「おっおさっかー。おっおさっかー」 「……」 「なに?」 「……なんでもねー」 「そう?」
待ちに待った大阪観光だ。 表向きは園子ちゃんちのメモリーズエッグという、今回のキッドの獲物を守るために蘭ちゃんとこのお父さんも交えて、新幹線に乗っている。まだ暗号が全て解けているわけではないらしく、新一くんはずっと考えており、時折私のテンションの高さに呆れていた。 私は蘭ちゃんも楽しく世間話をしながら、自分でも思いの外わくわくしていた。 だって、大阪だ。大阪といえば美味しいものに、関西弁。本場の関西弁を聞けるだけで楽しいというものだ。
「そういえば、お前何か悩んでたみてーだけど解決したのかよ」 「あれ、そんなこと言ったっけ?」 「ひたすら人んちで内容を教えるわけでもなくどうしよー、って頭抱えて帰ってったじゃねーか。覚えてねえのか?」 「…うーん、博士の家でごろごろしてて哀ちゃんに怒られたのは覚えてる」 「その怒られた理由が『悩み過ぎでうっとうしい』だったんだよ」 「そうだったんだ。私勘違いしてたわ」
新一くんがはあ、と溜息をつく。蘭ちゃんとおじさんは少し疲れたのかうとうとと寝ている。
「で、今は大丈夫なのかよ」 「うん。なんとか?」 「疑問系かよ」 「わざと雨降らしたのになぜか地固まるどころかコンクリートで固められちゃった感じ?」 「ぜんっぜん分かんねえ」 「あんまり焦っても答え出ないかもなー、って思い直して、今は様子見」
ふーん、と気のない返事をしながら、頬杖をつく。ぶうんと小さく続く新幹線の音が心地よい。
「キッドの暗号解けたの?」 「まだ全部は解けてねえ。着いて地理感覚確かめてからかな」 「へー」 「……オメーこそ、本人から何か聞いてねえのかよ」
ジト目をしながら私を見てくる。青い座席に沈み込みながらのびをした。
「そんなの教えてくれる訳ないでしょう?そもそも私は興味ないし」 「あいつと犯行関係の話はしないのか?」 「しないわけでもないけど、大抵新一くんの話とか、今日は入り込みやすかった、とか、そんなもんだよ。今日私たちが行くのは言ったけど。コナンくんが行くって言ったら嫌そうな顔してたよ」 「あいつに喜ばれても困るけどな」 「喜んでもいたよ」 「どっちだよ!」
めんどくせえ、って言いながら怪盗さんの顔はにやにやと嬉しそうな顔をしていた。新一くんもキッドも、結局お互い仲良しで毎回楽しんでいるのだろうと思う。いやよいやよも好きのうちだ。
大阪について園子ちゃんと合流し、服部くんと和葉ちゃんという子たちに会った。どうやら西の高校生探偵という、工藤くんのライバル的存在らしいが仲は良いらしい。工藤工藤って連呼しすぎな気がする。
「おお!姉ちゃんがキッドの!」
なんであなたが知っているの。 服部くんに肩に強く手を置かれた。顔は品定めしいるような生き生きとした顔。思わず新一くんの方を睨んだらぷいっとそっぽを向かれた。その反対側から肩に腕を回して抱くようにする園子ちゃん。
「そうなのよー!なまえちゃんはキッドのお気に入りなのよ!」 「園子ちゃん!」 「ほおー!姉ちゃんほんなら知っとるん?今回の暗号」 「知ってるわけないでしょ」
前キッドに言われたフレーズが、今になっても続くなんて。めんどくさい。私の無意識に引きつった笑顔に気づいたのか、冗談やん、とひらひらと手を顔の前に振られた。
「へー!べっぴんさんやなあ!キッドが目つけるのも分かるわあ」
服部くんの後ろからひょこん、と顔を覗かせたのが和葉ちゃんらしい。黒髪のポニーテールがとても可愛い。本当に可愛い。二回言うほど重要なことである。
簡単な自己紹介をしたら、幼馴染の二人はなんだか言い争いをし始めた。関西弁での応酬はさすが迫力があるが、どのか微笑ましい。
「意外といい男じゃなーい」 「だめだよ、園子。ああ見えても二人とっても仲良いんだから!」 「見てればわかるわよ。新一くんと蘭にそっくり!」 「だから!私たちはほんとにただの幼馴染だから!」
どうだか、と信じていない顔で園子ちゃんが言う。二人のやりとりを聞いて、もう一度和葉ちゃんたちを見る。どこの幼馴染でも一緒なのだろうか。黒羽くんたちにも、そっくりだ。
「なまえちゃんどうかした?」 「ううん、なんでもないよ」
20140906
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