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「もう快斗聞いてよ!お父さんがね……」


キッド後日の青子の話はいつものことだが、今日は一味違った。

ネックレスを返すためになまえのところにわざわざ置いてきたが、どうやら色々と大変だったらしい。
あの後小さな名探偵から電話が警部にかかってきたらしく、中森警部がさすがキッドの専属ということですぐにあいつの家に向かったらしい。青子の同級生ということもあって普通より柔らかな事情聴取だったらしいが、それでもあの時間から詳しく話を聞かないといけないから、相当の負担になっただろう。
加えて、あの名探偵の様子だと当分は寝かせてくれなさそうだ。
そんな話をきいていたら、その人物がやってきた。


「なまえちゃん!大丈夫だった!?キッドに何かされなかった?」


心配そうな顔で青子が駆け寄っていった。


「うん、大丈夫だよあおちゃん。あおちゃんのお父さんにも迷惑かけてごめんね?」
「ううん!なまえちゃんが悪いんじゃないもの!悪いのは全部キッドよ!!」
「……そうだね、今はあおちゃんの言葉に全面肯定だわ」


……これは、だいぶ怒ってらっしゃる。


「でも、なんでなまえちゃんだったんだろうね。何も言わずに、ネックレスだけ置いていったんでしょう?」
「……うん、そうだね」


本人からの肯定で、青子の話の疑問が確信に変わる。

どうやらなまえは、これまでキッドと何回も会っていたとは言わず、初対面だと言ったらしい。交わした言葉もなかったことになっている。

なぜなんだろう。

そんな彼女は眠そうな笑みをゆるりと浮かべながら、青子の話を聞いている。


「あら、そんなにあの子を見つめてどうしたんですの」
「っ、紅子か」
「まあ、失礼な方ね」
「オメーは突然現れるからびっくりすんだよ」


艶やかなロングヘアーが流れて揺れる。


「……今日、気をつけることね」
「あ?何でだよ」
「あの子には小さな騎士がついているでしょう?白き鳥の影が、その騎士の剣に刺されるという暗示が出たのよ」
「まーた占いかよ。そもそも俺には関係ねえよ」
「とにかく!占いを馬鹿にしないで、気をつけなさい。油断していると、痛い目に遭いますわよ」


そう言い放って颯爽と歩いていった。






一限目の体育が終わり、二限目の数学、三限目の化学が終わった。
彼女より後ろの席の俺は、こっくりこっくりと頭が動いては、微かにびくっ、と動いて前を向く一連の動作をずっと眺めていた。 


「なあみょーじ、大丈夫か?」


休み時間になってがやがやする喧噪の中動こうともせず、お茶を飲んで水筒に寄りかかってぼーっとする彼女に声をかけた。


「……ああ、黒羽くん。おはよ」
「はよ、って」


無防備過ぎてゆるゆるとした声で言われるから、くすぐったい。


「やっぱり寝不足で一限目体育はきついね」
「まあ、女子バスケだもんな」
「嫌でも動かなくちゃいけないからね。だいぶあおちゃんが気を使ってくれたけど、あおちゃんにたよりっぱなしでもいけないから」
「んなこと思わねーで青子には頼っておけばいいんだよ」
「そんなわけにいかないでしょ。…あ、黒羽くん、そこ、どうしたの」


そういって俺の頬に手を伸ばす。さらり、と触れた指に驚いて体が後ろに引いた。


「痛かった?」
「ちげーよ、ただびっくりしたんだよ」
「あ、ごめんね。昨日、こんな傷なかったよね」
「あ、ああこれはちょっと電信柱でこすって」
「あはは、電信柱でこするとかなかなかないよ?ちゃんと前向いて歩かなきゃ」


無邪気に見上げて笑う彼女にどぎまぎしながら、俺も笑い返すしかない。
本当は昨日の名探偵につけられた傷だけど。


「そんなに事情聴取長かったのか?」
「青子のお父さんは全然長くなかったよ。ちょっとその後がね……」


遠い目をする。大方名探偵のことだろうと、苦笑する。昨日は半分本気であいつに嫉妬したんだが、やっぱりただの知り合いにしては過保護すぎねーか、あいつ。


「なあ、」


言い掛けた瞬間、がらりと先生がドアから顔を覗かせた。


「次の倫理、先生の出張で自習になったから静かに勉強してろよー」


その言葉にやったー!と皆がはしゃぐ。それはなまえも例外ではなく。


「やった!」
「良かったな」
「うん。めっちゃ嬉しい。そういえば、何か黒羽くん何か言い掛けてなかった?」
「、いや、何でもねー」
「そっか」


凄く嬉しそうな笑みを見せられて一瞬反応が遅れた。ポーカーフェイスなんて、こいつの前ではいつか完璧に崩れてしまいそうだ。

ふと、彼女が席を立つ。


「ねえ黒羽くん、私保健室行ってくるね」
「体調、悪いのかよ?」
「ううん、ただの寝不足ー。ちゃんとしたベッドで体力温存してこようと思って」


彼女が苦笑いしながら手を振って出て行った。


「……体力温存、って、このあと何かあるのか?」






最初の方はすこしだけうるさかった教室内も、今はこそりこそりと密やかな話し声か、寝息、かりかりと動かされるシャーペンの音くらいしかしない。
とりあえずノートを開くが、何をするでもなくくるくるとペン回ししながら窓の方を向いた。
白い雲が流れてゆく様子が分かる。じ、っと見ていると以外と雲は早くて、あっという間に知らない風景になる。


「なあ、青子」


こそ、と隣の青子に耳打ちしたら、俺が何か言う前に返される。


「保健室でしょ」
「……さっすが、幼なじみ」
「何年一緒にいると思ってるのよ。ちゃんとなまえちゃんの様子見てきてね」
「りょーかい」


音を立てずに教室を出るのは、朝飯前だ。
人気のない廊下を、ふわふわと歩いた。

20140728

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