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タクシー捕まえて、ユニクロで服をかえる。改めて鏡の前に立つと、痣も多くて自分で引いた。全部消えるのはどれだけかかるのだろう。ガウチョとゆったりとしたサマーニットで誤魔化す。腕も軽率に出せない。頭の包帯は取るわけにもいかず、適当なハットも買った。服装だけ見たら能天気な夏人間だ。あいつの携帯に連絡が来ないということは、まだ私のことはばれていないんだろうな。風見のことだから、ずらずら引きつれているだろうし、ここで風見に電話をかけたら説教で終わる。現地にいく方がいいだろう。逃げおおせたらしい上司もどうせ遊園地に向かうはずだ。

遊園地について周囲を窺う。時間はあっという間に過ぎ、気づけば日は暮れようとしている。どれだけ動員したのかと思うほど張り巡らされた公安。つばの広いハットかぶってきて良かった。素面だとすぐにばれる。


「……ん?」


目を瞬かせた。人の波を掻き分けてどこかに行こうとしている子どもがいる。その様子は切羽詰っていて普通の子どもはもっと天真爛漫にここにいるのではなかろうか。目を凝らせば、そいつはあの時の餓鬼だった。思わず顔を顰める。嫌な予感をビシバシ感じる。やーね。
そそくさと人混みを縫って彼に近づく私も、私だ。


「なーにしてるのかな」


違う所から登りきって彼を待っていたらすぐに登ってきたので、しゃがんで笑顔を作る。幽霊でも見た顔で彼が驚いて手を離すから、ひょい、っと引っ張って抱き上げた。


「っ、苗字さん」
「もう今は何も聞かないから。状況を教えて」


ばたばたして降りようとする彼にそう諭す。いくら子供と言っても小学生男子に本気で抵抗されたら痛い。今はただでさえ体中痛いのだからやめてくれ。
私の声が本気だとわかったのか、大人しくなった。私が走った方が早いでしょ、と言い彼の指さす方に走る。ここは観覧車の裏側か。
子どもは的確に状況を説明しながら、何かが仕込まれている眼鏡でどこかを見ていた。そちらの方を見ると、何かの人影が見える。「赤井さんっ!?」と呟く声が腕の中から聞こえた。案の定FBIまで来ているのか。
指さす方向に動いていく。火薬と爆弾という嫌な単語が落ちる。触らない方が良さそうだ、という互いの見解を確認し合った。ここで対等に話している時点で気が狂う。解除出来ないのか、と言われたが専門じゃないから無理、と返した。なんでも警察官ならできると思うなよ。

理路整然と状況を話してくれた少年の情報は、恐らく独自の見解も入っていて、その上でFBIの情報もある。なんて恐ろしい子供なのだろう。上司という情報源があるはずの私たちが、きっと一番曖昧にもがいている。


「って、苗字さんゼロなんでしょ。なんで知らないの。寧ろ僕に情報教えてよ」
「ついさっきまで離れてたから浦島太郎なの」


腕の中から見上げる彼の表情は不満げで、私は見ないふりをする。私の言葉に釈然としない風にしていた彼は、ひらり、と突然袖を捲る彼にぎょっとする。


「何この擦り傷。しかも走ってる身体のバランスも左右若干違うし、本調子じゃないよね」


一応女性の服を多少なりとも勝手に捲るのはいかがかと思うぞ、成人女性として。
それに無視を決め込んで中枢を目指す。
そんな私をものともせずに、彼の声が響く。


「この傷、見たところそんな時間経ってないよね?でも今日じゃない……。一日か二日前。で、被ってるその帽子からちらちら見える白いのって包帯かな。そもそも安室さんの右腕だと呼ばれてる苗字さんがこの大事件で離れてるなんてありえない。しかも、連携が強固なはずの日本組織に属しているのに、安室さんならまだしも、あちら側のあなたなら単独で行動せずに集団で行動するはず。それもなくて情報も皆無。それがあり得る状況で尚且つ苗字さんの身体を観察すると、もしかして先日の電力発電所の爆発に」
「少しは黙りなさい。ほら、あの変な物音。私大声出せないから、呼び戻して」


もう答えは出ているのに、長々と根拠を述べるのは探偵の悪い癖だと思う。上司も含め。嫌味か。
上を見上げれば姿は見えないが、どす、と何かが動いている音が聞こえた。嫌な予感しかしないわ。赤井秀一が見えた時点で嫌な予感はしていた。
少年はFBIしかいないと思っているのかもしれないが、この状況で自ら乗り込まないはずがない。確実に上司もいるだろう。最悪なふたり。

少年の言葉に弱いのか、ふたりとも素直に降りてきた。
まず言葉を発したのは眉が釣り上がった私の上司だった。


「何故おまえがここにいるんだ!」
「目を覚ましたんですよ」


まるで仇にでも言うような口調で言うから、平然と返す。再び口を開こうとする上司の顔面目掛けて無表情で、突如拳でジャブを入れた。
あっさりと避けられ、私の腕を掴む。


「何をいきなり、」
「貴方の憎き相手に出会って、頭に血が上ってないかしらと思って。でも避けてくれて良かったです。たかが私如きの拳が入ったらぶっ飛ばしてるところでした」
「……余計なお世話だ」


かっと口を開いたが、思うところはあったのか苦々しく言った。腹は煮えくり返っているだろう。


「君はいつも満身創痍だな」
「出会うタイミングが悪いんですよ」


淡々と楽しそうに言うFBIに気まずい。それに目敏く眉がまた釣り上がる上司の顔が見えた。


「……お前、知り合いなのか」
「知り合いじゃありません」
「今の確実にそうだろう!しかもお前それは無断で病院抜け出して、」
「大丈夫でーす」


ひらひらと躱していたら、赤井さんに帽子をさっと取られた。


「うわっ」
「矢張り、無理をしているんじゃないか」
「大丈夫じゃないだろう」
「苗字さん結構酷いでしょ」
「大袈裟なだけで動けますから。皆五月蝿い。説教は後で聞く。今はキュラソーに集中して下さい」


耳を塞いであーあー言った。
子供か、という顔で餓鬼に見られた。
おまえもな。


20180404
title by Rachel