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「……ほんと、なんで私こんなとこにいるんだろう」
「あ?なんかいったか?」
「何でもないです。ていうかほんとにいいの?私めちゃくちゃ部外者なんだけど」
「大丈夫だって!一人くらいバレねえし。今回は鈴木財閥関連だから蘭たちもいるし」
「…それでもさー」
「キッドのことバラされたくねーんだろ?ならこれくらいつき合え」


私に対して横暴すぎるよ新一くん。

今日はキッドの予告日。いつもテレビで見るか後日ニュースで知るくらいだった現場に、私は連れられてきていた。突然昨日、今日予定を空けておけと言われて、何も言われずついてきてみたら現場に立ち会って欲しいというのだ。どうやら何かを試したいらしい。
ひたすらに場違い感を拭えずいやいやと抗議したら、それなら中森警部にキッドとずっと会ってましたと言うと、コナンくんの笑顔で言われたのだ。

そんなことされたら私犯罪幇助とかになるんじゃないのか。それは勘弁、それにあの時間がなくなるのはなんか嫌だ、と悩んでいる間にあっという間についてしまった。


「あら、コナンくん!どこいってたのよ!」
「ごめん蘭ねえちゃん。このお姉ちゃん迎えにいってたの」
「だあれ?蘭の友達?」
「ううん、初めて会ったわ」


ロングのさらさらした髪の毛を下ろしたスタイル抜群の女の子と、肩くらいまでの茶髪を真っ直ぐ切りそろえた女の子が私を見つめる。


「あ、あのみょーじなまえです」
「毛利蘭っていいます。こっちは鈴木園子」
「よろしくね!がきんちょの友達?にしては変じゃない?」
「えーっとね」


コナンくんが話し始めようとしたとき、私はなんとなくひっかかっていた何かが解けそうで。


「あーっ!蘭ちゃんって新一くんの!!」 
「え?新一を知ってるの?」


幼なじみじゃないか!すっきりした!と思っていたら肘パンチをくらう。


「なにするの」
「オメー何言う気だったんだよ!俺全然戻ってねーからお前だけ会ってたら根掘り葉掘り聞かれるだろーが!」
「……いやごめん、いつもコナンくんのこと隠さなくていいからさ」
「ちゃんとしてくれよな」
「私だってアウェイ感に緊張してるの」


不思議そうな顔で見つめてくる2人に気づいた。


「何話してるの?」
「いや、私ずっと前にある事件でお世話になって…そこで工藤くんに会って、同い年の幼なじみがいるんだーって蘭ちゃんのこと話してたのを思い出したんです」
「そうだったの!でもなんでコナンくんとも?」
「偶然会って、新一お兄ちゃん知ってるって言うから仲良くなったの!」


ねー!とコナンくんモードで言ってくる新一くんに私もあわせる。すこし2人とも変な顔をしていたが、どうやら納得してくれたらしい。


「そうなんだ。てことは同い年?」
「うん。私江古田の二年なの。蘭ちゃんたちは?」
「私たちは帝丹だよ」
「なまえちゃん同い年なのかー!それなら遠慮なく仲良くしましょ?」
「喜んで!」


蘭ちゃんと園子ちゃんの優しさに、とても救われた。


「なんで君がここにいるんだね!?」
「あ、あおちゃんのお父さん」
「先日ぶりだな!元気そうでなりよりだ、じゃなくてなんでなまえちゃんが」
「あはは、コナンくんに誘われて…」
「園子くんたちはともかく、君は関係ないだろう」


そうですよね、お父さん。私も同意見ですよ。
苦笑いしか返せない。


「僕が連れてきたんだよ。だって前キッドが宝石を返した人なんだよ?もしかしたら何か弱点があるかもしれないでしょ?」
「え?!前返した女の人って、なまえちゃんだったの!?」


新一くん、何言ってくれてるの。


「こわっぱの言うとおりじゃ!貴奴を捕まえる手がかりになるものは全部試さんとな!」
「……仕方がない。くれぐれも気をつけるんだぞ!青子の友達にもしものことがあったらわしは青子に顔向けできん!」
「はい、気をつけますね」


沸々と緊張感が増す紅の絨毯の上で、私は何をするでもなく新一くんの隣に立っていた。
なんだか皆は慣れてそうだけれど、警察がこんなに厳重態勢で配置されている状況自体珍しくて、無駄にこっちまで緊張する。


