最終日、俺は前日と同じくクラスの出し物の準備を終えて手持ち無沙汰にしていた。 男女混合逆転有りコスプレ喫茶。化粧もし終わりもう後は始まりのチャイムがなったら客が入場するのを待つだけ。
「そろそろ始まるぞー!用意しろよー」
壁に凭れていたり、写真を撮りあっていたクラスメイトがぱらぱらと返事をして自分の持ち場に移動し始めた。
『それでは、江古田祭三日目開始しまーす!!』
大きな放送の声が流れる。それを境に一斉に扉を開く音が校舎中に響いた。最後の文化祭の始まりだ。
「ここやろー?なまえちゃんがやっとる出し物」 「B組って言ってたよ。コスプレ喫茶がなんとかとか」 「なんやけったいなしろもんやなあ」
高校自体が物珍しいのか、キラキラと目を輝かせ目を離せばどこかへ行ってしまいそうな少年探偵団たちを引っ張っていく。 なまえから、江古田高校の文化祭に来ないかと招待されてやってきた。蘭と園子、仲が良いらしい和葉ちゃん、服部が大阪からやってきて、ついでに少年探偵団もついてきた。
いらっしゃいませー!と、チャイナ服を着た女子とメイド服を着た男子に張り上げた声に迎えられて扉をくぐればそこにはありとあらゆる衣装で着飾ったあべこべな店員たちだった。目がちかちかする。
「おっ、探偵坊主」
そう声をかけられた方向を見れば、しゃがみこんで目線を合わせたあいつがいた。
「げっ」 「げっ、ってなんだよ、人を化け物みたいに」 「実際化け物だろーが!なんだその化粧!」 「あ?見慣れてるだろ」
にやりと笑ったその唇は綺麗なオレンジピンクに染まっている。
「うわあ!快斗お兄さんですか!?」 「可愛い!!」
少年探偵団が群がり、歩美ちゃんが目を瞬かせた。
「何何?知り合い?」
園子が訝しげにのぞき込んだ。
「なまえお姉さんの友達よ!」
しゃがみこんでいたこいつはすっと立ち上がって手を鳴らした。すると一瞬にしてそこには赤い薔薇が三本姿を現した。
「俺、黒羽快斗。以後お見知りおきを」
そういって恭しくお辞儀をしたが、如何せんその姿が異様過ぎて全員が固まった。
「えっ、婦警さん!?」 「ミニスカポリスやろ」
超ミニのタイトスカートに青色のシャツを着たこいつは正真正銘ミニスカポリスのコスプレをしていて。黒光りするハイヒールまでしっかり履きこなしている。
「悪いことしたら、逮捕しちゃうぞ」
擬音がつくくらいにノリノリなこいつに反吐が出る。それを分かっているのかあいつがこちらに再びしゃがみこんできた。
「どうだ、似合ってるだろ?」 「何がだよ。よりにもよってお前が警官とか馬鹿か」 「暴言吐く子には手錠かけるわよ?」 「………ただの馬鹿だな」
ウインクまでかますこいつに俺は何を言っても無駄だと、深々とため息をついた。
「バカイトー!サボってんじゃないわよ!」 「サボってねーよアホ子!ちゃんと接客してるだろ」
うさ耳をつけて、ふわふわとしたメイドみたいな水色のエプロンワンピースを着ている女の子がやってきた。
「青子お姉さん可愛い!!!」 「あーっ!歩美ちゃんたちじゃない!来てくれたのね!」 「どこかのお姫様みたいです!」 「ただのガキな兎だろ」 「意地悪言う快斗はほっといて。これは不思議の国のアリスなの」
中森警部の娘さんはそのまま、蘭たちと自己紹介をしていく。いつも父がお世話になってます、と甲斐甲斐しく挨拶をしていた。
「ところでなまえちゃんは?」
蘭の言葉に中森さんが答える。
「ごめんね、他の子が衣装着せるのに連れてっちゃって。もうすぐ来ると思う!」 「衣装つったって、昨日と同じ着ぐるみだろ?」 「それが一人係で出れなくなっちゃったから代わりに着るらしいよ」 「何着るんだよ」 「それは私も知らないよ」
そんな会話が頭上で繰り広げられていると、やだー!と大きな声に混じって騒ぐ声が聞こえた。 思わず皆がそちらの方に目をやると、カラフルに飾り付けられたカーテンが引かれた場所から人が走り出てきた。そのまま中森さんの後ろに隠れたが、小柄な中森さんの後ろでは全て隠し切れることは無い。その後にもセーラームーンの格好をした女子が走り出てくる。
「え、なまえちゃん?」 「なまえー!恥ずかしがらずにちゃんとしなさい!」 「こんな格好する予定なかったんだもん!」 「あんたが練習の時に抜け出した罰でしょ!」 「……あれは黒羽くんのせいだし」 「何か言った?」 「言ってないです!」 「とにかく!あんた自分が思っている以上に可愛いんだから!自信持ちなさい!」
そう仁王立ちする女子の剣幕にやられたのか、渋々と中森さんの後ろから出てきて、姿が露わになる。
「えっ!なまえちゃんめっちゃかわええ!!」 「可愛いよー!なまえちゃん!」 「えっろいなまえちゃん!!」
口々に言い合う言葉に、顔を真っ赤にしてまた自分よりも小さな中森さんの後ろに隠れた。最後の台詞は、案の定園子だ。園子がにやりとして携帯を構えるのを避けるように縮こまる。 園子がそういうのも無理はない。彼女の姿は薄い桃色をした如何にもなミニスカナースのコスプレで、今はなかなか見る機会が少ないナースキャップまでついている。足元はレースアップのクリーム色のハイヒール。
「見ないでいいから!」
メニューで足を隠しているが、それでも隠しきれない短さである。
「なまえちゃんの美脚さらさないと勿体ないわよ!」
これは写真にしたら高く売れそうね、と目を光らせている園子の頭を蘭が軽くチョップしていた。
「こんなの公害でしかないから!もう!」 「全然可愛いわよ?」 「ほんまやで!寧ろ気をつけなあかんよ?こんな格好しとったら襲われてまうで」
未だ納得のいかない表情をしているなまえを尻目に、黒羽の方を盗み見たら、こいつもこいつで複雑な顔をしていた。
「とっても似合ってるよ!なまえちゃん自信持って!ほら快斗も何か言いなさいよ!」 「……おう」 「なんでそんな仏頂面なの!」
怒って言う中森さんの後ろで、少しだけ傷ついたような顔をした彼女がみえた。
「いいよあおちゃん。やっぱり変なんだよ。ごめん、着替えてくる」 「ちがっ!」
くるりと逃げそうになる彼女を、黒羽が急いで腕を掴んだ。振り向いた彼女の瞳は曖昧に揺れていた。
「似合ってる、かわいい」 「……え」
必死に脳直のまま出てきたような単語の羅列に、ぼわりと顔を真っ赤にさせた。それが面白くなくて、俺はあいつの脛を思いっきり蹴った。ぐへっと変な声を出すこいつにざまあみろと思う。一気に元に戻った喧騒は周囲の混み具合を露見させた。
「はーい、黒羽くんとなまえは二人で宣伝係だから」
クラスメイトが大きな看板を黒羽に押し付けて、ぐいぐいとドアの方へ押しやる。
「蘭ちゃんたち!来てくれてありがとう!ごめんねなんか慌ただしくって!」 「いえいえー!ゆっくり楽しんでいくからなまえちゃんも頑張ってね!」
熱気と勢いにやられながら、俺達は消えていく二人を見送った。
20160419 title by 喘息
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