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皆で横浜に行くことになり、園子ちゃんたち鈴木家は来なかったが、私は蘭ちゃんのついでということで毛利家に混じってついていった。
エッグには興味はないけれど、なぜ怪盗さんが命を狙われるようなことになったのか、それに興味がないとは言えなかった。

で、何故か私は今、白鳥さんに見下ろされている状態なんだけれども。


「なまえさんは、阿笠博士の皆さんと一緒に待っていてください」
「だから、なんでですか」


お互い笑顔だが、二回繰り返されたこのやり取りは冷えきっている。
城の前、まだ乾さんが来ておらず、少年探偵団の子供らしい声につられて、皆がそれぞれお喋りをしていた。
目を合わせたまま若干睨んでいると、彼ははあ、と溜息をついて、周りに聞こえないような小さな声で言った。


「スコーピオンに襲われる可能性もあるんですよ」
「そんなの、誰だって一緒ですし、私なんか」
「あなたはキッドと関係があるでしょう」


目をぱちくりさせるが、彼は至極真面目な表情で何も言えなかった。


「蘭さんは毛利さんがついていますが、あなたに何かあったら」
「何かあったら?」
「、御家族にあわせる顔がありません」


蘭ちゃんやコナンくんには保護者がついている。一方、私は家族にスコーピオンの話は一切していないし、保護者なる人は一緒じゃない。みんなの雰囲気から、エッグの高揚感しか感じていなかったけれど、確かに、寒川さんの犯人は捕まっていないのだ。
警察なんだから守って、なんて恐れ多いことは言えない。言わなくても、白鳥さんなら誰に対しても守ろうとしてしまいそうな気がするが。しかし、絶対なんてない。それをわかっているからこそ、真剣に白鳥さんは言ってくれているのだろう。
ちらりと新一くんの方を見れば、彼も子供に似合わない真剣な表情をして頷くものだから、ふう、と息をついて肩を降ろした。


「わかりました。哀ちゃんたちと一緒に外で待ってます」
「……お願いします」
「そんな深刻そうな顔をしないでください」


まるで、本当に人が殺されるみたいじゃないか、と不安になる。いくらおじさんがいたとしても、蘭ちゃんも新一くんも一緒に行くのに。


「コナンくんと、蘭ちゃんをよろしくお願いします」


深々と頭を下げた。私が行ってもどうにもならないことは自覚しているから。せめて、彼らの安全を託したい。


「もちろんです」


白鳥さんの微笑みは、いつものように深く落ち着いていた。

少し離れたところにいる哀ちゃんと新一くんに近づいた。それに気づいた二人がこちらを向く。どうやら話は終わったらしい。


「お前は残るんだろ」
「あら、そうなの?」
「そうなの。だからよろしくね哀ちゃん」


肩を竦める哀ちゃんを見ながら、目線を新一くんに合わせるようにしゃがみこんだ。


「新一くん、蘭ちゃんたちをよろしくね」
「おう」


頭をぽんぽんと叩くと嫌そうな顔をしたから、すぐやめてあげた。よし、と立ち上がって今度は蘭ちゃんに報告しに行った。


「……で、何をそんなに考え込んでいるのかしら」
「ああ。白鳥さんが異様になまえに構ってる気がしてな」
「もしかして」
「もしかして?」
「彼はロリコンだったりして」
「なっ!?」








新一くんたちを見送ったあと大きな鍵の音がする。すると、あゆみちゃんたちが手を挙げて別の入口を探し始めた。どうにかして入ろうとする気らしい。


「危ない、って止める?」


哀ちゃんに笑われながら尋ねられるも、私も負けじと笑って返す。


「私だってのけものにされた立場なんだから」


いくら言われたとしたって少しくらい、いいじゃないか。


「探しはしないけど、止めないよ」


にやっと笑った私に呆れたように哀ちゃんは肩を竦めた。

でも正直、本気で見つかるなんて思ってなかったし、中に入る気はさらさらなかった。


「……で、どうする?」


まさかの哀ちゃんが秘密の入口を見つけ、何かのからくりで下に落とされた私たちは、哀ちゃんの挑戦的な声と照らされた先の道に言わずもがな、あの少年探偵団の選択は決まっている。
元気に進み始めた彼らを尻目にさすがにため息をついた。


「今更止める?」
「発破かけた張本人が何を言うの」


今度の言葉は意味が違う。面白がっている哀ちゃんをじろりと見ながら言った。


「ここまできたら、進むしかないでしょ」


私の言葉に、あなたも大概ね、と笑われた。
同じ言葉をそっくりそのまま返したいよ。









足音が響く洞窟のような道を、ひたすら哀ちゃんの時計の明かりで進む。一人でこんなところを進んでいたら恐ろしいが、子供達はそれどころじゃないらしく、冒険のわくわくさの方が上回っているらしい。その前向きな明るさに救われながら、外見上一番年上であるはずの私はこの子たちの保護者の立ち位置でいようとしていた。


「ちょっと待って、何か音がする」


先頭を歩く哀ちゃんが軽く立ち止まる。私達以外の音が反響して大きくなる。皆が身を寄せあって私の後ろに隠れると、ぴかっと光って光の塊が現れた。


「なっ!お前ら!てかなまえ姉ちゃんまで!」


私達以外の音は、どうやら新一くんと白鳥さんの音だったらしい。皆が安堵のため息をつく。コナンくんの後ろで同じように懐中電灯を持っていた白鳥さんも、呆れたように私を見てため息をついた。


「あなたまで何をしているんですか」
「あは、ははは」


仕方ない様子で、私達もなつみさんたちと合流させてもらう。蘭ちゃんが喜んでくれたのが救いだった。

歌を歌って賑やかになる少年探偵団の前には、白鳥さんと私がなぜか並んでいた。


「なんで私先頭にいるんですか」
「正確に言うと私が先頭ですよ」


確かにライトを照らす白鳥さんの斜め後ろくらいを歩いている私は先頭ではないが、それでも先頭と言っていい場所だ。


「……やっぱり私蘭ちゃんのところに、」
「言ったでしょう。私から離れないでくださいと」


淡々と言う白鳥さんを見るも、彼は何処吹く風で進み続ける。
皆と合流する途中、白鳥さんに導かれるままに歩いているとき確かに言われた。言われたけれども、さすがに私がこの場所に、おじさんたち大人の前に子供達がいて、その前先頭の位置に警察の白鳥さんと、この中で一番エッグと無関係な一般人がいるなんてやっぱりおかしいだろう。


「後ろでも十分白鳥さんに近いですよ」
「この距離だとすぐにあなたを守ることができないでしょう」


びっくりして彼を見るも、相変わらず彼の表情は変わらない。赤面するような言葉をさらりと言ってしまうところは、天然なのか慣れているのか。
どうやら思いのほか、白鳥さんは気障で紳士な人らしい。

まるで、


「どうしましたか?」
「いえ、なんでもないです」


強ばった表情を作り笑いに変える。さして気にも止めずに彼はちらりと私を見て再び前を向いた。
頭の中で浮かんだ言葉はあまりにも自然で、言葉にした途端、初めてその単語の意味を知る。
自分の感情というものは、なかなか思うようにいってはくれない。私のどこかで大きな存在を占めているのだ。
斜め前に存在する大きな背中を、私は見つめた。


20150509
title by 喘息
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