銀河道中膝栗毛/イゾウ | ナノ
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「違うんです本当に人を間違えただけなんですってば!!」


マルコとエースが戸惑うような顔をして囲むのを筆頭に、その後ろの男共は剣やらのこぎりやらピストルやらもうどう扱うのか分からない武器を持ちだしている。
確かにこの人を殺そうと包丁を向けたことがある。
けれどもそれは人間違いで。いや人を殺そうとしたという事実だけであれだけど、それはちょっと置いといて。
非常に困った状態でじりじり近寄ってくる人達のまえで後ずさっていたら、ぶはっと吹き出す声が聞こえた。私も皆もそちらに向く。


「あっははははは!!!」
「……イゾウ?」


大口を開けて、笑いすぎて涙がでているのか手で拭いながらまだ笑う。


「こいつぁ、確かに俺を殺そうとしたが本当の人違いで向けただけだ。丸腰の俺の手刀で気絶してそのまま放っておいたくれェだからズブの素人さ」


だから早く殺気をしまえ、と鋭い声がする。それに続々と武器をしまっていく男達。事実を知っていたのなら、早く言ってくれればこんな事態にはならなかったのに。
それは仕返しか、茶番か。
どうやら私はおもちゃとして扱われたらしい。


「事実、おまえさんが俺たちのカゾクを助けてくれたんだろう?それにはしかたねェが礼を言わなきゃならねェ」


仕方なくというのが余計だ。
そのイゾウという奴の声を筆頭に、マルコが口を開いた。


「確かに俺らが生きてんのはこいつのおかげだよい。イゾウの件も人間違いなら、白ひげにとって悪いことは一切ないよい」
「おう!ナマエは食べもんわけてくれたんだ!悪いやつじゃねえぜ!」


いつもこんな調子なのかエースの言うことに誰もつっこみを入れない。今時子供でも知らない人から食べ物もらっちゃだめ!って言われる時代なのに。


「とりあえずオヤジのとこに連れてくよい」


ついてこい、と歩き出すマルコの後ろについて行く。周りからの視線が痛いが仕方ない。
ふらりとついてきた大きなフランスパンを乗せた男がウインクをした。






「息子たちが世話になったなァ」


ぐらぐらと大きな体を前にして、私は正座をした。白ひげも座っているのに、その大きさは歴然で首を超えて腰が痛くなりそう。


「いえこちらこそ拾って下さってありがとうございました」


もう船は出航したのかごおおと重低音が響いている。この二人がいなければ、私はまだあの島で自給自足の生活だ。


「そんな堅くなるこたァねぇ」


いやいやそんなこと、手を振りながら見上げた。三日月型のひげ(たぶん)から覗いた目が鋭く私を捉えた。それを瞬きしながら逸らすこともできずに見つめる。とって食われることはないだろう、と背中につーっと冷や汗が垂れる。


「グララララ!!」
「……は?」


私の後ろにはおそらく隊長格のお偉いさん方がずらりと並んでいる。その人等も突然笑い出した白ひげに顔を見合わせていた。


「小娘」
「……はい!」
「意外と度胸は座ってやがるらしい。ゆっくりしていけ」


未だ笑っているように震える白ひげの様子から、どうやら私は船長からお許しを貰ったらしい。


「ありがとうございます」
「だから、かてェことはいい。小娘、名前は」
「ナマエ、です」
「ナマエ、お前はワノクニ出身か?」


正座をした背を思わずぴんとのばした。


「はい、そうですが」
「イゾウと同じだなァ。イゾウ、こいつの世話はお前がしろ」
「ああ?なんで俺が」


聞こえてきた声の方を振り向けば、ついさっき銃を突きつけてきた張本人で。下ろしたままの長い黒髪を鬱陶しそうに振った。


「いや、あの白ひげさん。私別に普通の生活で大丈夫なんで、わざわざワノクニの方じゃなくても……」
「グララララ!遠慮することはねえ」


いや、遠慮じゃないんですよ寧ろ切望なんですけど。


「別に私雑用に混ぜて頂けたらそれで十分なので、わざわざ隊長さんに手を煩わせるなんて」


エースとかならいいよ、エースなら。
ほらだって、相手も嫌でしょう、間違いとはいえ昔刃物を向けた知りもしない女の世話なんて。断ってくれと目線を向けるも、そんな私の望みとは裏腹に諦めるようにため息をついた。


「……オヤジの言葉なら仕方ねェ」


ええええ!そこは髪がしがしやってる場合じゃないでしょうよ!


「えっ!」
「……俺だと不満か?」
「いや滅相もない」


近づいてきたイゾウさんに見下ろされる。
デジャヴ。


「ならお開きだな。イゾウ、任せたよい」
「ああ」


いや待ってマルコさん可哀想な顔でみるなら助けなさいよ。それに連なってぞろぞろ出て行く隊長さんたち。


「おい」
「っはい!」


未だ正座したままイゾウさんに目を戻すと、ぐいっと引っ張られて体が浮いた。


「えっ!何!」
「騒ぐな」


いわゆる俵抱きという形で私の視界は狭まっていて、腹筋に力を入れて上体を起こそうとしたら叩かれて潰れた。


「海に放り投げるぞ」


低い声に、私はただされるがままだ。女のような細腕に軽々と私を持ち上げるその力はどこから出てくるのだろう。そんなこと言ったら今度こそ殺されそうだから胸の中に押しとどめた。

私の命の行く末は、今私を持ち上げている人に握られた。


20150215
title by 愛とかだるい
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