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「#幼馴染」のBL小説を読む
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さらりさらりと降る雨が、静かに窓を打つ。それはとても小さな砂粒のように、心に打ち寄せては引き去る。私は雨の音が好きだ。ザーザーとバケツをひっくり返したような雨ではなく、降っているかどうかガラス越しに見るだけでは判別できないくらい細かい雨が好きだ。しかし、とふと思う。好きだといってもそれは部屋の中にいるからこそであり、外に出れば濡れてしまうし、湿気のせいで髪の毛が纏まらないのは男女問わず永久の悩みだ。幾ら傘があろうともどこかしらは濡れてしまう。なぜ横から入ってこようとするのか。いっそまっすぐストレートに水滴が落ちてこれば傘が100%機能するのに、と思う。それを言ったら友達にあんたの傘の差し方がふらふらしすぎだと笑われた。それは断じて理由ではないと、思っている。


いつの間にか空は暗くなっていたらしい。ただでさえ雲のせいで灰色立った空はすでに黒い。曇りだからと早々に生徒会室の電気をつけていたから余計に気づかなかった。今日は夏休みまでに出さなくてはいけない書類作成。夏休みがあけたらすぐに始まる文化祭体育祭に向けて、生徒会はゆるゆると四月から準備をしているのだ。最近は毎日のように居残りの日々だ。
小さくため息をついて書類を纏めた。今日はもう帰ろう。さっさと鞄を肩にかけ、電気を消して廊下にでた。
黒いコンバースを履いて外にでる。土砂降りほどではないが、さーさーと雨が降っていて、今日はバスで来て良かったと安心した。
水色基調の淡い傘をさしながら、一人で門からでようとすると、煌々と漏れる光に目がいった。もうすでに学校は閉まっているはず。私は先生からの了解で裏門からいつもでるが、普通の生徒の帰宅時刻はとっくにすぎている。


(……宮地じゃん)


しっかりと閉まらない扉の一人分の隙間からこっそりと立ってもたれ掛かる。広い体育館の奥の方で彼は練習をしていた。彼のとんでもなく高い身長も、体育館で一人だと、こんなにも小さく見えるのか。
そういえば、宮地はテスト期間も自主練習が許可されてたんだっけ。けれども、練習を見るのは初めてで、こんな時間までやっているなんて知らなかった。いつも、こんな時間まで一人でやっているのだろうか。あんな蜂蜜色の髪で口が悪いのに、彼はとてつもなく真面目だ。それは知っていたが、頭で理解しているのと実際にこの目で見るのとは全然違った。


「……みょうじか?」


どきっとして、硬直する。ぼーっと見つめながら色々と考えていたら、宮地がこっちを向いていたのとに気づかなかったらしい。なんとなく気まずくて目線を泳がした。


「もう時間とっくに過ぎてんだから早く帰りなさーい」


おちゃらけて言ってみれば、ボールを軽々と放って片づけ始めた宮地が睨んできた。


「うっせえ、俺はちゃんと許可取ってんだよ。お前こそなんでこんな時間までいんだよ」


知ってるよ、と心で呟いて眺める。滝のように汗をかいているのがここからでもわかった。


「私こそ生徒会長だからいいんですぅー」
「は、そのうぜえ言い方やめろ」


そういつもの会話を繰り広げながらてきぱきと慣れた手つきで片づけていた。


「宮地ー、ちゃんと電気と戸締まりよろしくねー。んじゃ」
「待ちやがれ」


いつの間にか近くに来ていた宮地が数メートルしか離れていない場所から声を張り上げた。


「…何」
「お前ちょっと待ってろ」
「えーなんでよ。私早く帰りたいんだけど」
「いいから待ってろっつってんだろ」


そこから動いたら轢くぞ、とお馴染みの言葉を捨て台詞に部室に戻っていった。仕方なく私は少しだけ蒸し暑くなってきた真っ暗な空を見上げた。






「……で、なんで引き留めたの?」
「お前はほんと頭よえーな」
「うっさいなー。わざわざ待ってやったんだから教えなよ」
「……こんな時間に雨の中女子が一人とか危ねえだろ」
「へ、」
「あーもう、まじ轢くいつかお前轢く」
「宮地がそんな優しいなんて……明日は吹雪だね」
「あ?喧嘩売ってんのかてめえ」
「だってそうじゃん私に優しいとか!宮地練習のせいで頭おかしくなったんじゃないの」


真顔で顔を覗こうとすれば、傘を持っていない手で頭を鷲掴みされた。ぎりぎりと力が入っている。やばいからかいすぎて本気だ。


「いいいちょっと待って宮地まじでやばいまじで捻り潰される」
「人の好意を散々笑いやがって。そんだけ口が動けば死にゃあしねーよ」
「いや死んだらだめだからね。私まだ生きてたいわ!」


ようやっと離してくれたがこめかみがひりひりする。宮地はさする私を見ながら溜息をついていた。


「なんでお前は素直にありがとうくらい言えねーんだよ」


ほら、行くぞ、と私の半歩先を行き始めた彼に必死についていく。


「………宮地ー」
「なんだよ」
「……ありがと」
「……おー」


ほら変な空気になったじゃん!とつっかかればお前の言い方の問題だ!と責任転嫁された。お互い傘をさして並びながら歩いた暗闇はいつもと比べて短く感じた。


title by 降伏
20130914

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