これが僕の愛です/高尾 | ナノ
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桜もあっという間に散り、緊張した面持ちだった入学したての生徒たちも少しずつ雪が解けるように表情が柔らかくなりつつある。

もともと人見知りをしない俺はすでにクラスを超えてそこそこ目立つ奴らとは話せるようになった。クラスでも男子も女子も喋っていない人はもういない。部活でもクラスでも一緒だから、自然に緑間と一緒にいることが多くなった。
緑間と同じ学校同じクラスになり、打倒緑間でがむしゃらに頑張ってきた俺にとって、色々な葛藤はあったものの、目をそらすことができないほど、やっぱり緑間は凄くて、この秀徳でこいつの支えになれればと素直に思った。
ラッキーアイテムとかおは朝とか指包帯とかなのだよとか、異様なまでのバスケながらも、それは「天才」と言われる裏に着実な「努力」の言葉があるからこそだということを知った。
最初は敵同士ではなく味方になってしまい、これまでの俺の目標はなんだったんだと、絶望に近い感情が心に沈殿したけど、一見奇怪に見えて冷たく見える緑間も本当はただ素直になれないだけで真面目なだけだと、隣にいて知った。
それでも自己中なことに変わりはなく、いつものように緑間のあとにひっついて廊下を歩いていた。部活も終わり、今日は珍しく自主練はしていかないらしい。「どこいくんだよ」と問えば、「いいから黙ってついてくればいいのだよ」の一点張りだ。一見怒っているのかと思ったが、俺に対して怒っているわけではないらしい。しかし顔はいつもより険しい。
自分たちの教室を通り過ぎる。練習で疲れ切った足は、歩けないほどではないがこれから帰ることを考えるとあまり無駄な歩数は稼ぎたくないのが本音で。窓を見れば、とっくに日は赤から濃紺に変わり、最終追い出しの放送がなる。いつもより早いといっても、多くの部活はすでに終わり生徒は校門から出ている。
何も考えずに真ちゃんの後ろをついてきたら、図書室の扉の前についていた。確かに真ちゃんは本を読むが、この時間に来るのは初めてだし第一俺がついてこなければいけないものだろうか。いや、きっと言われてなくてもついてきているだろうけど。


「図書室になんかあんの?」
「……人に用事があるのだよ」
「人!」
「……何をそんなに驚く」
「いやー真ちゃんに俺以外に友達いたんだと思って」
「失礼なのだよ。だが、今から会うのは友達、というよりは腐れ縁のほうが近いのだよ」
「ふうん、で、俺なんでついてったほうがいいの」
「……お前が役に立つかもしれんからだ」


俺の返事を待たずに扉を開ける。引き戸ががらがらと音を立てる。電気がまだついているから中は明るい。しかし、人気はなく埃っぽい本の匂いがする。入ってきょろきょろするも、人がいない。


「ねえ真ちゃん人いなく「もう閉めますけど、」


俺の言葉をさえぎって聞こえた声は、女子の声。高すぎることもなく、低すぎることもない綺麗な声だ。発声法がちゃんとしているのだろう、決して大きな声ではないのによく通る。
聞こえてきた方向に体をひねると、そこには色素の薄い髪の毛を肩ほどに垂らした同じクラスの女子生徒だった。


「……名字さん?」
「え、高尾くん。どうしたのこんなところで」


俺のとなりににゅっと真ちゃんが現れる。緑色の髪を揺らしながら俺よりもずっと高い身長が隣に来る。


「名前、」
「……そうゆうことね」


彼女の名前で呼ぶ真ちゃんに驚きながらも、何かを悟ったかのように額に手を当てて溜息をついている彼女と、相変わらず真顔の真ちゃんを交互に見る。


「え、え?もしかして真ちゃんの彼女?」
「「違うよ/のだよ!」」


ばっと俺のほうを見て二人ともが睨む。あまりの息のぴったりさに驚きながらも、それを口にしたら余計怒られるのだろうなと瞬時に察して口をつぐむ。


「名前は同じ中学なのだよ」
「なるへそ」


ぽんと手のひらを打って見せる。


「…高尾くんそれ古くない?」
「高尾がずれているのはいつものことなのだよ」
「それきっと一番あんたに言われたくないと思うよ」


じとっとした苦笑いを真ちゃんに向けながら話している。同じ中学だからといっても、彼がここまで普通に話す女子は初めてみた。


「で、わざわざ図書室までやってきてどういうつもり?」
「分かっていることを。お前はこんな所で燻っているような輩ではないのだよ」


彼女は不機嫌そうな顔を隠さず忌々しげに言う。彼氏彼女は冗談だったが、なかなかに今彼らは険悪な雰囲気みたいだ。
それにしても意外だった。同じクラスの橙さんが真ちゃんの腐れ縁の人物だったなんて。俺の知っている限り真ちゃんと話しているところを見たことがない。
俺が彼女と話したのはノートを集める時に話した程度だ。見た目の割にさばさばしているのは声のトーンや表情で気づいていたが、ここまではっきりと物怖じせずに言うような人だとは予想外だ。


「私がいなくてもこの学校なら大丈夫でしょう」
「打てる策は打っておくのが得策なのだよ。人事を尽くさないでどうする」
「私ごときいなくたってここには優秀な人たちがいるでしょうが」


埒があかない口論に、沸々と苛立ちがみえる。


「まあまあ真ちゃん、そんな怖い顔で女の子睨まないの」


へらりと笑って手を真ちゃんの前でふる。個人的にはこんなに他人に自分の意見をぶつける真ちゃんは珍しいから、幾らでも見ていられるんだが。


「高尾くん、こんなやつ早くつれてっちゃってよ」


 髪の毛と同じ色素の薄い瞳を俺に真っ直ぐと向ける。


「確かにそうだけどさ、そもそもなんで口論してんの?」


俺話読めてないんだけど、そう手を首の後ろに当てて言えば、呆れたようにぽかんと口を開けて俺を見つめる名字さん。あ、その顔の方が眉間にしわ寄せてる顔より何倍もおもしろい。


「……しんたろ、話してなかったの」
「…話すタイミングを計っていたのだよ」
「しんたろの馬鹿」


そういって彼女より何倍もでかい真ちゃんの腕を叩く。


「馬鹿という方が馬鹿なのだよ」
「いや今回は馬鹿だよそしたらなんで高尾ここにいるのさ」
「高尾にも関係があることだからだ」


断じて俺は悪くないという顔をして眼鏡をあげる真ちゃんに、はあと溜息をついている。


「で、名字ちゃんはなんなわけ?」


ずれてもいない眼鏡をもう一度上げながら言う。


「キセキの世代のマネージャーだったのだよ」


は、と言われた言葉を頭の中で繰り返す。彼女は困ったように嫌がるように目を逸らして、小さく息を吐いた。

title by メルヘン

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