「おい、俺から離れんじゃねえぞ」
「離れないよ」
「……ちゃんと分かってんのか?」
「失礼な。こんな状況で動けるような強い心臓は持ってないよ。それに、」
「ん?」
「ちゃんと、守ってくれるんでしょ?新一くん」
「っ、おう」


それにキッドだから怪我するようなこともないだろう。

なんだか隣の顔が赤い気がする。絨毯の色でも反射したのかな。


「どうしたの」
「うっせーよ」
「コナンくん口悪いよー」


ぐりぐり頭をなでるとますます嫌がるから、やめておいた。
そろそろキッドの予告時間だ。


「もういるの?キッド」
「多分な。そうだ、なまえ連れてきた目的忘れてた」
「……本当だったんだ。ただの嫌がらせだと思ってたよ」
「まあそれもあるけど」
「それもあるのか!」
「なあ、ちょっと」


わざわざ耳を貸せと言うから、彼の高さにまで合わせてあげる。


「ええ?こんなことのために呼んだの?蘭ちゃんに頼めばいいじゃん」
「オメーじゃなきゃだめなんだよ」


持ち上げろ、という彼の命令に素直に持ち上げてあげるが、なんで私じゃないとだめなんだ。目線だと多分蘭ちゃんの方が背が高いよ。
よいしょ、と安定する場所にコナンくんを落ち着かせる。


「なんか分かったの?」
「まーな」


にやりと笑う顔は正義の味方というよりは悪代官みたいだ。


「コナンくん、やっぱり子供体温なんだね。あったかい」


体を余計に密着させる。これは冬役に立ちそうだ。


「もういいから!下ろせ!」
「ちょ、危ないってば」


突然暴れ出すから、あわてて下ろす。なんなんだ、この子は。


突然、パチンと全ての電気が消える。時間になったらしい。


「慌てるな!!作戦通り動け!!」


慣れない暗闇の中で、新一くんの服を掴みながら動けずにいる。中森警部の声と警官が動く音がどたばたと響いた。
すると、ぽっ、と、少しの電気がまたついた。窓が一切ないこの空間では、小さなライトだけがスポットライトように照らし、幻想的な雰囲気を醸し出す。
真ん中にあった展示品のガラスの上には怪盗キッドが立っていて、そのガラスの中には空っぽ。


「キッド!!!」
「これはこれはみなさんお揃いで。今日は、クイーンもいらっしゃっているんですね」


そういってぽんと出した一輪の薔薇が、綺麗な弧を描いて私の胸ポケットに刺さる。
わおすごい。いつもなら拍手をするところだが、空気を読んで何も言わなかった。我関せずと傍観者になることができない予感がした。


「私のお気に入りのお嬢さんを連れてきて下さるなんて、中森警部も人が悪い」
「お、お気に入りだとお?!」
「そうですよ。宝石も手に入れましたし、そろそろ帰らせて頂きますか、そのお嬢さんと一緒にね」
「なまえっ!」


また真っ暗になったせいで目が瞬く。
新一くんの言葉が聞こえて、思わず掴んでいた服を握り直そうとしたらするりと抜けていく、手。あれ。
闇の中でふわっと体が重力を忘れる。どたばたと皆が動き、騒がしい中私の体は揺れて喧噪から徐々に遠くなっている気がする。


「ちゃんと捕まっていて下さいよ」
「え?」


耳元で囁かれた声はあの白い鳥の声で、暗闇にやっと慣れた目がぼんやりと彼の輪郭を捉える。背中に回された手に空に投げ出された足が揺れる。横抱きにした私を抱えて、ぴょんぴょんと跳ぶ彼は人間に思えない。
わざとぐるりと部屋の中を動いていたらしく至る所から誰かの腕が伸びてくるが、届きそうで全てが避けられてゆく。
そして、一際高く空中に浮いたと思うと、視界が開ける。
いつの間にか屋上に出ていたらしい。


