これが僕の愛です/高尾 | ナノ
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今日は朝から散々だった。
真太郎の影響で見始めたおは朝占いは最下位だった。何をやっても失敗する日です。自分が見せたくないと思っている一面も他人に見せてしまうでしょう。アイロンを手にしながらその占いの内容に心の中で突っ込んでいた。何があってそんなことを予言できるのか。意味分かんない。ラッキーアイテムは黄色のボールペン。ありそうでなかなか手に入らないものを提示してくるなんて性質が悪いと前から思っていた。案の定行く前にさっと部屋を探しても、黒や白や赤のボールペンしかない。真太郎じゃあるまいし。そう思って家を出た。
自転車に乗っていたら、横から出てくる車に引かれそうになった。漕いでいる最中に靴紐がほどけた。わざわざ止まるのが面倒で靴紐をそのままにして漕いでいたら、紐がペダルに絡まって動かなくなった。そうやって止まったら昨日残っていた小さな水たまりに足を突っ込んで靴が濡れた。ただでさえ低血圧で朝は機嫌が悪いのに、これまでにないほどぴりぴりして学校についたのを自分でも自覚した。
高尾と緑間と友達に散々あきれられ、心配されて、少しだけ気を切り替えたものの、授業が始まってそれもどこかへ行ってしまった。ちょうど出席番号的に授業中あたる日だった。毎時間あたる。誰もが通る道であり、日常であることくらいわかっているけれど、朝の出来事と占いのせいで、どれもが今日の運の悪さを嫌というほど象徴してくるようだ。
どんどん言葉すくなになっていく私の隣で、はあと小さな溜息をつきながらも静かに見守ってくれた友達に感謝だ。昼になるまでに私は心底疲れ切っていた。


「弁当は忘れてきてないよね」


もう何があっても信じない風な呆れた顔を、ありさにされる。さすがに弁当は忘れていない。これで忘れていたら、自分が今日死にますと予言されても素直に聞いて身を捧げるだろう。こんな自暴自棄になるほど、私は精神的打撃を受けているのだ。多少ネガティヴ思考でも大目に見て欲しい。
そう考えながら弁当の蓋をあけると、いつもと大分違うおかず達の配置に目をぱちくりさせた。きっと鞄への入れ方がまずかったのだろう、ウインナーはそこかしこに出張し、味をまき散らし、お浸しの上には卵焼きが乗って色が綺麗に黄緑色に染められている。真っ赤なナポリタンはところどころから這い出て恐怖現象になっている。ここまで弁当が崩壊したのは生まれて初めてだ。


「うわあ、名前どんなふうに持ってきたのよ」


私の弁当をのぞき込み、目をまん丸くさせる。やはり少し荒れ方は酷い方らしい。


「……なんなのおは朝。まじで怖いよ。一種の神様だよ宗教だよ」
「何訳わかんないこといってるの」


私の方を見る友達の眼はもう憐みしかない。


「うっはー。今日はとことん悪運だな名字ちゃん」
「うるさいどっかいけ高尾がいると底辺の運も0になる」


相変わらずひっでーの!!と大声でぎゃいぎゃい騒いでるが、表情はにやにやと気味が悪い。


「てか底辺って自覚してんのな」
「そりゃここまで続くとするでしょーよ。なんなのおは朝私に恨みでもあるの、てか私と同じ星座の人に恨みがあるの、辛すぎるでしょ」


人に恨まれるような行為は、酷いものはしていないと思うが、善行ばかりしてきたかといえばそんな自信はない。洗い物するの忘れて誤魔化したとか、校則違反とか、そんな社会的悪行(?)を入れたら心当たりがありすぎる。神様はそういう行動を注視するのだろうか。だったら神様なんて糞くらえだ。あ、この態度が問題なのか。


「黄色のボールペンはちゃんと肌身離さず持っているのか」


真太郎が眼鏡をくいっと上げる。朝見かねて私のために手に入れてきてくれたプーさんの黄色調のボールペン。どこから手に入れてきたかは聞かなかった。上に乗った蜂蜜の壺がノックになっているペンは、私の筆箱の中に入っている。


