土方は隣を歩く名前をちらりと見た。名前は落ち着いた様子でまっすぐ前を見つめていた。こうしてみると、どこも変わらぬ普通の女だと思う。本当に見た目だけは…。

名前が入隊して数日立って改めてだが思ったが、名前と俺は気が合わない。というか、むしろ最悪の相性なのだと思う。

真選組とはどこ吹く風。冷蔵庫にあったマヨネーズは勝手に捨てるやら、見回り中は目を離すと直ぐにどっかいっちまうやら、交通整理中総悟と一緒にバズーカぶっ放すやら、勤務中平気で居眠りするやら、正直何をするにしてもめちゃくちゃな女だ。

また、この数日で名前の分かったことといえば、剣の腕前だ。実力は中の上ぐらいか。まあ他の隊士には劣らない程度。だが女であることを考慮すれば上々だろう。一応これだけ実力があれば戦力にもなりうるし、それに女の隊士がいればより潜入捜査がしやすくなる。まあ、名前に潜入捜査を任せる日など来ないと思うが。

「あ!」

隣で歩く名前が小さく叫んだ瞬間、嫌な感じがした。どっか行くなよのどの字が出る前に、名前は兎みたいにかけていく。咄嗟に腕を掴もうとしたがそれは虚しくすり抜けられた。舌打ちをし名前を追いかけるが、中々追いつかない。…こいつ何で馬鹿みたいに無茶苦茶足が速いの?


*
*
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名前は数日振りに特徴的な頭髪を見かけると見回り中だったことはとうに忘れて、それを目指して一目散に駆け出し、それに後ろから飛びついた。


「さっかたさーん!」
「うわ!お前いきなり何?こわっ!」
「久しぶり!」
「いや久しぶりっつーか、お前その制服着てるってことは…」
「知ってるの?てか、この制服堅っ苦しくてさー」

銀時はようやく合点がいった。どうりで廃刀令のこのご時世に女が真剣を持っていたはずだ。

「お前あの後大変だったんだからな。廃刀令の御時世家まであれ持って帰るのどれだけ気遣ったか。それに木刀差してないと何か締まらねえしよォ」

「それはこっちの台詞ですよ!どれだけ副長に怒られたことか!大体私の名前はお前じゃなくて名前です。ヤってる時、あんなに名前呼んでくれたのに覚えてないんですか?」

「ばっか!そんなことデカイ声で言うなよ!」

「馬鹿といったほうが馬鹿ですー!というか私の刀返して下さいよ。あれじゃないと私どうにもしっくりこなくて」

「お前が勝手に持ってったんだろがコノヤロー」



「見つけたぞ、名前。またこんなところで油売ってやがって」

名前は声を聞くと眉間に皺を寄せ、明らかに嫌そうな顔をした。だがそれは銀時も同じで何で俺は奴に会っちまう確率が悪いんだと自分の運の悪さに呆れた。またそれと同時にこいつは相当仲が悪いらしいと銀時はすぐに察した。まあ名前の性格と奴の性格を照らし合わせれば当然のことといえば当然のことだが。あーあ。いつにもなく瞳孔がかっぴらいてやがる。


「よりによってこいつと一緒とは。お前らどういう関係だ」


「それは、ひとば…むぐっ「こいつが勝手に突っかかってきただけだ。ったく、近頃のケーサツっつうのは子守もできないのか?」

咄嗟に女の口をおさえたが、明らかに女は不満げだ。いきなり何するんだと女の目が言ってる。ただでさえクソ面倒くさい野郎なのに、その男を前に女との関係をバレたらたまったもんじゃない。


「んだと?」
「あ?聞こえなかったのか?税金泥棒」
「誰が税金泥棒だ。公務執行妨害でしょっ引くぞ」
「うわー。不当逮捕だよ、コレ。白昼堂々と不当逮捕してるよ!」

「あー!もう!うるさい!うるさい!面倒くさい!」

名前の声が割って入った。口には出さないが、大体誰のせいでこうなったと2人は思った。


「ほら。土方さん、もうレ●ィース4始まりますよ」

名前は、土方の裾をちょいちょい引っ張る。土方は正直これで決着がついたとは思っていなかった。しかし、頃合いもあり、はあと大きくため息をつきながら、「これ以上馬鹿に付き合っても仕方ねえしな」と呟き歩き出した。

もちろん、銀時はその言葉に食いつかないわけがない。「馬鹿って言った方が馬鹿ですー」と言い返すが、名前が土方を宥めるように引っ張ったため、銀時の言葉は虚しく響き渡って終わった。

畜生と銀時が呟き、自分も帰路につこうとした時、名前が小さく振り返ったのが見えた。そして、隣にいる男にばれぬよう口だけを動かす。




今夜、この前の賭博屋で



そして最後に、自身の刀に少し触れ、親に内緒で悪事をはたらく子どものごとく微笑んだ。
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