「いつの間に…」
「驚いて下さるのは嬉しいのですが、なぜあなたがここにいるのか詳しく聞きたいところですね」
 
つん、とした声でキッドが言う。少しご機嫌斜めらしい。ていうか、私キッドのお気に入りだったのか。


「キッド!」
「なまえを離せ!!」


どたばたと正規の手段で階段を上がってきたらしい中森警部たちと新一くんがくる。


「どうやらそんなにゆっくりしている暇はないらしい」


ぐっと彼の腕に力が込められる。そして手摺りに軽々と乗って、空に足を踏み出した。心臓だけが体からすり抜けていくような、嫌な浮遊感。


「お、落ちてる!!」
「失敬な。ちゃんと安定したでしょう?」


一瞬のうちで堅くなった白い羽ともいうべき翼はゆっくりと夜空を舞う。都会の高層ビルと同じ高さの目線で、きらきらと下に広がる灯りが瞬く。


「……綺麗」
「だろ?一度見せてやりたかったんだよなー」


キッド口調から砕けた口調に変わって、嬉しそうに笑う。

白に橙に黄色。闇の黒さより少しだけ濃い青色で包まれる私たちの町を、別段綺麗と思ったことはなかったけれど、この景色を見たらそんなことは思えない。星が見えなくても、きらきらと全ての光が宝石のように輝き彩る。駆け抜けてゆく風も、雄大な夜空も、それを照らす満月も、全てが、見たことのない世界を見せてくれる。
こんな世界を、彼はいつも見ているのかと思ったら純粋に羨ましくなった。


「……なあ、」
「ん?」
「そこ持つのはちょっと危なっかしいからどこかにしてくんね?」
「あ、ごめん」


咄嗟に掴んでいた彼の青いシャツから手を離せば、思ったより強い力で掴んでいたのか少し皺になっていた。そこを軽くのばしながら、途端に何も命綱がないという現実に気づいて怖くなる。


「なら首に手回しても良い?」
「ん?いいけど」


ぐっと腕を伸ばして彼の首に回し、少しだけ動いて安定する位置を探して落ち着く。


「よし、」
「……意外と積極的なんですね」
「不可抗力です!結構この状態って怖いんだからね!」
「私が落とすとでも?」
「そこはキッドだから信用してるけど!怖いものは怖いんだからね!」


こんな高さの場所なんて普通経験がない。
それでもキッドがいるからか、思ったよりも冷静な私がいた。


「下りるぞ」


どこかの屋上に向かって降下しはじめる。どんどん近づくにつれて聞こえてくる人々の声がいつもの町に思えてどこか安心する。
とん、という足音で静かに降りたった。衝撃は殆どなくて、キッドの技術を改めて知る。


「ありがとう!ほんとに楽しかった」
「喜んで貰えて嬉しいです。で、なんで今日はいたんだよ」
「コナンくんに騙されたの」
「やっぱりあいつか」


嫌そうな顔をするも、すぐににやりと不敵な笑みを浮かべる。


「ま、結果オメーのことも盗めたし、名探偵を出し抜けたからいいか!」
「え、私盗まれたことになるの?」
「そりゃそうですよ、お嬢さん」


そう言って膝を降り、上にあげられた手には忽然と一輪の薔薇が表れる。こんなふうに彼を見るのは出会ってから二回目だ。

お嬢さん、と扱ったかと思えば、ぶっきらぼうに名前を呼び捨てにする。
悪戯っ子ように笑ったかと思えば、大人びて私を子供扱いする。
その二重の扉が憎らしい。
なぜ私のところに来てくれるんだろう。
わざわざ私を、特別、だなんて言って。
今の言葉だって、下手したら口説き文句なのに。

白の姿で、マジックが得意ということしか知らない、名前も本当の顔も知らない、そんな犯罪者との、関係。
お互いに何も言わない聞かない沈黙は、知らぬ間に少しずつ、しかし確実に、私の心臓に歪な欠片を沈ませてゆく。
彼の気紛れは、ふと現実を眺めると怖くなる。

純粋をあらわす真っ白な彼は、幻のように夜に溶け込む。
私はそんな感情を振り払うように、薔薇を手に取った。


「キッド!!」
「そろそろ来るところだと思っていましたよ」


大きな音を立てて開いた古びたドアが、私の意識を地上につける。
息を荒げた小さな探偵くんが、走ってくる。一瞬大きな風が髪の毛を靡かせ視界を遮った。

目を開けたときには、白の怪盗は姿を消していた。



(近過ぎなんだよ!名探偵と)
(彼にとって私は、なんなのだろう。私はどうしたいんだろう)

20140730

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