これが僕の愛です/高尾 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「へー、本屋の帰りに黒子たちに会ったのか」


彼女がエビフェレオを食べながら頷く。もう遅いからご飯を食べたいと言い出して、火神と橙だけがハンバーガーを食べている。俺もポテトをつまみながら、見ていると飯が食いたくなる。


「あ、そうそう。ちょっと高尾たちテツの方に座ってくれない?」


橙がまだ残っているバーガーをおいて、お手拭きで手を拭いた。


「は?なんで」
「ほらしんたろも一緒に」


なんだかごそごそと鞄を探りながら手でひょいひょいと促す。渋っていた真ちゃんを引きずってたたせ、正面の席に座る。黒子が寄ってくれて空間があいたが、四人が座るとさすがに窮屈だ。小さい黒子は影の薄さを含めて余計潰されそうになっている。


「はい、これ持って」


そうやって机越しに手渡された二冊の冊子。


「え、これ黄瀬?」
「そうそう。今日ファースト写真集の発売日なんだよね。予約したのを取りにいったの」


手渡された大判な写真集。雑誌よりも素材の良いさらさらとした表紙を手が滑った。真新しい紙とインクの匂いがする。
真っ黒な背景に黄瀬の黄色に近い金髪と、銀色の片耳ピアスが目立っていた。白のワイシャツ一枚に黒の細いネクタイを緩めるように手をかけている。少しだけ視線をそらした細めた瞳と、首と顎の細い曲線美が余計切なく見せる。色気がやべえ。男の俺でもそう思った。人気モデルらしいというのは噂できいていたが、実際にそのモデルの側面を見せつけられて、なんだか戸惑った。


「発売する前から出る出るうるさくってさー。今回の誕プレはこれにしようと思って」
「自分の写真集貰って喜ばねえだろ」


火神がつっこむ。確かにその通りだ。自分が写った写真集を貰っても仕方がない。


「写真集はあげないよ」


当たり前のように言って、携帯を取り出して構え始めた。


「んー。テツが持ってるのが一番嬉しがるかな。とりあえずテツが写真集持って。高尾が内側にいるから、ほらもう一冊持って」


写真集の他に手渡されたもう一つは雑誌だ。今度は反対にカラフルポップな色合いで、少しだけ弾けた服装をしている。緑のサングラスをかけて、青と黄色の雫を跳ねさせたような柄のサルエルに、白地に派手な柄がプリントされたロックTシャツ。靴は紫のハイカットでとにかく色が眩しい。もしこれを普通の奴が真似したら、一歩間違えたらダサいだけでしかない。それでも似合ってしまうのだから、何とも憎らしい。


