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■ ■ ■


私たちは不幸に慣れすぎていた。いや、語弊があった。慣れている訳では無い。ただ、日常にそれは近過ぎたのだ。
誰かを失うということは、ひたすらにあっけなく、突然に穴を残していくことを、嫌というほど知らしめる。そして、近過ぎるからこそ、私達は、喪失にあまりにも弱く、縋るように向き合うことが出来ないのだ。






全てのテスト、レポートが終わった私達大学生組は、空いているメンバーで打ち上げと称し飲んでいた。諏訪さんちで。


「はあ!?諏訪さん告白されたの?マジで?」


思わず箸を落としそうになった。
寝不足と疲労とテストが終わったという変な高揚感も混じって、飲むペースはいつもより格段に早く、それと比例して頭に回るのも早かった。
すでに太刀川は小休止に入り、机に突っ伏して寝ている。


「五月蝿えよてかお前らもあっさり言ってんじゃねえよ!!」


もぐもぐと食べ続ける風間さんとレイジさんにつっこむも何も相手にされていない。


「俺達がいるところで告白されるのが悪い」
「んな無茶言うんじゃねーよ!!」
「大胆ね、その子も。で、どうしたの」
「………断ったよ」
「勿体ないー!折角諏訪さんに春来たと思ったのに」


耳を赤くしながら五月蝿いと騒ぐ諏訪さんを笑いながら酎ハイを煽った。何本飲んだかもう覚えてない。


「お前こそ何もねえのかよ」
「えー?私こそ何もないですよ」


一人女が混ざったこの状況で、私に矛先が向くのは至極当然のことだった。私は何度言ったか分からない言葉をいう。

「そういやお前の好きなタイプとか聞いたこと無かったな」
「言う機会ないでしょ」
「ボーダー内で誰か言えよ」
「唐沢さんかっこいいよね」
「あー、お前幸せになれねえタイプだわ」
「よく言われるー。レイジさんみたいな人をタイプにしなさいって栞に言われたな」


飄々として斜に構えた、完璧腹黒だとわかる喫煙者。のらりくらりと緩やかに人を流すその能力は営業マンとしては天賦の才で、恋愛感情がなければ、その人は味方になればとても頼りになる良い人である。
しかし天然かもしれない完璧な女たらしであると私は勝手に思っている。


「そもそもお前には迅がいるだろう」


そうもぐもぐと風間さんがさも当たり前のように言った。
困った顔をして机に頬杖をだらしなくついた。


「あいつと私は今更そんなのじゃないですからねえ」
「本当に好きじゃないのか」


レイジさんがさらりとそう言った。その言葉に、少しだけくらりと心臓が揺れる。それは恐らくアルコールのせい。


「、好きじゃないですよ」
「なら早く新しい恋を探せ」
「なんか風間さんお節介なおっさんになってるよ」


苦笑いして彼を見た。無表情な顔に少しだけ赤みがさしている。


「お前ら、本当になんもねえのかよ」


異常なほどに一緒にいるだろうが、そう諏訪さんが言った。
誰も彼も、なんでそんなことを言うのだろう。


「ほんとに、いうほど一緒にいませんからー」
「それはお前の感覚が麻痺してんだろうよ」


煙草を咥え始めた諏訪さんが吐き捨てるように言った。

幼馴染と言えるほどの古い付き合いという訳ではない。友達とも言えるほど浅い付き合いでもない。かといって親友と言い切るには、些か距離が近過ぎるのは自覚している。
言い知れない感情が燻るのは、過去のせいか今のせいか。

私のグラスをくいと飲むと、水だと思っていた透明な液体は喉を焼いていく。


「うわっ、なにこれ風間さん」
「日本酒だ」
「なんで私のとこに入ってるの!」
「空になってたから入れたんだ」


それがどうした、と悪びれず言った一升瓶を支えている風間さんは確実に相当酔っている。私も大分飲んで、そろそろこれ以上は危ないとフェードアウトするつもりが、心の準備をしないまま、度数の高いアルコールを結構な勢いで体内に入れてしまった。
くらり、と頭が揺れる。目が蕩けるように重くなる。これはやばい、そうへらへらと客観的に思った思考はすぐさま曖昧に遠くなった。


「そういえば、」
「なんだよ」


皆酷く酔っていた。真っ赤な顔で呂律が回っているように見える諏訪さんも、無表情で飲み続ける風間さんも、寝落ちした太刀川も、止めるつもりがないことが何よりも証明しているレイジさんも、みな、ひどく。

熱気のこもった部屋で、正常な判断など出来るはずもなかった。だから、誰にも言ったことのない、昔の、忘れかけていた過去など、口走るなんて普通ならありえなかった。


「むっかしにね、こくはくしようとおもったことがあるんだよねえ」
「まじかよ!」


わかり易く色めき立つ諏訪さんに、ただ無言で先を促せと圧力をかけてくる風間さんまでは覚えていた。
記憶が曖昧にフラッシュバックする。


「でもね、こくはく、させてもらえなかったの」


彼の性格も、彼の副作用も含めて、私の思惑が分からなかったはずがなくて。
イコールそれは、


「じっしつ、じんに、ふられたんだよね」


ひらがなを吐き出して、私は意識をなくした。


20160203
title by へそ