せせら笑う声に、しゃらりと揺れた簪、盛大に牡丹が散りばめられた衣も行燈の光に照らさらば、陳腐なものに成り下がる。お面を張り付けたようなその不気味さに惹かれてしまうのは男の性か。撫で回すその手つきは自らの巣を縫う蜘蛛のようで反吐が出る。蛇のように躰をくねらせれば、恍惚の表情で蛞蝓のような生臭い舌を這わした。





自らの吐息さえも恨めしく感じるここには、自分の求めるものなど何ひとつない。いつかは色褪せてしまう花魁などという地位も、欲に塗れた愛もいらない。ただひとつ願いが叶うとするならば、私は午後5時に東の空にひっそりと現れる星になりたい。誰に構われることなく、ただじっと小さく輝く星に。





酒が回ったのか、男は先程からぴくりとも動かない。それを見計らってか、禿が失礼しますと入って次の客を告げた。男の口を半開きに寝ている様は滑稽で、そのまま一生醒めぬ夢に浸かれればさぞ幸せだろうと思うのであった。













「久しぶりでありんす」


深々と装飾品で重い頭を下げた後、顔をあげると、男はいつものようにキセルを片手に開かれた障子のずっとその先を見つめていた。ゆっくりと彼に寄り添い膝下に置かれたもう一方の手を自らの手に舐めとるがごとくじっくり絡め、うっとりした眼差しで彼の横顔を見つめながら、晋助様と口で紡げばようやくこちらを向く。血走るような瞳でぎろりと蔑み、にやりと皮肉な程に口角をあげたと思いきや、ふうっと真正面から煙を浴びさせられた。





私に一泡吹かせたつもりだろうか。高杉は至極満足そうにしたり顔をする。何食わぬ顔で顔をあげたらこの男はどうなるだろうかと内心苦笑するが、それは余りにも彼のプライドを傷つけるのでやめておいた。


技と右の口元を少し引き攣るように微笑すれば、高杉はククと喉を鳴らして笑った。過激派攘夷志士と聞いている高杉晋助もこの程度かと少し呆れつつ、ムキになったように少し眉をつり上げ、悠長に咥えたキセルを引っ張り出して本投げ、お留守となった口に少し強引に舌を忍び込ませれば、水を得た魚のように嬉々として私の舌を吸い寄せた。それから、散々と好き勝手に口内を堪能させてやれば、腰に手が回ってくる。



くぐもった息と共に唇が離れた。瞳だけ遅らせて上を見れば、高杉と目がかち合う。紫がかった髪から頬まで手を滑らせれば、その手を掴んで、床へと縫いつける。



きゅっと瞑った瞼を開ければ、こちらを見下して、右眼を細めて化け狐のごとく卑しく笑う男がいた。顔をほんのり綻ばせて手玉を取らせてやれば、獣を飼い猫のごとく手なづけたも同然。


そう、あなたも所詮私の掌でころりと転がる金平糖。遊女に遊ばれているうちが華なのだと、目の前で快楽に溺れるがままの男を密かに嘲笑した。


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