「でさー、いつやんだよ」 「何を?」
同じようにパイン味のアイスキャンディを食べながら言う。高尾は長い間しつこく文句を言っていたが、緑間からも俺からも木村も大坪もみょうじも何も反応しなかったら、少しだけ泣きそうな顔をしながら、食べ始めた。しかし結構いけたらしく、今はけろっとしている。
「生徒会の動画だわ馬鹿。お前の本来の用事だろうが」 「あー、それね。カメラが到着してないからまだできないんだよ」
だから皆アイスでも食べてて、そういって自分もおいしそうに食べている様子を見て、肩が外れそうになる。相変わらず緩い。あいつは元からどこかゆったりしているところがあって、人と少し時間の流れ方が違うらしい。ゆったりというか、面倒なことが大嫌いで、なんでもかんでもどうすれば一番効率的に且つ楽に物事をこなすことが出来るかしか考えていない。よくこんな思考回路で生徒会長が務まるものだ。それで何とかなっているこの学校も大概だ。 生徒会の動画とは、夏休みに中学生が高校見学に来る際に流すためのものだ。その中に含まれる部活紹介に組み込まれるらしい。
「誰がカメラ持ってくんだよ」 「福山くん」 「二年の副会長か」 「そうそう。お母さんみたいな」
いい子だよ、と言いながら食べ終わった棒をコンビニのビニール袋に入れる。
「部活後に持ってきてくれるはずだからさー。遅れてるのかね」 「そもそもお前が持ってきて撮った方がはやかったんじゃないのか?」
大坪が尋ねる。大坪も小豆バーだったらしく、少しまだ欠片が手元に残っていた。
「…だって、重いじゃん?」
その返答を聞いて頭を抱える。そして無言で斉藤の頭を叩くと、小気味良い音をたてた。
「何すんの!!」 「後輩使うな、馬鹿たれが。それくらい自分で持って来いよ」 「宮地に言われたくないね。どうせ高尾とか高尾とか高尾とかパシってんでしょ!」 「高尾はいいんだよ別に」 「え、それってどうゆうことですか!?」
俺たちの近くでへらへらして見ていた高尾が、愕然とした表情を浮かべてこちらを見る。
「確かに高尾は分かるけど。後輩指導の一環じゃん。思いやりのある先輩の行動だよ!」 「お前がやってるのはただの押しつけだかんな。副会長に押しつけんじゃねーよ」
みょうじが言った一言で、また高尾がぎゃいぎゃい騒いでいる。 そうこうしているうちに、誰かが体育館の扉から入ってきた。赤と白の派手なジャージに包まれて、あまり背の高くない短髪の黒髪が見える。
「お!噂をすれば福山くん」 「先輩、カメラくらい持ってって下さいよ」 「力仕事は男の仕事でしょ」 「そんな柔な人じゃないでしょ先輩は」 「うっさい福山、ほら黙ってセットする」
笑顔で言い放つが、みょうじの口の悪さにも慣れているのかさして気にも止めず、はいはいと小さく溜息をつきながらカメラをセットし始めた。
「で、バスケ部は適当にアップでもゲームでもしててよ」 「それだけでいいんすか?」
高尾が驚いたように口を挟んだ。
「それだけって部活動見せるんだからそれでいいだろ」 「俺らの中学の時とか来てね!見たいなかけ声とか芸みたいなのありましたよ!てか俺がここに見学来たときも、他の部活はなんかしてんのにバスケ部はしてなかったすよね!」
なんでっすか、と周りの大きすぎる身長の中で上を見上げて言う。
「うちははそんなことして人引きつけなくても十分なんだよ」 「毎年バスケ部は異常に人入ってくるからねー。生徒会としても減ってほしいとこだよ」 「確かに多いっすけど、なんで生徒会が困るんすか」 「ただでさえ秀徳の看板の一つの部活だからさー、優遇がほかに比べて凄いのね。んで、さらに人数増えたら格差は広がるばかりさ」 「要するに、予算捻出が大変になるんで会長は嫌がってるんすよ」
カメラをセットし終わった福山が後からはさむ。
「またここでもお前のめんどくさがりかよ」 「それくらいいいじゃーん。目玉飛び出るほど異常な年予算計画表を提出してくるんだから、あんたらは」 「バスケ部ってそんなかかってますかー?」
高尾が首をひねりながら言う。確かにスポーツの部活といえど、それは他の部活と一緒なのだから、バスケ部が特別異様に予算が増えているようには見えないのかもしれない。
「ここのバスケ部って部活の中で一番練習日数が多いって知ってた?」 「んー、なんとなく」 「練習日数が多いってことはその分皆練習するじゃない。当然道具は消耗激しいしもともと人数多いから余計数も代替も増えるし、それにドリンク粉末にスコア表にテーピングアイシングそれを入れるクーラーボックスにユニフォーム。遠征行くとなれば、例え学割きいて本人が多少お金出していたとしても、さらに学校からの遠征費が出てるんだよ」
校長がご贔屓だからある程度とれるんだけどねー、いろいろと大変なのよ、と大げさに肩を上下させた。言われてみれば、確かに備品に困ったことは一度もない。
「こうやって会長は言ってますけど、別に当たり前のことですし、気にしなくていいですからね」
福山が手をひらひらとさせて、俺たちに言う。
「いや、少しくらい気にしなさい。てか気にしろ」 「うっせえ、ちったあ黙れ」
ばこんと、腕を組んでどや顔した斉藤の頭にクリーンヒットする。
「あんねー、思ったんだけど生徒会長の頭殴るとは何事だ!?ばかになるじゃん!」 「今更会長振りかざしてもなんもこわかねーよ、てかお前はもとから馬鹿だろ」 「馬鹿が余計馬鹿になるっていってんの!」 「お前自分で馬鹿認めるとかガチの馬鹿だな。ばーかばーか」 「こんにゃろー!!」
腕を振りかざすも背が馬鹿でかいあいつにかなうはずもなく。軽々と避けられては余計馬鹿にするのはヒートアップしていくばかりだ。
「みなさーん、会長たちはほっといて動画とるんで、適当にバスケしててくださーい」
遠くで福山の声が聞こえたような気がした。
title by 降伏 20130721
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