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そこそこの量の重さの本をリュックに詰め込んで阿笠博士の家に帰る。教科書が重いのは嫌だけれど、自分の好きなもので重いのはなんのことはない。ほくほくだ。どうやらお昼ご飯は哀ちゃんが作ってくれるらしい。二倍でほくほくだ。


「はかせー。昼飯ー」


ぶっきらぼうに言う工藤くんのあとを追って中にはいると、げっ、と工藤くんの嫌そうな声が聞こえた。


「あらー!!だあれこの子?」
「……ん?」


工藤くんを抱き上げながら、私と目があったのは、知らない女の人だった。すぐに私の近くにきたかと思えばびっくりするくらいの大きな綺麗な瞳が至近距離にくる。


「っ離せ!」


暴れる工藤くんをあっさりと離して、(寧ろ落として)今度は私の手をぎゅっと握った。


「小さくなってるくせに新ちゃんやるじゃなーい!蘭ちゃんもいるのにこんな可愛い子捕まえるなんて!!」
「いやいやそんな」


ころころと変わる表情とぶんぶんと跳ねる彼女に、若干遅れながらなんとか無難な返事を返す。
いやあなたの方が格段に綺麗ですよ。知らないあなた。


「おいみょーじが困ってんだろ!!」


工藤くんが下から言っているのが聞こえた。
工藤くんを「新ちゃん」と呼んで、なおかつ工藤くんが素なのだから、


「えー、と、工藤くんの、お姉さん?」


そう手を握られながら尋ねたら、はあ?!という大きな声と、まあ!という可愛らしい声が重なる。


「もう!中身までいい子じゃなーい!!」


そう言ってぎゅっと抱きつかれた。突然のことでうおっ、と女の子らしくない声を出して少しよろけた。


「母さんはちょっと静かにしてろよ!」


……ん?


「え、工藤くん、」
「だから、この人は俺の母さん」
「……お母さん!?」


ふっと離れた女の人の真ん前で叫んでしまった。


「工藤新一の母です」


ハートをつけてにっこりと笑った顔はお母さんには見えない。え、肌きめ細かすぎだしプロポーション良すぎるし、お母さん何歳なの。


「なんてお綺麗な人をお母さんにお持ちなの、工藤くん!」
「なんで敬語なんだよ。あと母さん調子乗るからそれ以上言うな」


うんざりした顔で工藤くんが呟いた。まだまだ私もいけるわね!なんてきゃっきゃしているお母さんを見ながら、気持ちもさすが若い、と感心した。


「母さん、こいつはみょーじなまえ。色々あって俺の正体知ってるけど、ふっつーの奴だから」


なんか普通の言い方に悪意がこもってた気がするのは気のせいですか。


「いつも工藤くんにお世話になってます。お、お母さん」


改めて言うと緊張してどもってしまった。


「こちらこそ新ちゃんのお世話してくれて感謝してるわー!それにお母さんじゃなくて、有希子で良いわよ?」


きゅんきゅんという擬音語がぴったりなハートをたくさん飛ばしている気がする。


「ゆ、きこさん?」
「あー可愛いわ!なまえちゃん、私の娘にならない?」
「何言ってんだよ母さん!」
「あら、新ちゃんも願ったり叶ったりでしょう?」
「っな!」


会って数分で娘にスカウトされたのは初めてです、ゆきこさん。
なんか工藤くんが赤くなってるけど、なぜだ。


「そういえばなまえちゃん!工藤くんなんて名字で呼ばずに名前で呼んだらどう?」


正体を知ってる数少ない女の子なんだし、とまたハートが飛んでいった。加えてウインクも頂いた。綺麗な女の人のウインクは心臓に悪い。


「え!工藤くんが嫌がりますよ」


いくら仲良くなったといっても今更名前呼びだなんて。また有希子さんに何か言いたげに、きっと睨んでたし。多分私に名前で呼ばれることに抵抗でもあるのかな。それはそれで、少し、寂しいかもしれない。


「そんなことないわよー!ねえ、新ちゃん?」


私が工藤くんの方を向けば、工藤くんはそっぽを向いていた。


「……別に。名前で呼べばいいだろ。俺も呼ぶから」


おう、さすがイケメンな答え。有希子さんの子供なだけある。


「……じゃあ、新一くん」
「っ、おう、なまえ」
 

そっぽを向いたまま、呼び捨てで呼ばれる。なんだかくすぐったく感じました。





(ねえねえ新ちゃん?早く元に戻りなさいね?)
(あ?なんでだよ)
(だってそうしないとすぐ結婚できないじゃなーい)
(ばっ、バーロー!)
(早く娘になってほしいわー!)


20140726

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