「Zippoじゃん」
「高尾良く知ってんね。涼太の誕生日だからね。いつもは買わない雑誌も買ってみましたよ」


雑誌と写真集を持って橙の方を見る。ぎゅうぎゅうと彼女に押し込められたせいで窮屈だ。横の真ちゃんが不機嫌な顔を隠そうとしない。


「しんたろ、スマイル」
「嫌なのだよ。たかが黄瀬のために笑うなどと無駄だ」


相変わらずむすっとして眼鏡を反射させているが、ちゃんと写真に写るようにと出来る限り体をこちらに寄せる努力をしているところが可愛らしい。


「おまえら俺も大概きついんだからな!」


一番端っこの火神が苦しそうに言う。隣を見ればマイペースにバニラシェイクに手を伸ばそうとしている黒子がいる。


「はいはいこっち見て。はいちーず」
 

怠そうに言われたかけ声に、何とか反応してピースサインを送る。


「はいおっけー。いいよ戻って。ありがと」


携帯を確認しながらなにやら打っている。その手はさらさらと動いてこちらを見ることはない。


「もしかしてこれ黄瀬に送ったのかよ」
「そうだけど?今年の誕プレはこれでいいでしょ」
「名前さんが写れば良かったじゃないですか」


シェイクを手に持ちながら黒子が言う。彼女の隣よ席に戻りながら、雑誌を袋の中に入れる。


「私は嫌だよ。涼太はテツが写ってたら満足でしょ」
「おまえ、写真だけがプレゼントっていいのかよ」


呆れたように火神が言う。すでに何個目かしれない食べかけのバーガーを持っている。どうやら誠凛は食い意地がはっているやつが多いらしい。


「雑誌も写真集も買って私の財布は火の車だよ。これだけお金かけたの珍しいんだから」


確かにちらりとみたとき写真集は3000円弱していた。それに雑誌が加わるのだから学生で一日にしては相当な出費だ。


「そもそも今更涼太を見るために金払うっておかしな話だよね。嫌になるほど見てきてるのに。タダでくれればいいものを」


ぐちぐちいいながら氷をばりばり食べている。


「出版側は少しでも稼ぎたいというのが本音だろう」
「それでもさー、万年金欠な女子高生に写真集買えってひどいわ。次会ったらなんか奢らせよ」


勝手に納得している。いつも冷たくてひどいけれども、その言い草に拍車がかかっている気がする。手についたかすを口で舐めて綺麗にペーパーを畳んだ。


「お前いつもより毒舌きつくなってねえ?」
「そう?」


小首を傾げてこちらを見る姿はとても可愛らしいが、こいつの中身は全然可愛くない。なのにそれが可愛く見えてしまうというのが惚れて色フィルターがかかるという奴だ。


「これでもましな方ですよ」


というか、普段これくらい毒舌じゃないんですか?
黒子が同じように小首を傾げて俺の方を見る。気弱で流されやすいタイプかと思っていたが、それは誤りらしい。そう見えて黒子自身も毒舌タイプで、意志はしっかり持っていそうだ。なかなか頑固で扱いにくいだろう。


「もー少しましだと思うぜ?」
「キセキで一、二を争う口の悪さです」
「まじかよ」


キセキがどんなやつか知らないが、きっと癖のあるやつばかりだろう。男子が殆どの割合を占める中で一、二、を争うのは女子としてはちょっとおかしい。


「テツ余計なことは言わんでよろしい」
「えー!いいじゃねーかよ!」
「うっさい高尾。そろそろ帰るよ明日も学校だし」


時計を見たらなかなかの時間。いくら男子だといえども過保護な親だったら結構心配する時間帯。
皆がごそごそと身支度を整え始め財布を出し始める。


「名字ちゃーん、男ばっかだし奢るよ」
「そんなの申し訳ないよ」


俺の言葉をあっさりと流しながら、未だ鞄の中を探っている。変なところが律儀だ。ようやっと取り出した財布を持って立ち上がってぞろぞろと皆がレジの方へ行く。二人飛び抜けてでかくて体つきも良く、俺も平均よりは高い身長だから、間にいる黒子と名字がとても小さく見える。


「580円になります」


そうにこやかな微笑みを向ける店員さんが素早いスピードでレジを打つ。それを聞いて財布を開けた名字の顔色が一瞬真っ白になって固まった。


「どした?」
「高尾…お金を…貸してくれませんか」


どうやら写真集やら雑誌やらでお金が底をついていたらしい。それくらい確かめて食べろよ。確かめずに食べるところが名字らしいが。


「それだったら奢るよ」
「いいよ悪いよ!」
「お金が足りなくて払えないのはどこの誰?」


そういうと困ったように目を逸らす。


「こういう時は男にかっこつけさせとけばいーの!」


そういって自分の分も含めてお札を一枚出す。そこからマニュアル通りにスムーズな手捌きでそのお札をレジに取り込んでお釣りを渡してくれた。
マジバを出て空を見上げる。すでに真っ黒な空は辛うじて夏の大三角形が見えた。明日もきっと晴れる。


「じゃー私こっちだから。ありがとね高尾」
「おー気をつけて帰れよー」


ぶんぶんと手を降る。俺と彼女の家は正反対で二人だったら無理矢理にでも送るけれど、黒子と同じ方向らしく、今回は仕方なく引き下がった。
同じように振り返す二人を見て、チャリアカーを引きながらぐちぐち二人で言い争っている火神と真ちゃんを笑いながら帰った。

title by 喘息
20130414

- 9 -