×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



上司が爆弾を解除できるというので、それは任せ赤井さんが爆弾を確認しつつ、上にいくのを見送ったあと、改めて他の場所を確認した。
大丈夫だといったが、体が痛いのは変わらない。でもまだ痛覚が自覚出来ているだけ大丈夫なのだと思う。これで痛覚がなくなれば、私の体は麻痺して限界を超えても気づかない。体の警告は生きるためであり無駄なものは無い。
ある程度構造を把握して上司の元へ戻った。汗を拭いぶつぶつ言いながらとりかかる横に降り立つ。そういえばあの餓鬼どっか行ったな。


「いない方がいいですか」
「いや、変わらない」


寧ろ喋っていた方が冷静になる、とよく分からない持論を打ち出した。片手間の方が集中出来るのは器用な人間しかできない。
少しだけ薄く息を吐いた。思ったより体力が減っている。余り無駄な動きはしたくない。
細山の社用携帯を取り出し色々と操作した。幾ら社用といっても個人でもっているものだから、中身のカスタマイズは各々で慣れない。
流石に、と思い、風見に電話をかけるが出ない。出られる状況ではないのか、若しくは。
暗号で面倒になっている電話帳を眺めていた。


「苗字、本当に大丈夫なのか」
「大丈夫ですよ。自分の体は自分が1番分かってますから」
「どうせ検査前に抜け出してきたんだろう」
「……よく分かりますね」


思わず手を止めて、上司を見た。こちらを向くこともないまま、黙々と手を動かしている。


「俺だってそうするだろうからな」
「……言外に同類って言ってます?」


顔を顰めた。頬が痛い。


「そんな純粋な話なら良かったがな」
「言葉にしないことで上手くいくこともあるんですよ」
「これで上手くいっていると思うか?」


ふはっ、と鼻で笑われた。ぱちん、ぱちん、とコードを切る音が響く。


「貴方こそ、よく生きてましたね」
「そっくりそのままお前に返すよ。いつか死ぬぞ」
「私、運が良いししぶといんで早々死にませんよ」


ずっと昔、本気で死を覚悟し赤井さんに助けて貰ったあの時でさえ、死ななかった。互いに若い目映さと、怒号が頭を一瞬よぎった。
上司の薄い色素の髪が額に落ちる。


「それでも、人はいつか死ぬから」


余りにも空気のように、世界に落とした言葉だった。呼吸のようにさり気なくて、消えてしまう、呆気ない目の前の人間の言葉。目を伏せて淡々とする上司の頬は暗くてよく見えない。
私と彼の間に、永遠なる隔たりを感じ、一気に遠くなる。あまりにも、私たちは紙一重。


「そうですね」
「だから、」
「でも今私は生きてる。それが全てですよ」
「、傲慢だな」


私は、息を吹き返す。
彼はちらりと、瞳をこちらに向けてすぐに戻した。


「貴方に心配されると虫酸が走りますね」
「はあ?失礼だな」
「あんたも大概ですよ」
「死なないってか」
「いっそ殺し合いでもしてみます?」
「戯言だな」
「やだやだ、地獄諸共とか最悪」
「それこそ本物の地獄だ」


ぱたぱたと指は動かす。ひとつひとつを取捨選択する。


「ま、死んだら花でも手向けてあげますよ」
「俺もそれくらいはしてやる」


私は一瞥して、解いた電話番号をタップする。やっと、まともな人間にぶち当たった。細山なんでこんな厳重にしているのだ。意外と慎重派なのか。
恐らく、外で待機している人間の一人。


「もしもし、こちら苗字。今観覧車にいるんだけど、風見からどういう指示貰ってるの?」
『へっ、細山じゃ、ない、はっ?苗字さん?病院で意識不明じゃ……は?!』
「あー、回復して今観覧車の内部なの。上司も一緒」
『えっ、はあ!?抜け出したんですか!てかそれ細山の携帯ですよね!?』
「まあそうなんだけど」
『そうなんだけど、じゃないですよ!!!何してんすか!』


耳元で五月蝿い声が響き渡り、携帯を耳から離す。それみろ、という顔で爆弾に向かっている上司はスルーする。


「今はそれどころじゃないから話は後で。組織は目標奪還に際し恐らく上から狙ってくると予想されてる。何が起きてもいいように下で囲みなさい、有事の際は一般人の誘導もお願いしたい……とここまでは当然出てる指示だとして、風見に繋がらないんだけどどうなってるの?」
『私達も連絡貰うまで待機なんですが……』
「連絡が無いのね」
『はい、』
「はー、仕方ないわね。そもそもどうして一人で行かせたの」
『できるだけ下に人員を割いた方が、という話で、』


大人数の中で、一人二人減った増えたとしてどうでもいい話である。反対に少人数の組こそ、一人か二人かの違いは格段に出る。バイトかなにかで学ばなかったのか。接客しててもホールに一人か二人かでできることは大きく違うんだぞ。
そんなことを内心思い舌打ちしながら、過ぎたことはどうにもならない。


「とにかく、外のことは任せるからこちらの指示がなくても臨機応変に動きなさい」
『えっと、苗字さんは』
「そもそも私は万全じゃないし、真面な指示も連絡も手段が危ういから端から当てにしないで。皆なら大丈夫」
『はい、!』


適当に終わらせようと口を開いた途端、視界が真っ黒になった。


「何、」
「停電か」


ボタンを押して画面がロックに切り替わる。そこだけぼんやりと光る。
とうとう、始まった。


20180405
title by Rachel