「よくある話でしょう」
温い酒を飲んだ。 美味いのは変わらない。
「それが俺だったってわけか」 「まさか白髭までいるとは知らなかったんですもん」
お忍びで静かに上陸していたらしい。そして、珍しく男の姿で一人満喫していたイゾウさんを捕まえ、勝手に早とちりした私が斬りかかり、案の定返り討ちにされたのだ。
「なんで、殺さなかったんですか」
海は静かだ。 お互いの胸の内と呼応しているように。 この話を、よく平静に話せるようになったものだと他人事のように年月を想う。
「そんな気分じゃなかっただけさ」
片手を床に置いて支える彼は、ただゆっくりとお猪口に口づける。
「で、そいつはどうなったんだ?」 「誰がですか」 「本当の斬った奴に決まってんだろうが」
おめえのことだ、どうせそのまま野放しにしとくわけねぇだろう、とくくっと笑った。 知り合って数日しか経っていない相手をよくここまで買いかぶって話せるものだ。実際、彼の言い分は当たっているが。
「違う海賊にも追われていたらしく、私が見つけた時にはすでにそいつは死んだ後でした」
その時に見た黒いマントは一生忘れない。
「そうか」
そう一言、呟いて興味をなくしたように、彼の瞳には私は映らなくなった。 海は、ただ底抜けに広かった。
20150720 title by 愛とかだるい
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