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とりあえず暗くなった上司の手元のために、携帯のライトを付けた。そこだけ嫌に明るくて眩しい。しゃがんで近づく。


「見えますか」
「なんとかな。少し右にずらして固定できるか」
「了解です」


導線が張り巡らされているそれをじっと見つめながら、上司の隣にいた。上から嫌なローター音が聞こえるが、今私がいってもできることは無いし、風見とは連絡がつかないし、赤井さんが向かっていることだろう。とにかく、今は解除途中の爆弾を終わらせることが、ひいては人命救助になる。
ぱちん、ぱちん、と焦らずに切っていく上司の集中力は凄まじい。
そんな私は、束の間の時間で一気に現実に戻っていた。


「……安室さん」
「なんだ」
「何か食料持ってたりします?」
「はあ!?」
「ちょ、ちょっと手元!手元しっかり!」


思わぬ剣幕にこちらがびっくりする。


「俺は組織から逃げ出してきたその足なんだ!携帯も持ってない人間が食料持ってるわけないだろう!」
「聞いてみただけですよ……」


気が抜けた、と呆れて腕を回している。目の前の上司が大きく肩を落として溜息をついた。
1日以上眠っていたことを忘れていた。お腹がすいたのだ。いくら点滴を受けていようと、固形物は全く食べてない。認識した途端に、胃が空っぽなことを訴え始める。


「逃げる時にコンビニ寄ればよかったな」
「この非常時に腹減るお前は、なんなんだ……」
「生理現象ですもん」
「おまえ、そういうとこだぞ」
「そういうとこってどういうとこですか。ハンバーグかカレー食べたいな」
「……餃子が良い」
「ほらあ!降谷さんもお腹すいてるんじゃないですか!」
「普通は言わないんだ、普通は」
「知ってます?霞ヶ関のあのカレー屋さん閉店するらしいですよ」
「繁盛してたじゃないか」
「インドに帰るらしいです」
「店員、ペルーじゃなかったか」
「……音、どんどん近づいてきてません?」
「きてるな」


嫌な予感がして、上を見上げた。まだ暗闇は続いているのに、音だけが大きくなる。
すると突然、ガタンと大きく地面が揺れた。


「うわっ」


思わず足がふらついて、体が揺れる。流石に上司も爆弾から手を外した。
いつもなら余裕で踏ん張れるが、如何せん今は満身創痍なのを忘れていた。激痛が走りつい力が抜けた。思わず手を伸ばして上司の髪の毛でも引っ張ろうとしたら、上司が振り向いて呆気なく腕を引かれた。ぐっと体が重力に逆らって吸い込まれる。もう片方で背中を支えられた。


「おまえ、本当に大丈夫か」
「……あ、はい」


目が瞬いた。
呆れと諦めと心配が混ざった、上司の瞳が、至近距離にあった。
すぐに現実に戻る。
暫く嫌な振動と不規則な揺れが続いた、と思ったら大きな音がガコンと響いて少し消えた。
束の間の静寂が怖い。
上の天井が、剥がれている。光が差し込んだ。


「……少しだけ、明るくなりましたね」
「……そうだな」


携帯の明かりがなくとも微かに手元が見えた。もういいから、と言われ、私はまず風見に電話をかけた。が、出ない。


「どれくらいで終わりそうですか」
「あとちょっとだ。連絡は」
「出ないです」


もう一度かけるが出ない。何が起こった。赤井さんたちも姿を表さない。上のローター音は消えたが、何かを落とすような爆音が聞こえたのも事実。もしかして、ゴンドラごとかっ攫おうとして、失敗したのか。


「あと一本だ」
「早いですね」


汗が頬の横を滴っていた。流石にあの上司でも、緊迫しているのか。
ぱちん、と赤いコードを切る。と同時くらいにパネルに赤い文字が踊る。
二人して息を飲み、思わず肩を寄せ合い互いの頭を庇おうとした。
赤い文字は消え、点滅した光は消える。
何も起こらない。


「、間一髪でしたか、もしかして」
「そうみたいだな」


思わず息が漏れる。咄嗟に掴んだ上司の白いTシャツがそこだけ皺くちゃになる。私の肩を抱いて互いの腕で頭を庇っていた。思わずその姿勢で目を合わせる。
ぱっと手を離して、互いに立ち上がった。
鉄筋コンクリートの道を走り出す。


「終わったら焼肉行きましょ」
「奢る前提か」
「人の金で食う肉はうまい」
「おまえな」
「……あ、細山も連れていきましょうよ」
「なんで細山、」
「焼肉奢る代わりに手刀ですぱっと」
「お前の奢りだろうそれは。てかお前は終わったら病院送りだ馬鹿」


ローター音が響き渡る。あの爆弾のパネルに文字が出たということは、ボタンを押したはず。それで爆破していないのだから、解除したことが組織にしれている事だ。何をやり出すかわからない。
言葉通り、鉄の雨が降ってきた。


「私は風見を回収しに行きます」
「了解」
「仲良くしてくださいね、赤井さんと」
「五月蝿い」


もう最後の方は、発砲の音の五月蝿さと、観覧車が崩れていく音でよく聞こえない。
背中を向けて、別れた。


20180410
title by Rachel