「………あかん、終わらん。」
7月31日。扇風機の風だけが癒しの蒸し暑い部屋の中で、金造はこの世の終わりのような顔をして項垂れた。
そう、もうお分かりだろう。夏休みの宿題が終わらないのだ。
写そうにも、写すの防止とかで答案自体が配られていない。
終わらなければ、父親や兄に確実にド叱られる。
「きーんぞ、…ってなんやその絶望!って感じの顔。しんきくさ。」
金造の気分のせいなのかなんだかどんよりした部屋に、花子がひょっこりと顔を出す。
アイスを右手に、団扇を左手に持った姿は夏を満喫していますといった感じで、思わず金造はきっと睨み付けた。
「うわ、睨まんといてよ冗談やないの。」
「………なあ、花子は宿題終わっとるんか?」
「はあ?当たり前やん。もう31日やえ。」
「ナイス花子!ちょお見して!」
救世主が現れたと言わんばかりに顔を輝かせ、花子の肩をがっと掴む。
その衝撃にアイスを落としかけた彼女は「ああっ、ちょお危な!」と慌てた。
「ええー…、私柔造さんに怒られとうないんやけどー。」
「レベル上げやったるわ。」
「よし乗った、ちょお待ち持ってくる。」
「あ、花子。」
一旦自分の家に引き返そうとしていた花子が、呼び掛けに振り返る。
瞬間、ちゅ、と額に温かい感触。
「な、な、な…!!」
「おおきにな!」
あの子と真夏とソーダ水
(それは、中学二年の夏の出来事。)
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