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乗用車1台大破、2台軽故障、班員1人重傷、1人軽傷。
作戦Eはこれだけの被害をだして幕を閉じた。私は重度の鞭打ちと肋骨に罅が入ったと診断された。全治1ヶ月に対し、作戦責任と発砲問題により自宅謹慎と減給。謹慎処分は1週間。もうちょっと休めると思っていたのに、人使いが荒い。
減給は悲しいがわかっていたことなので仕方ない。因みに上司も減給処分である。風見には無茶をするなと怒られた。元から赤井秀一から目を少しでも逸らすために陽動はするつもりだった。それが、今回の発砲である。赤井が来葉峠に姿を現したのは予想外だったが、捕獲作戦が失敗したとしても、私の発砲によりその問題は少し流れた。日米関係も崩壊には至らず、降谷が公安だということがばれたくらいで終わった。くらい、で済むことではないが、この切り札をあちらが使うのはどちらにしろ最終手段であろう。恐らく私のこともバレているのだろうな、と赤井の表情をみて思った。十中八九、沖矢昴は赤井秀一であり、その裏には江戸川コナンという少年が糸を引いているのは確実である。ただ、その証拠がないだけ。それだけで私にとっては十分だった。今後を考えるのは上司の仕事だった。










……で、なんでこんなことになってるんだ、最悪だ。

内心ありとあらゆる悪態をつきながら、笑顔を貼り付けていた。
高級ホテルの無駄に煌びやかに照らされた女子トイレのタイルの上に、細いヒールが挟み込んでいた。香料の匂いが染み付いたそこには、鉄の臭いが混じる。スワロフスキーが散りばめられた14cmのシルバーのハイヒール。ぴたりとした赤いミニドレスは胸元が心許ない。それでも私は腕を組んで成り行きを見守るしかなかった。

目の前では下っ端の警官と、青の作業着を着た鑑識が現場を押さえている。もう少ししたら刑事が到着し、その後遺体は片付けられるだろう。


「……で、なんでこんな所にいるの、刑事のお姉さん」


笑顔で小さな少年に聞かれた私は、そのまま笑顔を崩さないまま彼の方に顔を向けた。


「プライベートで偶々よ」


そういう他はない。笑顔を崩さない彼の方が犯人よりもよっぽど怖い。そして私は、警察がきた場合にも同じように返す他ないのだろう。


「へえ、そうなんだ」
「そうなの」


彼が口を開こうとしたら、女子トイレに入ってきた人間がいた。警察の到着だ。


「第一発見者は、コナンくんなんだね。そして一人の容疑者というのは………」
「……え?」


目暮警部の後から入ってきたのは、案の定彼女と彼だった。


「嘘、名前!?」
「え、苗字さん!?!?」


私はただただ苦笑いしか隠せない。こんな姿を見せるつもりはなかった。私こそどこかに隠れたい。いつもは適当に結んでいる髪も、今日は結い上げてイミテーションが光っている。服は露出度が高いし、化粧も別人のように濃い。本当に私かという視線と、どこに目をやったらいいのかと戸惑う視線が混ざっていた。


「……あなた、そんな趣味だったかしら」
「まあ、色々とね」


美和子の言葉に、苦笑いした。こんな趣味では勿論ない。すでに毛利小五郎にはそういう視線で見られているし、早々といろんな意味で退散したいところだが、私はとにかく運が悪かった。


「ごほん。とにかく、女子トイレから叫び声が聞こえて、コナンくんが駆けつけた時には被害者はすでに死んでおり、その時にトイレにいた人間が、唯一苗字くんと訳か」


仰る通りです、目暮警部。


「はい。といっても丁度個室に入っていて叫び声に驚いて扉を開けたら、すでに倒れていたのでお力になれるような情報はありませんけど」


申し訳なさそうに言った。
早く帰らせてくれ。そんな訳にいかないが。一応警察関係者で良かった。本当に良かった。だからこそ今何も行動を制限されていないが、今の私の状況は犯人だと言っているようなものだ。真犯人が見つからない限り私の疑いが晴れることは無い。


「で、なんであなたはここに?」
「ああ……ちょっと私用でね」
「私用って、今日ここで開催されたパーティって政界の権威者がごろごろいるパーティじゃない!」


驚くように声をあげる美和子にもう苦笑いしかできない。一般公務員な私が私用なわけないだろう。毛利家族は、鈴木財閥関係で来ていたらしい。そっちの方がよっぽど世界が違う。
被害者は少し前にお開きになった同じパーティに出ていた人間であり、一応容疑者は参加していた人間全員だが、お開きになり帰った人間もいるうえ、参加者は国家の権力者ばかりだ。当然この女も相当な肩書きやら後ろ盾を持っている人間らしい。だからこそ、警察も下手に手出しは出来ない。


「何か物音を聞いたりしたかね」
「何かが倒れるような音は聞きましたけど、それ以外は何も」


謹慎明け初の外の仕事だった。すでに運が悪い。全治1ヶ月の怪我だが、当然のようにそんなに仕事が待ってくれるわけもなく復帰し、1週間は書類仕事だったが、外の仕事が降りてきた。
ある政界の人間をパーティの間こちらに引き付けておくだけの単純な仕事である。その間に、他の仲間が証拠を掴むべく動いていたのだが、どうやら証拠は掴めず徒労に終わった。その報告を受け、私もめぼしい情報を掴むことは出来ず振り出しに戻ったという報告をトイレの中便器の蓋の上に座ってメールをした矢先の、この事件。私たちのターゲットはすでに帰ったことは把握済み。私もいそいそと撤退のはずだったが、こんな羽目になるとは。悲鳴を聞いて取り敢えず、外で待機していた迎えの車を帰らせる連絡を素早くしたのが辛うじてのファインプレーだ。


「とりあえず、身体検査をさせて頂戴」


刃物で刺されたと予測できるが凶器は見つかっていない。だから身体検査を受けなければいけないのはすぐに予測できた。だがそれが問題だった。いつもなら、自分の体である程度はなんとか護身出来るので何も持ち歩かないが、今回私の怪我は完治しておらず、ドレスの下には肋骨を支える補助器具をつけている状態だ。そのため万が一にと、今回に限って軽い気持ちで折り畳み式のナイフを忍ばせていた。ただでさえ、私がこの場にいるというだけで注目を集めてしまっているのに、この状況でその事実は不利でしかなかった。

だからこうする他なかったのだ。


20170422
title by Rachel