、瞳孔開いてて恐いし」

本当に名前としては副長のことは死活問題なのだろう。名前は眉毛を八の字にして、はあ、と大きく溜息をついた。

「あ、でもそろそろ辞めておいた方が…」

「あれじゃあ、絶対モテないと思う!大体一々いちいち細かすぎるもん。ちょーっとジャンプ読んだ位で騒ぐしさ!大体、そんな見張ってても攘夷志士出てこないんだしいいじゃんね!本当に小姑並に細かいと思わない?ザキくん!」

山崎は段々と近づく明らかに怒りが込められた足音にビクビクしていた。

「い、いや〜俺はそんなこと思っていないというか…」

そんな挙動不審の山崎もお構い無しに名前は話を続ける。

「はあ?あんなマヨネーズ男の味方するわけ?大体ザキくんジャンプ派じゃん!」

「…で、どうなんだ。山崎」

やっぱり。
角から出てきたのは鬼よりも鬼の顔をした副長だった。その瞬間名前の顔が真っ青に青ざめた。名前は早速逃げようとするも副長はそれを予想してたがごとく首根っこを捉えた。

無論この後名前と並んで山崎も理不尽に怒鳴られたことは言うまでもない。

*
*
*

17時30分。名前は退勤時間とともに慣れた足取りで屯所を抜けた。その足取りは軽く鼻歌さえも聞こえる。そして角を曲がりながら「坂田さんに慰めてもらお」と小さく呟いた。瞳孔がかっぴらいた目でその始終を見られているとも知らずに。

名前が向かうのはもちろんネオンが煌めく街、歌舞伎町だ。その街で水商売を匂わせる訳でもないただの女が1人で陽気に歩く姿は何とも異様だった。名前は周りからどう思われているかなんて気にしない。そして名前にとってルールや伝統何てものは煩わしいだけだった。自由に自分の生きたいように生きその時が楽しいとさえ思えれば良かった。歌舞伎町で一番安いホテルでも、名前はただ坂田銀時とセックスさえできれば良かった。

一方で、銀時は安いホテルで済む名前を便利な女と思うよりは、汚くて狭いホテルで少女のような名前を抱く余りに背徳的状況に快感さえ覚えていた。

今は本当の自分ではない。そう自分に言い聞かせてるのに、今日も同じ時間同じホテル同じベッドにいる。

呆れた顔をする銀時にかまわず名前は仰向けに寝た銀時に覆いかぶさるようにキスをした。自分が満たされると銀時を見つめ「好き」と呟きけらけらと笑った。

酔った勢いかよ。
それが妙に悔しくて、銀時は覆いかぶさった名前をベッドに押し付けた。頬を赤らめながら、期待を胸にわくわくした表情を浮かべる子供のような名前の顔は今からやる行為とは馬鹿みたいにかけ離れている。自分の顔を見つめているはずなのに、焦点を定まらせず全く自分を見ていない名前に嫌気がさして銀時は強引に事を進めた。

それさえも名前が望んでいることを知っているにも関わらずだ。
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