メッフィーランドからの帰り道。寮辺りで唐突に朔夜が「あ、私ちょっとやらなきゃいけないこと忘れてたから先帰るね!」と走り出した。
いきなりのことに止める暇もなかった日向は、ぽかんとしたまま固まる。
―――固まっていたため、走り去る朔夜が電柱の影にウィンクを残していったことには、気付かなかったようだ。
そしてその電柱を通りすぎる時、何者かに腕を突然掴まれた。思わず叫ぼうとすると、後ろからその口を塞がれる。
「っ、んんー!」
「俺や俺、叫ぶなアホ。」
「ぷはっ、な、き、金造!?」
耳元での聞き慣れた声に、慌てて振り向く。確かに、そこに居たのは幼馴染みの志摩金造だった。
「こないなとこで何しとるん?変質者に勘違いされるえ。」
「………。」
むぎゅ。
日向の言葉に、金造は不機嫌顔で彼女の頬をつねった。
それに日向が「いひゃい!」と喚くが、彼はますます不機嫌そうにつねる。
しばらくつねってから手を離すと、ガシガシと自身の頭を掻きつつ苛立った口調で話し出した。
「お前が自分で取り来い言うから待っててんけど?電話もメールもしたんやぞ、携帯見ぃひんなら携帯の意味あらへんやろドアホ!」
「………や、やって充電切れとったんやもん…堪忍やで。」
「お前ほんま充電ちゃんとしぃひんよな。つーか、どこ行っとったんや。」
「朔夜ちゃんとメッフィーランド。」
めっちゃ楽しかったえ!と彼女が笑うと、また不機嫌そうに金造は頬をつねる。
「いひゃいいひゃい!許ひてー!!」
「ふはっ、間抜け面。………許すのに二つ条件がある。」
「もー、ひりひりするわ…ってなんや?条件?」
「おん。まずはさっさとノート貸せ。んでも一つは、今度俺と外出かけることや。」
「………そんだけかいな?」
「おん。」
真顔で頷く金造に、思わず日向は吹き出した。なんだか拗ねてるみたいに見えてしまったから。
そんな日向を睨んで、「ほら、早よノート持って来んかい!」っと捲し立てた金造の頬は、少しだけ赤かった。
クスクスと笑っていた日向が、もしかしてこれは所謂デートなのではないかと考えてしまって顔を真っ赤に染めるのは、部屋に戻ってからのことである。
その恋に落ちる、白旗のご用意を
(彼女が自覚するまで、あと―――)
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