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………迷った。


花が絡まったような模様をした絨毯を眺める。どこもかしこも同じような柄に同じような壁。何回通ったかもわからないが、結構な距離をいつの間にか歩いていた。

皆が広間に集められ、そこで事情を聞いていたら新一くんが突然部屋を飛び出すから、それを蘭ちゃんの代わりに追いかけた。
追いかけたのはいいものの、園子ちゃんちの船、大き過ぎる。
ぐるぐると回るのもどうかと足を止めるが、時すでに遅しだ。
ぽつり、と1人佇んでいると、静まり返った明るさが異様に怖くなる。そしてふと、思考回路が新一くん以外のことになった。
あれ、ついさっき仮にも殺人事件が起きたにもかかわらず、一人でいる、って相当愚かな状況じゃないか?
そう頭によぎった途端、これまでなかったのが不思議なほど一気に恐怖は駆け巡る。
もし犯人にはち合わせても、蘭ちゃんみたいに護身術的なものはないし、コナンくんみたいに素早く体を動かすことなんてできない。
悪いことばかり頭の中で循環していく。このままだと、振り返ることすらできない。帰りたくても帰り方がわからないし、馬鹿みたいに結構な距離を歩いてきたことだけはわかってる。

うわ、駄目だ、怖い。

背筋の悪寒が最高潮になった途端、ぽん、と肩に手を置かれた。
体が突如固まる。

どうしようどうしようどうしよう。

頭がパニックになって、体は動かず、ただただ心だけが焦っていると、落ち着いた声が上から降ってきた。


「なまえさん」


先ほど聞いた声に、肩に乗っている大きな手は温かい。
ゆっくりと振り向くと、そこにいたのは白鳥警部だった。


「ああ、白鳥刑事」
「犯人が辺りをうろついているかもしれないので皆さんの元に戻ってください」


今まさに考えていたことを言われて、あれは自分の被害妄想ではなかったのだと、改めて身震いする。


「あ、でもコナンくんが」
「もう皆の所に戻ってますよ」


てことは、私一人無駄に迷ってる感じなのか。それは恥ずかしい。


「では、私は少し奥を見てくるのでなまえさんは先に戻っていてください」


そういって白鳥警部は翻って私に背を向け離れようとする。
あ、と思う間もなく手が勝手に伸びた。


「……なまえさん?」


戸惑ったように彼が振り向いて首をかしげる。
私は彼のスーツの裾を握っていることに気づいて、慌てて手をぱっと離した。


「あ、すいません!」


思わず握ったその手を、手持ち無沙汰に上下させ、慌てて私は言い訳しようとするが上手く思いつかない。
彼は私をじっと見つめたあと、可笑しそうにくすりと笑って表情を崩す。そして、何か納得したような顔をしながらまた目を合わせた。
白鳥さんって、こんな表情をするのか。


「なまえさん、一緒に回りましょうか」
「へ?」
「一人で帰るにはあまりにも心許ないでしょう。よければ、一緒に見回りしませんか」


柔らかく微笑んだ彼に、目を瞬かせる。
どうやら白鳥さんには、私の咄嗟の行動の意味を理解してしまったらしい。
少し耳を熱くさせながら、私は小さく頷いた。







「意外とお元気なんですね」


甲板を確かめ、明るい絨毯の上を歩きながら、隣を歩く白鳥さんが言った。


「なにがですか」
「キッドのことですよ」


あなたは彼のクイーンらしいじゃないですか、と淡々と流れるように言った。そこには、警察としての怪盗さんに対する鋭さはなかった。


「そう、見えますか」
「違うんですか」


嫌味にならない声で、静かに問うた。お互いの目線は交わることなく、右往左往して前を向く。


「正直なことをいうと、」


誰にも、新一くんにも、言っていないこと。

今思えば、なぜ、私は白鳥さんに話そうと思ったのだろうか。


「私に、彼の心配をする資格なんて多分ないんです」


犯罪者と言ってしまえばそれまでで。
たかが、出会う回数が人より多いだけで、わざと、自分の勝手な都合で、彼を突き放すような真似をしておいて、今更縋るように彼を求めるのは、残酷ではないのか。

だから私は、弱くならない。

彼のために嘆くことも、悔やむこともしない。
それは、私なりの誠意であり、プライドだ。
むしろここで彼の友達のように、恋人のように、泣き縋ることなど、彼に対しての裏切りである。
彼と私は、あくまで、観客と奇術師。
ある意味対等で、好敵手のように並行することはない。
そんな曖昧な関係で、また会いたいとか、そんなことを望める立場じゃない。彼の生死を信じられるかどうかじゃなく、私の立場の問題なのだ。


「それは、どういうことですか」
「えーっと、心配はしてない、ってことです。極端にいうと」


悲しんでいるわけでも、強い気持ちで信じている、というわけでもない。
ただ、私は。


「……あなたにとって、彼はなんなのですか」


私は白鳥さんを見た。瞳が、微かに揺れて静止する。
その瞳が、酷く不思議で、まるでそこに白鳥さんがいないような気がして。
私は一度瞬きをして、微かに笑った。


「大切な、マジシャンですよ」





(あ、絶対誰にも!高木さんにも言っちゃダメですからね!)
(は、はい)



あなたは私を、酷く揺らす、酷く振り回す。
20150507
title by 花畑心中
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