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久しぶりに電話をした。
案の定、腐れ縁である幼馴染には怒られる。園子にも、周囲からも、その家族のような距離の近さに仲を勘ぐられてきた。小学校中学校、それを経るうちに、妙に囃したてられることに普通だったら嫌気がさし、距離を置くようになるのかもしれない。それが良いか悪いかは知らないが、二人とも周囲の反応に鈍感すぎた。勘違いされていたとしても、自分たちに害がなければ気にならず、距離は今でも変わることは無かった。周りから見てそう、見えたとしても、あくまで俺達は「幼馴染」であり、それ以上でも以下でもない。永久的に。


「もしもしー?ちゃんと聞いてるー?」
「へいへい聞いてるっての」
「絶対それ聞いてないでしょー!」


時折かける彼女への電話。工藤新一としてとる連絡では唯一だった。それは、彼女のためであり、自分のためであり、重要なものでもあり、他愛もないもののためでもある。


「だからお前の友達が二股かけられて、その相手である先輩に園子が仕返しした話だろ」


女とはどの年齢でも怖いものである。


「で、今は私の先輩の話でしょ!」


とっくの昔にその話は終わったわよ!と憤慨している。
蘭の先輩の話を聞きながら、生半可な相槌を打った。


「新一こそどうなのよ」
「は?何がだよ」
「気になる女の子の一人くらいいないの?」


新一みたいな推理オタクを相手にしてくれる子なんて早々いないんだからね?と、母親みたいなことを言われる。ここまでくるともう世話焼きな親戚だ。


「いねー、よ」
「何その空白。いるんじゃない」


で、どんな子なの?と嬉嬉として聞いてくる。そのテンションの高さに、お前園子化が進んでるぞと言ってやりたい。


「気になるっつーか、そこまでいかないっつーか」
「もうその時点で気になってるっていうのよ。私の知ってる子?」
「いや、あー、知ってる、かも」


なんでこんなに俺は馬鹿正直に幼馴染みに言っているんだ。根掘り葉掘り聞かれるのを必死で躱しながら、蘭は蘭で勝手に1人で盛り上がり始める。それを辟易しながらきいていた。


「まあとにかく、いつか紹介しなさいよね」
「わぁーったよ。んじゃ、そろそろ切るぞ」


まだ色々言ってる蘭を無視して電話を切った。










「なまえちゃんこっちよー」


携帯を片手に歩いていく。柔らかい絨毯に足音が吸われる。声のした方に顔をあげると、そこには既に皆が揃っていた。


「ごめん待たせちゃって」
「ううん。時間通りじゃない」
「久しぶりー」
「園子ちゃんも久しぶり。呼んでくれてありがとう。本当に私みたいな部外者もいいの?」
「皆さんご一緒に、ってことみたいだから」


大丈夫、とふわりと笑う蘭ちゃんの微笑みが優しい。確かにそこにはコナンくんだけじゃなく少年探偵団の皆も阿笠博士もいて、文字どおり皆がいた。「皆」という言葉に、私が含まれることが単純に嬉しかった。
コナンくんと遠くから目を合わせると少し眉間に皺を寄せられた。何故だ。詳しく蘭ちゃんから聞いていないけれど、蘭ちゃんのお父さん関連らしい。名探偵は忙しそうだ。
園子ちゃんたちと他愛のない世間話をしながら皆が歩いていく方向に無意識についていった。そういえばどこに向かっているか分からないと、蘭ちゃんに聞こうとしたら誰かの楽屋の前に着いた。

蘭ちゃんのお父さんが扉を開けるのについていきながら挨拶を聞いていると、どうやらこの人が私達を呼んでくれたらしい。依頼人か知り合いか、とても綺麗でまるで女王のような風格を湛えている女優さんだった。その後他の演者さんも楽屋に挨拶に来る。それを遠巻きに哀ちゃんの隣でみていた。
すると開けっぱなしの扉から中森警部とその部下が現れた。


