あっという間に夕方になり、いつの間にか周りは暗く電光掲示板や看板がその分の明るさを誤魔化していた。 怪盗さんの予告時間は蘭ちゃんのお父さんを信じたらもっと先だから心配ない、だろう、たぶん。 いまだ人が減らない大通りをみんなで歩いていると、どこからかヒュー、と音が響き空で弾ける音がした。そちらの方へ向けると、何発もの大きな花火。夜空に輝くそれはとても綺麗で、周囲もそれに気づいて立ち止まる。
「きれいだねー」 「……おかしいな、今日花火の日とちゃうねんけど」
蘭ちゃんの言葉に、和葉ちゃんが首を傾げる。
「サプライズ的な感じで上がることってあるの?」 「これまで生きてきた中で聞いたことあらへん」
ひゅーひゅーとあがり続ける、大阪城を照らす花火。生き急ぐようにあがるそれは、風流さよりも違和感。 すると突然掲示板が真っ暗になる。どこもかしこも停電のようだ。
「やっぱおかしいでこれ!」
ざわめく観衆の中で、園子ちゃんと蘭ちゃんが顔を見合わせ首をかしげる。
違和感はどんどん膨れ上がり、もやもやと体内を浮遊する。
「……キッド?」
パチン、とよく知った音が聞こえた気がした。しかし辺りを見回してもそんなことはない。 手を鳴らしたそれは、いつもなら私にとってショーの始まりだというのに、どこか影がさして、まるで意味のない花火のように、嫌な感情が弾けては沈殿する。
なぜだろう。 何をそんなに私は恐れているんだろう。大阪という見知らぬ土地がそうさせるのだろうか。華麗なあの怪盗がふっと消えてしまう気がしたのだ。
「どうしたの?なまえちゃん」 「いや、大丈夫」
心配そうに顔をのぞき込んだ蘭ちゃんの存在で、現実世界に引き戻される。 そうだ、あの怪盗なんだ。神出鬼没の泥棒さん。いつものように、新一くんたちを出し抜いて、得意げな様子で私の前に降り立つんだ。
和葉ちゃんの判断で、そろそろ帰ることになったものの、停電の混乱状態でどこもかしこも大渋滞らしい。クラクションが鳴り響く道路を横目に人に流されて歩いていると、ぴりり、と和葉ちゃんの携帯が鳴る。
「もしもし…………はあ!?事故った!?」
大声で放ったそれは驚く出来事で、思わずみんながそちらに振り向く。 しかし、和葉ちゃんのすぐにほっと息を吐き出すしぐさで、大事には至っていないことが分かってこちらもほっとする。どうやら服部くんがキッドを追っているうちに事故を起こしたらしい。幸いかどうかはわからないが、軽い捻挫で済んだらしい。 呆れたように今度は説教を始めている和葉ちゃんに安心していると、今度は私の携帯が鳴った。周りは他人が入り込んで、少し離れたところに蘭ちゃんと園子ちゃんの姿が見える。
ディスプレイを見ると、それは新一くんの名前で、また逃げられたのか捕まえたのか、どこか緊張しながら電話を取る。
「もしもし、コナンくん?」 「………今大丈夫か?」 「うん。人混みに紛れて帰る途中」
どうだった?また逃げられた?なんて、おどけて言うが、向こうの新一くんはなにも返事をしない。 何かを言い渋っている気がして、違和感を感じる。今日はよく違和感を感じる日だ。
「……どうしたの?」 「……落ち着いて聞けよ」 「本当にどうしたの」
淡々と静かに、それでいてこちらを気遣うようなそんな意思が、逆に気持ちが悪い。 まさか、キッドを捕まえたのか。 歩く足は止めないまま、深呼吸をした。
「…分かった。何があったの」
すう、と向こうで息を吸う音がする。 息が止まる。
「……キッドが、撃たれた」 「……え?」 「今から警察が海の中を調べるが、多分見つからねーと思う」 「ちょっと待って、え?どういうこと」
キッドが、撃たれた?撃たれたって、撃たれたってことでいいんだよね。それで海って。
「……え、あの」
無意識に手が震える。自分の頭に1つの単語が浮かぶけれど、それを直視したくなくて、言葉を探しても見つからない。
「まだ分からねーよ。お前はあいつがそんなんで死ぬタマだと思ってんのか」 「そんなわけないよ!」
私が言えなかった言葉を、彼に言われることで、向き合わざるをえない。改めてつきつけられたその言葉の意味に、悪寒が走った。
「……とりあえずまた報告する」
そう言って切られた音が耳に響く。 ああ、私の今日の違和感はこれだったんだと、どこか冷静に判断する。 今聞いた話も、微かな違和感の1つとして処理できてしまえたらいいのに。 新一くんの言葉が、頭の中でぐるぐると回る。 まっぷたつに割られたみたいに、脳はぐちゃぐちゃで、何に悲しんでいるのかも、憤っているのかも、わからなくて、ただ、意味がわからなくて、泣きたかった。
20150414 title by メルヘン
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