これが僕の愛です/高尾 | ナノ
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流されるままに連れられてきたものの、やはり来るべきではなかったかもしれない。久しぶりのバスケボールがダンダンと床を叩く音が外からでも聞こえる。重厚な音は生半可な選手がつくものではないと分かる。さすが強豪秀徳。ジャージに着替えてくるからそれまでに外で待っとけと宮地先輩に言われて、おとなしく扉の前で待つ。
今更どきどきと心臓が嫌な音を立てる。私はまだバスケを真っ直ぐ見られる自信がない。楽しくやっていた時とは違う。楽しく皆の支えになっていた時とは違う。どこで、私は間違ってしまったのだろう。
体育館に現れた私を見て、きっと真太郎も高尾も驚いた顔をするだろう。高尾があんなにも誘ってくれたのに、今日初対面の宮地先輩の命令には聞いてしまったことを知ったらと思うと、胸が痛い。


「待たせたな」
「やっぱり私帰ってもいいですか」
「帰らせるか」


首根っこを掴まれて背中を押される。やっぱり私はまだ、逃げてしまう。
宮地先輩が入ってきたのを見て、堂々と見ることはないがやはりスタメン、皆練習をしながらちらりと入ってきた人物を見る。その中に真太郎はいなくて、相変わらず自分には関係ないとシュートを入れている。その近くで高尾が私に気付いて、目を見開いた。それから逃げるように宮地先輩の後ろに隠れる。


「監督ー。こいつ見学させていっすか」
「いーぞー。……ん?名字、か?」


英語の中谷先生がいる。この人が顧問だったのか。


「宮地。どうやって連れてきた。キセキの世代のマネージャーじゃないか!」
「あー、流れで……」
「よくやった!」


キラキラした目で私と宮地を見つめる先生に、若干戸惑う。


「で、やっと入部してくれるのか!」
「いや、入部はしません。今日は借り返しに来ただけなんで」
「そうか、入部届を今すぐ持ってくる」
「話聞いてませんよね!?先生」


何とか説得させて体育館の隅っこに陣取る。ほかの人に交じってアップをし始めた宮地先輩を横目で見ながら、他の選手を眺める。体育館を半分に割って、半分は基礎トレ、もう半分はミニゲームをしていた。
真太郎は相変わらず3Pを決めている。最後に見たシュートより格段に成長しているのが見て取れた。いつみても、彼の3Pは緻密に計算されたこだわりがあるから見ていて気持ちがいい。高尾はあの動きからしてPGか。大柄な選手ばかりで、決して一般的に小さい方ではないのに、子供と父親くらいの差がある。その中でもその敏捷さを上手く利用して、パスを回していた。
ほう、と小さく溜息をついた。見えていないと思っていた後ろの選手にも対応して反対方向に素早く判断してパスしている。彼の眼は何か持っているのか。丸坊主でごつい先輩はインサイトでいい壁兼シューターになっているし、なかなかにいい粒が揃っていた。
ピーっと笛が鳴って選手の動きが止まり、走って監督のもとに集合した。その様は一切怠さが見られなくて、さすが伝統を誇る学校だと思った。監督が何やら指示を出しているようだ。そして終わったかと思うとばらばらと解散して座るものやら水を飲みに行く人と様々だ。休憩時間だ。
基礎トレの方もすでに休憩しているが、遅れた分を取り戻すためか宮地先輩は一人でひたすら反復横とびやらダッシュやらしている。それをぼーっと眺めていたら、後ろからとん、と肩に手を置かれた。
びくっと後ろを振り返ると、高尾と真太郎が立っていた。


「高尾、」
「名字ちゃんが来たなんて驚きなんだけど。俺ずっと誘ってたじゃん?」


へらへらと笑っているが、目は笑っていない。これは怒らせたか。


「ごめん、」
「それって何に対してのごめん?俺がずっと誘ってたのに来なかったことに対して?それとも宮地先輩ならよくて俺はダメってことに対して?」

 
畳み掛けるように私に言う。あれだけ冷たく断ってきたのに一回も怒らなかった高尾が、こんなに表面的に繕いながらも言葉を直球でぶつけてくるなんて初めてで、私は何も言えなかった。へらへら笑っていて何も傷ついてないと思っていたけど、高尾もただの人間で思うところはあったのだ。


「高尾、ちょっと落ち着くのだよ」


後ろからべしんと真太郎にたたかれて、高尾の頭がかくんとなる。


「どうせ何かのお礼かなにかだろう。見に来たのだから俺のシュートにもアドバイスしていくのだよ」
「……はいはい」


真太郎は言い出したことは一切曲げることはない。仕方なくそう返事すると、まだ何か言いたそうなしかめ面な表情をしている高尾を引きずりながら、さっさと帰って行った。


「……なんか変なことになってるみたいだな」
「誰のせいだと思ってるんですか」


アップは一通り終了したらしく、滝のような汗をかいてタオルを手にした宮地先輩が私の横に立った。


「俺のせいだな。てかお前が来ないのが悪い。あの様子だと監督の誘いも蹴ったな」
「華麗に蹴りましたよ、そりゃ」
「そんなとこで自信張るなバカ」


ばこんと頭を叩かれる。真太郎といい大輝といい、なんで私の周りのバスケ馬鹿は手が早いのだろう。


「……高尾が、あんな顔するとは思いませんでした」


遠くの方で、なにをやらかしたのかまた真太郎に頭を叩かれている。それにぎゃーぎゃー喚いているのはいつもの高尾で、少しだけ勝手に安堵した。


「おー、俺も初めてだわ。おもしれーな」
「他人事だと思って…。同じクラスで気まずいじゃないですか」
「断り続けたのが悪い」


正論すぎて言葉がでない。


「名字さ、なんかバスケに恨みでもあんのかよ」
「…なぜですか」
「お前が俺ら見る目、すげー冷てえ」


今もそうだぜ。そう言う宮地先輩は興味なさげに、真太郎の方を見ながらスポドリを飲む。そういう余裕ぶったところがずるい。


「……そう見えますか」
「ああ」
「元からこんな目ですよ。気をつけます」


そう言って私は体育館の中央に向かって歩き出した。


「早くさっさとやっちゃいましょ、先輩。私早く帰りたいんですよ」
「ああ?先輩に指図してんじゃねーよ。なんで今年の一年はこう自己中が多いんだよ、轢くぞ!」


そう言いながらもちゃんとボールを持ってついてくるところが先輩の可愛いところだ。
冷めた目と心を隠すように、少しだけ光から目を逸らした。

title by 花畑心中
20130320

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