「え、あおちゃんのお父さん?」
「またなまえくんか!最近よく会うな」


不思議そうに言う中森警部に苦笑いを返しながら鈍い頭に一つの単語が浮かび上がる。


「……え、あおちゃんのお父さんがいるということは、怪盗さん?」


コナンくんの方に顔を向けながらそう聞くと、知らなかったのかよと顔を顰められた。


「うそでしょ」


口の中で思わず呟いた言葉は誰にも聞こえなかったらしい。
中森警部と蘭ちゃんのお父さんがいがみ合っている中私は気が気ではなかった。
怪盗さんと会うのに、今は心の準備がいるのだ。
中森警部の話はまだ続いていて、誰か捜査協力者が増えるらしい。皆がドアの方へ視線を向けているも、私の頭の中はまだ今得たばかりの情報を処理するので精いっぱいだった。緩んだ気を、誰にも悟られないように引き締めなければいけない。


「はいりたまえ」


皆が、息を飲んだ。私だって息を飲んだが、多分その理由は誰とも違っていただろう。
捜査協力者とは、工藤新一だった、らしい。


「怪盗キッドだ!」


そう叫んで自ら正体をばらしそうになる新一くんは、曖昧な笑みを浮かべて濁した。私はそれにまぎれて彼を凝視してしまう。

一瞬、黒羽くん、と叫びそうになった。どうやら皆の反応で高校生の新一くんと黒羽くんは、とてもとても、似ているらしい。確かに今の新一くんにもその片鱗はあるのか。髪型が少し違うだけで、声も容姿もよく似ていた。中身は全然違うが。それでも、周りの人の中には黒羽くんに会った人も少なからずいるはずなのに何も気づかないのだから、よほど新一くんに似てるのか、私が過敏なだけなのだろうか。
そして私は本物の新一くんの姿で、新一くんに会ったことがなかったことを思い出していた。

コナンくんの言葉をきっかけとして、あおちゃんのお父さんがいつものようにほっぺたを引っ張っているが剥がれることはない。そりゃあそうだ、黒羽くんは、新一くんに瓜二つなのだから。皆から少し浮いてぽかりと様子を他人事のように眺めていた。皆が怪盗さんに向けられていてよかったと思う。今の私は、彼が化けた新一くんと会話できる程の余裕がない。






蘭ちゃんと幼馴染トークを繰り広げている彼を拗ねたように本物の新一くんが監視していた。園子ちゃんは園子ちゃんで二人きりにさせようと躍起になっている。私は少年探偵団の後ろからとぼとぼとついて行きながらそんな光景を見ていた。二人の会話はあまり聞こえてこないけれど、キュートとかなんとか言っているような気がして蘭ちゃんが戸惑っていそうな雰囲気が見て取れた。私が知ってる新一くんは一切そんなことを言わないから、恐らく遊んでいるのだろう。何をたくらんで怪盗さんがそんなことをしているのかは知らないが、本物の新一くんの機嫌が悪くなっているのは目に見えている。


「そういえば、なまえちゃんって工藤くんが関わった事件で知り合ったんでしょ?」


園子ちゃんが後ろ振り向いて私に話しかけた。


「え、あ、そう、だったね」
「なんでそんなしどろもどろなのよー」


笑って言う園子ちゃんに引っ張られて、前に押しやられた。

私から見たら髪をいじった黒羽くんにしか見えない、新一くん。その隣には、蘭ちゃん。
なんでこんなに心臓の動悸が激しくそして痛いのだろう。
あたりさわりのない言葉を並べればいい。一度会っただけの、顔見知りなんだから。私が勝手な対応をしても、溶け込むのが上手い怪盗さんのことだから、滞りなく終わるだろう。それともなんだ、あたかも当たり前に存在する、それが当然で私の思考がおかしいのだけれど、彼の隣にいる存在に、胸が痛いのか。馬鹿みたい、と笑った。怪盗さんを勝手に特別視している私は何様なのか。嘲笑って欲しい。無意識に生まれたその感情を必死で殺そうとしているのはいつから。

そもそも、黒羽くんには、あおちゃんが、いるんだから。


「え、と、久しぶりですね!」
「なんで敬語なんだよ、タメだったろ」


そう彼は穏やかに、久しぶりだな、と笑った。こんな感じなのか、高校生の新一くんは。黒羽くんとは違う、それでも顔は同じ。頭の中が砂糖水でいっぱいになったようだった。

何を話したかなんて覚えてない。彼と蘭ちゃんと園子ちゃんが離してる様は何ら違和感がなくて、彼はとても溶け込んでいた。いつの間にか話は終わっていて皆で展望台に行くことになっていた。実質、蘭ちゃんと新一くんのデートであった。他の皆にまぎれて、私はただの部外者だ。


20170417
title by 喘息
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