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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
「Grazie!」
「Che ne dici di stasera?」
「Mi dispiace. La ragione ci sono circa.」


真っ赤なレッドグレープフルーツとピスタチオのジェラートが溢れそうなほどにワッフルコーンから滴っている。それを急いで舐めながら笑顔で、手を振った。
先約なんてないけども。
フィレンツェのサフランの香りをふんだんに満喫しながら、私は真っ青な空を仰いだ。





数年間の潜入が先日終わりを迎えた。組織壊滅という華々しいフィナーレ。払った代償には多大なものがあるが。
私は日本の警視庁組織犯罪対策部第三課所属の潜入捜査官だった。国際犯罪を主に取り扱っている部署だが、紆余曲折あり、私は出向という形でフランスの捜査機関に所属し、そこから潜入というなんともややこしい形での仕事をしていた。

所謂黒の組織にフランスの命令で潜入していたが、どうやら組織壊滅計画の動きが日本を中心として水面下で行われているらしい、一旦引き上げろ、その上で出向終了の命を下された。沈む前の船から鼠が逃げ出すように、私はそそくさと死体をでっち上げ黒の組織から抜け出し、フランスを経由して日本に舞い戻った。数年ぶりにマトモな日本語とマトモな堅苦しい日本のスーツを着ながら上司に話をきくと、本当に日本の公安とアメリカのFBIを中心に組織壊滅が行われるらしい。まじか。で、またこき使われるのかと思ったらまさかの「姿を晦ませ」というお達しだった。どうやら色々動いたせいで、組織と相対するのは厄介だし、NOCとしての身の安全の為にも世界各国を情勢把握という名目で休んでこいと言われた。厄介払いと特別休暇だ。
ここで真面目な人間だったら、組織壊滅に最後まで携わらせてくれ!と駄々をこねるのだろうか。私は喜んで世界に飛び出た。久方ぶりのシャバである。裏の世界では死亡している体になっているので目立ってはいけないが、それでも正義の下、白昼堂々歩けるというのは気持ちが違うというものだ。そして世界旅行を楽しんでいたら、いつの間にか組織壊滅していた。不思議な感情を持て余した。もう少し遊んでていいと言われ、束の間のバカンスをたゆたう。




冒頭に戻る。
ジェラートが半分消えた。
観光地なだけあって、外国人も多い。
ふと、黒の長髪を垂れ流している男が視界に入り、目が眩む。フラッシュバックする。
この数年、様々なことがあった。人に言えないようなことも沢山してきた。笑いもしたし、泣きもした。


「必ず、迎えに行く」


別れも、した。

もう随分前のことだ。私がまだ組織で名前も貰っていなくて、幹部候補みたいな形でちょろまかと付き人をこなしていた頃。
青白い肌に、濃い隈が常に存在していた。真っ赤な口紅が似合うだろうな、と脳天気な頭で思ったファーストインプレッション。
どこまでも無愛想な男だった。そのくせ、時たま見せる優しさが悪癖だと感じた。へらへら笑うアジアンとしてある意味で面白がられていた私は、どこか日本の風貌ながら、翠の目を持つ長髪の男と関わりを持つのは自然の流れといえた。
こんな暗い組織で、染まっているように見えて、真っ直ぐに方向を向いているように感じた。そんな人間は、大抵NOCだった。
私も人のこと言えないし、彼だって冷酷な一面がある。それでも、初志貫徹というか、同じ穴の貉の人間は、分かるものだった。

好きだと言われたこともない。愛してる、だなんてもってのほか。NOCだと互いにばらす訳もない。それでも、共にいる時間が増えていったことが、全てだったと思う。
煙草を吸いながら、突然彼は無表情で言った。


「必ず、迎えに行く」


待っててくれ、とも、何故、とも、何も無かった。多分、彼も私がこの組織の人間ではない、ということを勘づいていたのだと思う。
それに私は応えなかった。曖昧に笑って、消した。
約束なんてできるわけがなかった。彼が何者かも、私が何者かも、一切言えない人間同士。終わりすらも見えない糸の先を辿っている私たち。自分が生存中に結果が出る潜入捜査官なんて、たったの数割だ。そんな私たちはこの組織にいるたった一時の擦れ違いのおかげでいるだけで。擦れた微かな袖は、離れたら最期、この広大な世界に消えてしまうだろう。

子供の声がして我に返った。
昔を思い出して、センチメンタルになっている自分が気持ち悪い。きっと仕事が終わって感情が緩んでいるのだろう。そろそろバカンスも終わらせなければ。過剰な遊びは体に悪い。
なんだかんだ思いながらも、全て昔のことだ。昔の思い出の一つに過ぎない。二人が一緒になる結末など無いことは分かりきっていたし、結局その後彼はバレて組織を切られていた。しかもさらにその後FBIのエースだからってジンに目の敵にされて殺されてたし。でも結局生きていたらしい。なんだそれは。組織でそれをきいて少し泣いた涙を返せ。
日本に戻ったあとに、違う部署からだが同期も同じ組織に潜入していたのを知った。国の行動管轄が違ったせいか顔を合わすことも無かった。とりあえず互いに生きて帰れて良かった。壊滅計画の中心になったのがその同期だったらしく、今も忙しく後処理に奔走していることだろう。バカンスって言ったら般若の形相だった。余談である。
結局過去は過去であり、今は今である。こういうとこ、人生は強く、残酷である。

よし、美味しいティラミスとパスタを食べに行こう。美味しいものは世界を救うのだ。
そう、心の中でガッツポーズをして私は歩き出した時だった。
とん、と肩に手を置かれる。
またナンパか。好みだったらついて行くのもありか。曖昧な思考がもたげて振り向いた所だった。








title by リラン