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電車でがたんごとんと赤紫の席の上で流れに身を任せる。横にはちょこんと小さな頭が見えて、携帯をさわっていた。どうやら哀ちゃんにメールをしているらしい。じっと見ていたら、なんだよ、といわれたから、なんでもない、と返した。ふうん、と変な顔をされたから彼を見つめるのをやめにしてぼんやりと前を向いた。
休日の朝の電車には、スーツ姿の人は少なくてどちらかというと私と同じくらいの人たちや、大学生っぽい私服の人が目立つ。扉付近に立っているのは確実にカップルであろう男女の組で、なんだかほほえましくてくすぐったかった。

膝の上に置いたリュックを少しぎゅっとするだけで、なんだか甘い香りがする気がするのは不思議だ。
工藤くんにも会った早々、「甘い匂いがする」と体の回りを犬みたいにくんくんされたけれど、なんとか切り抜けた、と思う。
事実、このリュックの中には昨日作っておいたお菓子が入っているのだが、それはついたときのお楽しみだ。やっぱり手作りは香りが強いんだな。

ふわあ、と何度目かしれない欠伸をかみころした。それに目敏く工藤くんが気づく。


「昨日あんま寝てねーの?」
「いや、ちゃんと寝た方だけど早起きして眠い」
「早起き、ってそんな早くねーだろ」


そう不思議な顔をしていたけど、女子の準備をなめないで欲しいと思う。それに、いくら学校のおかげで早起きは慣れていたとしても、休日起きるのはまた別の話なのだ。

小学生って休みの日は早起きする傾向があるって聞いた気する。無意識に休みを楽しみにして起きる、らしい。だから朝からナニナニレンジャーとか、なんとかライダーとか、してる、みたいな。今の私だったら起きてたとしても、多分頭動いてなくて話半分だろうな、と昔自分自身見ていた記憶と比較する。
工藤くんも観てたのかな、いや、もしかして現在進行形?ああいうの、って友達同士の話題になるから観てた方が楽しいよね、と考えて、それを聞こうと思ったけど絶対に怒られる気がしてやめておいた。


「もうすぐ着くぞ」
「…うん。なんだか緊張してきた」
「今更だろ」


米花町、というさらさらしたアナウンスを聞きながら工藤くんが笑った。


「だって、哀ちゃんと阿笠博士にも会うんだよ。緊張するでしょ」
「初対面じゃねーだろ?」
「だけど!工藤くんより久々だし、家に行くのは初めてじゃん」
「だーいじょうぶだって。あいつらお前のこと気に入ってるから」
「ほんと?」
「まじまじ。灰原が気に入ってんだから大丈夫」


にかっとしたいい笑顔を向けられて少しほっとする。ゆるやかに止まる空間で立ち上がりながら、小さな背中を前に見ながら足を踏み出した。



工藤くんと私は、幼なじみでも探偵仲間でもない。そして工藤くん呼びだが、実際に会ったことがあるのは江戸川コナンという今の姿だけだ。

最初は何かの事件に運悪く遭遇してしまったからだった。兄と出かけていたとき現場に居合わせてしまい、私の兄は警察官だったから、担当の警察がくるまでの雑用を任せられてしまったのだ。警察官っていっても、普段は平和な交番勤務だが。
そんな中放って1人帰るわけにもいかず、かといって素人な私が出来ることもないから、手持ち無沙汰に少し離れて見守っていたら、そんな私に声をかけてくれたのがこの「コナンくん」だった。
駆けつけてきた警察官も現場の状況を聞き取りつつ、コナンくんとは顔なじみだったらしく、ピリピリしていたのに話しはじめたら仲良さげでびっくりした。
警察官と仲良い小学生ってなんやねん!と内心ツッコミを入れたほどである。

それから紆余曲折あり、何度かまた遭遇してなかよくなった。そして、まあ色々あって私が見た目と中身が違うということに気づいてしまい、また色々仕方ない顔をしながら教えてもらい、今の関係に落ち着いている。そのついでに哀ちゃんたちのことも教えてもらった。詳しいことは危ないからって教えてくれなかったけれど、正体の話だけで十分だ。彼の幼馴染みである女の子には教えていないらしいし。そんな子を差し置いて、他人の私から聞くことではない。
多分、何も知らない私だからこそ、渋々とだけど教えてもらえたこともあるのだろう。

一つ言うなら、あんな風に阿笠博士や哀ちゃんの前で堂々と素で話してると、いつか普通にばれちゃうと思うよ。寧ろよくばれてないね、と思いました。


20140721

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