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「はー、やっと終わった」


ぐりぐりと肩胛骨を回して伸びをすれば、これまでのいやなストレスが抜け落ちていくようだ。


「ねー唯、このあとアイス食べにいこ」
「いいよー、てか部活は?」
「馬鹿だな生徒会長、私たちはもう引退してるっつーの」
「あ、テスト前にだっけ」
「だから今はフリーダム!束の間の休息は遊びまくるわよ!」
「へいへい」


 前期の期末テストが終わった。これでカフェインとの相棒生活ともおさらばである。


「みょうじ、おまえどうだった」
「数学死んだ」


 休み時間、がやがやと水を得た魚のようにクラスメートが動き出す。動く気力のない私の席に光がきてくれていたが、私の前の空いた席に、でかい男子が座って黒で視界がいっぱいになった。


「はあ?今回簡単だったろ」
「宮地さんそれは三年全員を敵に回すお言葉よ」
「なあ、中川どうだった?」
「うーん、今回前よりはできるんじゃない?皆」
「うそん光私の味方じゃないの」


 親友という後ろ盾がなくなったらもう後がない。


「ほらみろざまあ」
「煩い金髪!」
「馬鹿じゃねーのチビ」
「色抜きすぎで禿げればいい」
「お前まじで轢くぞ」


 ばちんと一発デコピンをお見舞いされた。テスト開け一回目だと下らないことを思いつつ、額のじんじんと熱い痛さが引かない。くっそ、こいつ全力でやりやがった。
 痛みで悶絶している私を鼻で笑いながら、宮地は言葉を続ける。


「化学の最後の問題どうやって解いた?」
「化学…化学…。あれでしょ最初モル濃度求めてそっから電解度からのなんちゃらみたいなやつ」
「やっぱそのくそめんどいやり方しかねーよな」
「本当に面倒だったあれ。ぽよたんいっつも最後えげつない!」


 ぽよたんとは化学を担当しているぽっちゃりハゲの男の先生である。ぽっちゃりハゲといっても性格は良く、生徒の相談は親身になってくれるし、授業も分かりやすいから人気の先生なのだが、いつもテストの最終問題が、癒し系キャラに反してとてつもなく厄介なのである。知識自体は基礎なのだが、それをこれでもかとばかりに盛り込んで、計算も面倒だという一番嫌なタイプの問題だ。それでも、へらりと笑って謝るから憎めない。


「答えは」
「35,103」
「一緒。宮地と一緒なら大丈夫でしょ」
「まあ俺もお前が一緒ならあってんだろ」
「てか宮地、国語の漢文て範囲だったっけ」
「は、そうだろ。今更何言ってんだよ」
「道理で。漢文の範囲忘れてたわ」


 今回の範囲古文だけで嫌に少ないと思った違和感に納得がいった。


「ばかじゃねーのお前。前も現国範囲ちげーとこ読んできてたじゃねーかよ」
「だってさー国語は元々対策しないし日本語だから何とかなるでしょ」
「……数学は壊滅的に出来なくて、国語はいい加減に解いて何とかなるお前の脳内回路が理解できないわ」
「うん私も宮地は日本語も満足に読めないなんて知って驚いたわ」
「ちげーよ!!日本語出来ても国語の能力は違うのが普通なんだよ馬鹿!」
「へーそうなの?」
「、そーだわ!」


 ばこん、と頭をはたかれた。相変わらず手がでるのが早いことで。


「んな!今の私悪くなくない」
「うっせー、お前の返し方がわりーんだよ」


 んな理不尽な。
 いつもよりは軽かったはたかれた場所をさすりながら、目線をあげれば黒板に書かれた予定がみえた。


「そういえばさー宮地、今日Mステじゃね?」
「そうなんだよ!!新曲!」
「ガチなテスト開けプレゼントだね」
「俺この日のために今回頑張ったわ」
「さすがドルオタおつー」
「今日は許すみゆみゆに免じて許す」


 そんなことを真顔で言うんだから笑うしかない。


「やばい宮地きもい」
「うっせー」


 お馴染みの頭鷲掴みがくる。しかし、いつもやられている手でそうそう私も捕まるつもりはないのだ。
 ひょいと避ければ、さっと宮地の腕は空振りして間抜けな動きをとる。


「お、まえ……」
「誰がおんなじ手でいつも引っかかるかっつーの!」


 そう言って笑ってたら、頭にずしんと石を乗せられたような重みと歪みが来た。


「……おんなじ手には引っかからねーって言ったよなあ?もういっぺん言ってみやがれ。ああ?」


 痛みに顔を歪めながらうっすらとあいつを見れば、綺麗な顔に笑顔を貼り付けた般若が見えた。


「……みみみみみやじ!みやじさん!!」
「あ?高々に笑いやがって。ばっかじゃねーの。俺の腕はお前と違ってなげーんだよ!!」
「いやそこで自慢はさまなくていいからね!」


 手をばしばし叩いたら、やっと離してくれた。なんだか最近さすれば、すぐに痛みが消えるようになった気がする。
 宮地の力に慣れてきたのか。自分やばくないかそれ。


「みゆみゆさあー、最近黒髪になったじゃん」
「そうだな」
「私茶髪のショートのが好きだった」
「みゆみゆはどっちでも可愛いわ」
「えーーみゆみゆは茶髪だわ、私の中で。だから今の私のお気に入りは、まきりんだから」
「はあ!?裏切りだろお前!!」
「なにがよ別に私ガチファンじゃないから。まきりんマジ可愛くなった」
「……まあ確かに」
「でしょ!!!!超可愛い抱き締めたい」
「お前なんかに渡すかよ!!」
「宮地はみゆみゆいればいいでしょー!欲張りだわ!」
「お前だけにはだめだわ!」
「意味分かんないし!!」


 身長の目線のせいで斜めになる火花を散らしていたら、光と大坪にお互いが首根っこ掴まれて、やむなく終了した。


(ねえねえ大坪、なんでこいつら付き合ってないの腹立つんですけど)
(……中川、笑みが怖くなってるぞ)


title by 降伏
20140208

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