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■ ■ ■


二十歳になってみて分かる。自分は何も変わっていない。
子供の頃は、もっと、穏やかで、淑やかで、格好よくて、綺麗で、可愛くて、大人になるんだと思っていた。
自分の手で、進むべき道を切り開いているような、そんな綺羅綺羅したものだと思っていた。

それがどうだろう。
餓鬼のまんまだ。狡くて、脆くて、我儘で、心が狭くて、ただ素直に泣くことすらできない。雁字搦めにされた、馬鹿な生き物だということを必死に隠すだけ。



最後のレポートを終えて数時間の睡眠をとった。それでも最近の生活を思えば、万々歳の睡眠。
疲れで麻痺した体を起こして、向かった先はボーダー本部だった。今日は一人暮らしの部屋からの出発なので、玉狛からよりは近い。
中に入れば、ちらほらとこちらに視線を向けられる。おそらく本部の人間ではない見知らぬ者がいるのが珍しいのだろう。


「あ、なまえさんだ」


そういって駆け寄ってきたのはカチューシャをつけた学生服姿の高校生だった。


「米屋だー。久しぶり?」
「久しぶりっすよー!本部にいるってことは迅さんは?」
「そんないつも一緒にいる訳じゃないから」


苦笑いを浮かべる。同じようなことを前も言われた気がする。
彼は私の横に並んで一緒に歩き始めた。


「えー?殆ど一緒にいますよ」
「そう?同じこと太刀川にも言われた」
「うわー太刀川さんと同じ思考回路か」


先輩のことを臆面もなくそんなふうに冗談を言えるのは、彼の飄々とした性格と人懐こさと、太刀川の戦闘以外の底辺さにあるだろう。


「なまえさんなんか持ってるっしょ。すげえいい匂いする」
「差し入れをね。そういえば公平見た?」
「今日まだ見てないっすよ」


呆れたような面白がっているようなその声で、彼も出水が生贄にされていることを知っているようだ。


「それは大変だっただろうに」
「途中から風間さんも入ってましたよ」
「さすがだわ。そんな余裕どこから生まれるんだろ」
「なまえさんも手伝えば良かったのにー」
「無茶言わないでよ。大学生は暇暇って言ってもテスト期間は高校より地獄だから」


そう言って笑った。


「あー、なまえさんですもんね」
「私だからって何よ」
「なまえさんは典型的な屑大学生でしょ」
「失敬な。上手く手抜いて単位は取る大学生だから」


あいつと一緒にしないで、と生意気な視線を向ける彼を笑いながら小突いていたら目当ての場所に辿り着いた。


「入るよ、生きてるー?」


ノックの返事もそこそこに太刀川隊の隊室に入った。そこには机でべたりとしているもじゃもじゃと、その横に腕を枕にしている出水と牛乳を飲んでいる風間さんがいた。表情があまり変わらないあの風間さんでも、どこかしら疲れて苛立っているように見える。
ばっ、と突然顔をあげたのは出水だった。


「なまえさんーーー!!!」


そう言って勢いのままに腰に抱きつく彼のせいでふらついた。それに大丈夫っすか?とささえてくれた米屋。個人的に米屋さんはモテると思うんですよ、気遣いができるから、と関係のないのことを考える。


「お疲れ、公平」
「もう嫌です俺本当やだなんで高校生の俺まで手伝わなきゃなんないんですか」
「こいつの隊だから諦めなさい」


ぎゅうぎゅう抱きしめてくる彼の頭を撫でながら非情なことを言った。


「ししょーが手伝えばいいじゃん」
「私だって自分のことで精一杯だったんだから」


ぐずぐずと拗ねたように言う彼の姿に、よっぽど今回は大変だったと見える。大学は他の科目のことを考えないから容赦のない量が怒涛に来る。その上に太刀川が今回残していたレポートは量も多く重要度も最高クラスだ。


「よく頑張ったねえ、差し入れ持ってきたから」
「差し入れ!なんですか!」
「コロッケ買ってきたの」


まだ温かい袋を目の前に掲げた。彼は私の体から手を離し、そちらに飛び付く。


「やったー!!なまえさんさすが本当大好き」


笑顔になった彼を見ると買ってきた甲斐があるというものだ。


「結構買ってきたから好きに食べて」
「こんなにいいんですか!?」
「風間さんもどうぞー」
「有難く頂く」


いつの間にかこちらに来ていた風間さんはすでに出水が手にしている袋に手を伸ばしている。


「って、なんでお前がいんだよ槍バカ」
「お零れ貰おうと思って」
「仕方ないな、いいよ」


お茶目に言う米屋に苦笑が零れる。この騒ぎにやっと起き出したのかこちらを見てすっ飛んで来た。


「コロッケ、食う」
「ポニョみたいに言ってんじゃないわよ。感謝しなさい」


その頭をぼさりと叩くが無視して袋に手を伸ばして二つ取り出す。もしゃもしゃとかぶりつく彼に溜息をつきながら聞いた。


「で、終わったの」
「なんとかな」


太刀川の代わりに風間さんが答える。


「お疲れ様です。なら私がこいつを引っ張っていけば何とかですね」
「………寝てえ」
「大学持っていくまでがレポートなんだからね」


しんでも引きずっていくから、と言う私にいつもの瞳にさらに死んだような格子柄が見つめてきた。


「そろそろ行くよ。間に合わなかったら洒落にならないから」


クマが酷い顔でぼさぼさの頭。A級一位といっても外に出ればただの堕落しきった大学生である。
眠い目をお互いに擦り部屋を出た。


「………ししょーって仲良いよな」
「誰と?」
「太刀川さんと」
「まー、同い年ならそんなもんじゃね?」
「、そっか」


20160122
title by へそ