×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



テーブルをくっつけて突然の大所帯だ。見たら私たち以外客はいなかった。中途半端な時間に加えて、そういえば今日は平日である。大人組は私と同じように休日だとして、高校生と小学生は何故だ、と思っていたら、午前授業と学校記念日で休みなのだそうだ。羨ましい。
そもそも何故ここに美和子たちもいるのか、と聞いたら、巷で噂になっているハムサンドを食べに来たのだと言っていた。あとイケメンウォッチ、と由美が言う。それは由美だけだな。くっそあの上司。
やけくそになり、好きなものを頼んでいいよと子供たちに言ったら容赦なかった。安室透のハムサンド率が高かった。私も仕方なくそれを頼み、むしゃむしゃしていた。横で餓鬼が呆れた顔でオレンジジュースを飲んでいた。


「で、そろそろ話を聞こうかしら」


お腹がいっぱいになったせいか、子供たちは餓鬼を残して寝てしまった。静かな空気に、由美の声が通る。


「あ、ははは」
「苗字刑事と佐藤刑事たちってどんな知り合いなんですか?」
「ああ、私たちは警察学校時代の同期なのよ」


あ、オフだから刑事なんて付けなくていいわよ、と由美が付け足した。
ホットのグランデサイズのカフェラテを啜る。あれもこれも安室透が作ったものだ。普通に美味しい。なんだこれ。私作らなくても良くない?と思った後に、そもそも時間配分で私の役割になったことを思い出して打ち消した。
由美に捕まった時点で、嘘は通じない。2人とも過去を知っているからだ。今の部署は隠しつつ、私は刑事として話を進めるしかない。
極力話さなくて良いように流れを見つめていた。


「へえ!だから名前呼びするほど仲良いんですね」
「まあね、最近は全然会ってなかったけれどね」


じろり、と私の方を見る由美に、あははと誤魔化す。合コンやら飲みやら全部仕事の一言で断ってたの根に持ってるな。


「ごめん」
「まあいいわよ」


レモンティーのストローをくるくる回している。根に持つと表では長いが、かといってこちらがアクションを起こせばすぐに許してくれる。
そんな様子をにこにこして美和子が見ていた。変わらない関係性。
女の店員がお冷を継ぎ足しに来た。


「ありがとう、梓さん」


店員を名前で呼べるほど、ここの喫茶店は親しみやすい店なのか。
それをぼんやりと見ていた。


「あ、苗字さん、でしたよね?」
「は、はい」
「どうして珈琲とハムサンドだったんですか?」
「え?」
「私も思った。苗字さん、梓さんに担当のもの聞いてたから、てっきりそれにするのかと」


毛利蘭が首を傾げる。それに、それもそうね、と周りも言い始めた。


「ああそれはね。今度来る時は梓さんの料理を頼もうと思って。口実になるでしょう?」


にっこりと対外用に梓さんに笑いかけた。それを見ていた由美がため息をつく。


「ほら出たよ。可愛い女の子見つけたら口説く癖」
「私は事実を言ってるだけですー」
「まあ!苗字さんお上手ですね!」


口元に手を当てて笑う梓さんは普通に可愛い。可愛い女の子はそれだけで正義である。
にこにこと人並みに笑う。横でオレンジジュースを飲んでいる餓鬼はよくするな、ってしらけた顔をしていた。
無意識に、他人の料理を避けていた。食べたいわけでなくとも、恐らく梓さんの料理は無害であろうと理解していたとしても、今の私には上司の料理しか意識の中で選択肢がなかったのである。
思いついたままに薄っぺらい言葉が滑る。
ごめんね梓さん、私が再びポアロを訪れることはないだろう。
梓さんは丁度休憩らしく、ご一緒していいですか?と賄いを持ってテーブルにやってきた。本当に嫌味がなく可愛くて、こんな出会いで無かったら純粋に友達になりたかった。羨ましい。


「学校の時もそうやって女の子口説いてモテてたの思い出したわ」
「そんな大袈裟な。モテてたのは美和子でしょう」
「美和子と違う路線で落とされてたわよ」


手を目の前で振った。由美はいつも大袈裟なのだ。


「警察学校って男女で学校住まいなんですよね?やっぱり恋の一つや二つあるんですか?」


園子ちゃんが目をきらきらさせている。そういう話が一番楽しいお年頃である。
それに美和子が苦笑いしながら言った。


「一応警察学校は男女交際は禁止なのよ」
「と言いつつも、あの人は誰が好きだとか、あの子が一番モテてるとか、卒業後に会うために連絡先交換とか、結局どこに行っても色恋沙汰は絶えないわよ」


悪い顔で笑う由美が重ねた言葉に、更に美和子は苦笑いし、女子高生たちは目をきらきらさせた。禁止されるほど燃えるとか言うけれど、あの厳しいカリキュラムの中で逢瀬とかはよくするなと私は思う。


「3人の中で誰が一番モテてたりとかあったんですか?」


変わらない勢いに半ば気圧されつつも、その質問に、目を瞬いて3人とも顔を見合わせる。


「そりゃあ、」
「美和子でしょ」
「由美でしょ」
「名前でしょ」


20180611
title by Rachel