「やあ真太郎、ラッキーアイテム持ってても最下位ってこんなに酷くなるものなんですか」
「肌身離さず持っていなければならないのだよ。筆箱に入れずに胸ポケットにさせばいい」


ちなみに今日の蟹座のラッキーアイテムは日焼け止め。梅雨の季節に日焼け止めとか女子でも塗る人と塗らない人でわかれるというのに。本人が持っていたのか知らないが、アクアリッチ、と洒落た字体で書かれたシンプルな白い容器が少しだけ胸ポケットから見えた。アクアリッチなんておしゃれなものを真太郎が持っているはずがない。きっとこれも手に入れてきたな。もし本人が持っていたら怖い。私なんか女子なのにまだ買ってなくて、かろうじて家にあるさらさらしない日焼け止めを使っているのだ。持っていないと信じたい。


「しんたろって肌白いよね」
「いきなりなんなのだよ」


ぼーっと頬杖をつきながら言う私に、気味が悪そうな視線を向ける。なんでもないといいながら弁当に箸をのばす。いくら荒れ放題になっていたとしても味はいつもと変わらず美味しい。このまま一日が終わればいいのにと切実に願った。








放課後になった。なんとか一日過ごせた私は今日はどこにもよらずに真っ直ぐ家に帰ろうと鞄にぽんぽんと教科書やらノートやらを投げ込む。やっと終わった。なんだか疲れが半端ない気がする。すでに高尾達は部活に行っているし、あかりも自分の部活に行っている。教室には誰もいなくて、廊下も人は少ない。私はその中さっさと戸締まりを確認して外に出た。私こそ、早く帰りたかったけれどもさすが私の運、先生に帰り際用事を頼まれて一人で残っていたのだ。ここまで来たらおは朝を尊敬すらする。
やっと家に帰れると、じわじわとした実感が足の裏から身体にのぼる。他人には分からないだろう、この私の喜びを。グラウンドから部活のかけ声が聞こえる中、私は校門に向かって脇目もふらず歩いていた。すると、校門に近づくにつれ、部活のかけ声ではない、甲高い浮ついた声たちが聞こえてくる。その声はどんどん歩くにつれ近くなっているきがする。中学時代、何度も聞いたようなテンションな気がして、嫌な悪寒が走った。
校門付近が見えてくると、何故か女子生徒だけがちらほらと集まりつつある。きゃあきゃあとどこか一点に集中しているようだ。それはなんだか誰かを囲んでいるように見える。面倒事に巻き込まれるのはこりごりだと、極力気配を消して、出来るだけその群集から離れたところを早足で抜けようとした。が、しかしそれは叶わなかった。


「名前!」


一瞬肩がびくっとなって立ち止まる。あまりにも聞き慣れた声と、その周りに集まる女子の声、それが自分の記憶とリンクして一つの人物が頭に浮かぶ。そしてその時の思い出が一緒に蘇ってくる。それまでの身につけた習慣が私に告げていた。はやく、逃げるのが得策だと。


「名前!お久しぶりっスー!」


こちらにかけてくる足音がする。そして振り返らなくても分かる沢山の刺さるような視線。


「あ!なんで逃げるんスか!せっかく会いに来たのに!!!」


急いで走り出したものの、逃げられるはずがない。あっさりと手を掴まれる。


「…なんで来たの」
「なんでって、名前に会いに来たに決まってるじゃないっスかー!」


懐かしそうにべたべたと私の頭を撫でたり、手を握ったり、本当に嬉しそうだ。しかし、反対に私の表情は無表情だろう。


「ねえ、涼太今日のおは朝何位?」


眩しすぎる金色というより黄色の髪の毛を、女子さながらにさらさらと揺らして笑顔を振りまく。太陽で透けた髪の毛の隙間から、きらりとピアスが覗く。海常と書かれた青い制服が黄色と良く映える。なぜ、ここに黄瀬涼太がいる。


「今日俺一位だったんスよー!!」


やっぱり私はおは朝なんて尊敬しない。大嫌いだ。

title by 降伏
20130426

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