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「今から私が話すことは特別極秘事項2級相当に指定されています。情報漏洩が確認された場合、速やかに相応の処分が下されることを覚悟してください。また、メモ、データ等内容記載は禁じられています。頭で記憶しなさい。
では、本日17時30分決行予定、Eについて確認事項を通達します。本作戦実行指揮官は降谷零主任、副指揮官は苗字名前副主任。降谷とは現地合流となるため、代理を苗字が務めます。目標は、FBI捜査官赤井秀一の捕獲、それに伴う仲間の捕獲。A班、B班に分かれ、A班は降谷、B班は私が指揮官となります。A班は赤井潜伏先包囲が基本行動となります。その他A班の詳細は降谷が指示を出すのでそれに従ってください。B班の詳細はこのまま通達します。B班は来葉峠を拠点としFBI捕獲を目標。恐らく人数は2。捜査官男女一名ずつと予想。こちら車数5、それぞれの担当は先程連絡した通りです。私が一に乗ります。B班の連絡は全て車の無線によって指示。迅速に対応するように。万が一、目標が攻撃した場合指示を待ちなさい。今回、程度により反撃許可が下される可能性有り。作戦遂行又は失敗が確認された場合、迅速に他班に報告すること。また、A班、B班、どちらかの指揮官が指揮不可能になった場合はもう一方の指揮官に指揮権が移動します。今回、拳銃携帯許可が全員に発動されます。引き締めて臨むように。何か質問は。
以上。解散」










「なんで俺なんすかー」
「馬鹿みたいに能天気だからよ」
「嘘ですよね?!」
「嘘に決まってんでしょ。早く前見て!」


細山が運転する左側で後ろを向いて無線を握りしめてそう言った。
簡単に来葉峠に目標を誘い込むことは出来たがここからが問題だ、前につけて囲うことに成功したがここからどうする。FBIはどうする。ジリジリと多勢に無勢で囲い込むが、このままやられるとは思えない。無理矢理にでも抜け出すか、それとも。ジトリと、向かい合う形で見つめる。話している内容は聞き取れるはずがない。だが、行動を起こすとき、それは些細な動きとなって現れる。


「2、3号横面注意!!!一気に狭めて!逃げるよ!」


気づいてすぐに無線で怒鳴るも、一瞬が命取りだった。嫌な音を立てて、真ん前を走っている私達の車を飛び越えていく。


「まじかよ……」


そう呟く細山と私の前には飛び跳ねて外車が猛スピードをあげて、逃げる。


「細山!!逃がすな!!」
「了解です!!」
「こちら苗字、全号そのまま1号に続きなさい!!」


5台が道なりに山道を蠢く。すでにスピードなんて優に100キロを超えている。どうやら相当やりてなドライバーらしい。本当は運転技術、その他臨機応変の対応を買っている細山がなんとか追いすがっているがギリギリだ。幸い、あちらのタイヤは限界が近そうだ。ここまできたら持久戦にもちこむしかないか。
そう思い始めた矢先のことだった。前を走っている屋根が上がる。月明かりに照らされ、そこにいたのは、追っていたはずの2人だけでは無かった。


「……はは、嘘でしょ」
「あ、赤井じゃないっすか!」


こちらを見た碧眼と、白い肌。間違いなく、赤井秀一。誰かの変装か、それにしてはここで現れる必要性が無い。ということは今上司が対峙しているはずの沖矢昴は別人か。そこまで過ぎって考えを打ち消した。今そんなことを考えている時間はない。背中を前席に預けこちらを真正面から見つめる赤井の手には、見まごう事なきライフル。思わず笑ってしまった。ここで、日本で、撃ち合いを始めるつもりか。壊れかけた車上を舞台にして。


「冗談じゃないっつの」
「どうするんですか!?」
「全号今すぐ速度を緩めて!!!玉突き事故になる!」


無線を放り出し、窓を開ける。この先はカーブだ。まだ構えてはいない。ということは、1番撃ってくる可能性が高いのはカーブを抜けた先の、直線。


「何するんすか!?」


座席を最大限に後ろに下げてシートベルトをとった。右足を固定し、窓から体を乗り出した。轟音が髪の毛を叩く。屋根に左手を固定し左足を窓に掛ける。
赤井秀一と、目が合った。少しだけ口角が上がった気がするのは気のせいか。カーブに差し掛かる。服に手を入れ取り出したのはベレッタ。ライフルと拳銃。馬鹿みたいな対決だ。わかっている。それでも。私がやりたいことは彼を捕獲することではない。固定した左腕に捻って右腕を乗せ、右手の下に左手を辛うじて添える。


「苗字さん何してんすか!」
「任せたわよ」


もうすぐ抜ける。あちらも構えた。さて、どうくる。どこを狙う。いつ撃つ。私が先か、彼が先か。いや、狙うは、同時。こちらは拳銃なのだから、顔は丸見え。


「5、4、3、2、」


今だ。思った瞬間、車は酷く揺れ腕は衝撃を受ける。投げ出された体を引き戻したのは細山か。コントロールできないまま体は大きくのたうち回り車は回転する。何かに当たって2回目の衝撃。胸と首が歪む。嫌な音を立てて、さらに回転してようやっと車は止まった。


「………生きてる?」
「俺はなんとか……。苗字さんは」
「なんとか、かな。体は、動かないけど」


喋るのがきつい。肋骨でも折れているか。下げた座席とシートベルト不着用のせいで余分な空間ができ、体が跳ねたらしい。思った以上に骨がやられている。


「後ろはどう?」
「二号に当たったみたいですけど、見た感じ被害は軽いようです」
「了解……」


しっかり見えないが音からしておそらく全ての車が止まったのだろう。一号が大破に近いのだ。そりゃそうだ。
すぐに他から班員がやってきて救出してくれる。細山は軽度の打撲らしく背中をさすっていたが普通に歩いていた。私が問題だ。歩けるが首と胸が完全にやられている。違う部下に肩を貸してもらいながら、集合している所に向かう。誰かが上司に携帯で連絡しているらしい。


『あいつは、指揮官はどこだ!?』


漏れ聞こえてくる程の怒鳴り声から感じるのは怒りと焦り。やっと近づいて、右往左往している部下から携帯を取り上げた。


「五月蝿いな、ここにいますよ」
『どういうことだ!?赤井が現れて、発砲だと!?』
「その通りですよ。追跡は不可能です」
『お前がいてその体たらくはなんだ!!』
「全力を尽くした結果ですから、甘んじて受けましょう………赤井がどうして」


ここまで激昂した上司にさすがに火に油を注ぐわけにはいかない。そんな気力もない。そう、息絶えだえを隠して話していたら目の前には何故か赤井秀一。周りが一斉に銃を向ける。


『そこにいるのか!赤井が!』
「……何故戻ってきたんですか」
「まさか、あんたらも撃ってくるとは思わなかったがな。少し変わってくれないか」
「……どうぞ」


放り投げた携帯を器用に受け取り、上司と話を始めた。内容に興味はない。ただ、こちらが公安だとバレたらしい。早々に会話を終わらせ、置き土産だと拳銃を置いて携帯を放り投げた。


「……で、どうするんですか」
『撤退だ。これ以上の深追いは危険だ』
「了解」


20170130
title by Rachel