これが僕の愛です/高尾 | ナノ
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自分の想いを自覚した後、ベッドの上でごろごろごろごろしてたら、気持ち悪いと妹に一蹴された。
自覚したばかりの想いは、思ったよりも重いくせに、ふわふわとまだ居場所が決まっていないみたいに心の中で弾みたがる。心のふちにあたってはバウンドしてごろごろと移動するのと連動するみたいに、行動も挙動不審だ。
それでも部活で疲れているのは変わりなく、いつものようにぐっすりと眠ってしまったらしい。目覚まし時計と母さんのダブルパンチでたたき起こされ、急いで家から出てじゃんけんに負け、リアカーを漕いで、朝練に参加する。いつもと同じ風景だ。

真ちゃんと一緒にしゃべりながら教室に入ると、いつものように挨拶をしてくるクラスメイトに軽く返す。そして足を向けて自分の視界の良好さと、これまでの習慣を少し恨んだ。


「よー、名字ちゃん」


よー、の部分まで言ってから昨日のことが鮮明に思い出される。苗字を呼んだとき、違和感がなかっただろうか。普通に聞こえていることを願う。これまでは朝練が終わればすぐさま橙のところへ行って、しつこく絡んでいたのが普通だったから、体がいつの間にか覚えてしまったらしい。

 
「……高尾」


彼女の顔を窺えば、表情は少しだけ強張っている。昨日俺が勝手にずばずば言い放ってそのまんまだった。あれでは俺がきっと一方的にキレている状態だ。とりあえず謝らなければならない。このままぎくしゃくした状態でいるほうが俺にとってはきつい。


「あー、昨日はごめん。機嫌悪かったんだわ」
「いや、高尾の言ったことは本当のことだから。謝らないで」


本当に申し訳なさそうに言う。いや、俺はお前にそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。


「本当にいいって。てかそれよりも昨日みたいにまた来いよ」
「…あー、気が向いたらね」
「そこは即答しねえのかよ!」


俺の普通のテンションにようやく表情の強張りが解けてきた。
そこ流されねーのがお前の短所だよなー、とかぶつぶつ呟いていると、彼女の色素の薄い髪が少しだけさらさらと揺れた。


「高尾、ありがとう」


一瞬頭がフリーズする。ふんわりと笑った彼女のわずかに細められた瞳が小さく俺を見据える。
キーンコーンカーンコーン、と間延びした朝のチャイムが響き渡る。それと同時にこれまた間延びした担任の声が、がらがらと扉の音をたてながら教室に響いた。それを合図に皆が自分の定位置に座り始める。軽く彼女に手をあげてそそくさと自分の席に戻った。そして自分の席について、机に頭をつけて突っ伏した。


「しんちゃーん」
「…なんだ」


俺の一つ前の席である真ちゃんに話しかける。なにやら本を読んでいたみたいで嫌そうに本を閉じて俺に聞き返す。そこで無視をしないのが真ちゃんのいいところだ。


「俺、これから生きていけないかもしれない…」
「は!?いきなり何を言い出すのだよ!」


珍しく焦ったような声を出している。俺は相変わらず机に突っ伏したまま、はあと溜息をついた。


「もうまじで、あんなの反則だろ…」


自分自身の想いを自覚したらこんなにも過敏に反応してしまうのか。ちらりと彼女の方を見れば、そんなことは露知らず隣の友達と談笑していた。俺は再び溜息をついた。








今日の午後に体育があった。男子はサッカー、女子は何かのオリエンテーションで教室らしい。からりと晴れた初夏の日差しは眩しく、俺は部活でしているように前髪を止めるために赤いカチューシャをした。


「なー真ちゃん、あいつノーガードじゃね?」
「何をやっているのだ、俺のチームのMFは」
「まあ普通の体育だからなー、仕方ねーよ」


バスケ部で一応レギュラーを獲得している俺と真ちゃんは、普通の生徒より基礎の運動神経は上なせいか、サッカーなのにサッカー部の連中と同じ扱いを受け、ミニゲームのチーム分けは力が均等になるように俺と真ちゃんは別々のチームに振り分けられた。そして、今はお互い休憩時間だ。自分のチームを眺めながら、手持ちぶさたに足を投げ出した。


「あー、バスケしてえ」
「放課後になったらできるだろう」
「今したくなったの!」


座っている段差の後ろに手を置き、足をぶらぶらさせる。空を見上げれば眩しすぎて白くなっている太陽が見えた。雲一つなく真っ青な空が広がっている。
ふと校舎が視界に入る。自分のクラスの窓は開け放たれてカーテンも開けられていた。そこに色素の薄い見慣れた髪の毛が見えて思わず、体を起こして窓をみた。ぼーっと頬杖をついて、欠伸をかみ殺しているのが見える。人より少し良い自分の目がこんなところで役に立つとは思わなかった。
ぼーっと見つめていると名字も気づいたらしく、こっちに顔を向けた。ぶんぶん手を大きくふると、呆れたように少しだけ顔を緩める。そして手を小さくあげたかと思うと、小さく手をふってくれた。
それがなんとも可愛くて、言葉に出来ない。


「あーもう!真ちゃん!!」


隣にいた真ちゃんにアタックすると、ぐらりと揺れる。けれどさすが高身長、共倒れることなく真ちゃんの踏ん張りで支えられた。


「いきなり何するのだよ!」
「俺もう幸せすぎてどうにかなりそう」
「朝からお前はおかしいのだよ!というか暑いのだよ離れろ!!」


引き剥がされそうになるが、それに構わずぎゅーぎゅーくっついていたら、ピーッと笛が鳴ってこれまで動いていた選手の動きが止まった。それを聞いてぱっと真ちゃんを離す。


「突然くっついたり離れたりなんなのだよお前は!」


眼鏡をくいっとあげながら眉間にしわを寄せて俺に言う。


「真ちゃん、サッカーしよ!」
「ついさっきバスケしたいと言っていたのはどこの誰なのだよ」
「そして真ちゃんに勝つ!」


ガッツポーズをして腕をぶんぶん回す。鳴った笛は選手交代の合図だ。


「勝負はバスケでなくても勝つのだよ」
「のぞむところ!」


炎天下の中、また次の笛が鳴り響いた。





(何笑ってんの?)
(見てよ。高尾がしんたろに抱きついてる。やっぱり高尾ってしんたろのこと大好きなんだね)
(高尾はアホだからねー。仕方ないわよ)

title by 喘息
20130330

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