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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






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サイドエフェクトとは、高いトリオン能力を持つものに稀に発生する超身体能力、超知能のことを意味する。この「副作用」は、良くも悪くも、トリオン量を多く保持するのも含めて、持つ者の生き方に影響してくる。


と、私は思っている。
それは下手をしたら、その人の人格、精神的成長、価値観などに著しく。







がこん、と自販機から音がして飲み物が転げ落ちた。それを拾って伸ばした袖で恐々と覆った。暑いそれが温く手に伝わる。自販機近くの壁に凭れて、ぼーっと遠くのブースを見つめていた。


「よー、なまえ」


缶から口を離さずに声がした方を横目で見れば、見慣れた髭面が立っていた。私よりか幾分高いそいつは私の前を素通りして自販機の前に立つ。私は壁から背中を離した。


「お前が本部にいるってことは、迅?」
「……そんな一緒にいないけど」
「今更」


そうやってそいつは鼻で笑った。


「どうせ今日も迅待ちだろ?風間さんなんかの会議って言ってたし」


その言葉に無言で肯定した。
彼がしゃがんでとりあげたそれは冷たそうな赤い缶。ぷしゅっと小気味よい音をさせて咽ごしよく飲んでいた。


「お前暇なら模擬戦しようぜ」
「やだ」
「即答かよ」
「そんな気分じゃないの」
「いいじゃねーかよー。しよーぜー」


馴れ馴れしく肩に手を回してくる彼が鬱陶しい。こいつの戦闘狂は今に始まったことではないが、少しだけ太刀川の気持ちも分かる気がする。もう長いこと、彼はA級一位の座をほしいままにしている。それは、誇り高きことで、それゆえに孤独だ。


「そういえば、あんた大学行ってんの?」
「……」
「忍田さんから、あいつはちゃんと大学行ってるのか?って聞かれて前よりは言ってると思いますよってフォローしたけどさ」
「まじ感謝だわ!さすがなまえ」
「哲学概論、来週までに中間レポート提出なんだけど」


太刀川が知ってるわけないよね、と言わずとも彼の青褪めた表情で現状はよく分かる。


「なんで早く言ってくれなかったんだよ!」
「どうせあんた言ってもやんないでしょうよ」
「確かに」
「確かに、じゃねーよ」


ばしっ、と彼の二の腕を叩いた。こいつは戦闘だけにしか能がない。戦闘関係だと頭もよく働く癖に、それ以外はからっきしだ。
いつもの気持ち悪い企むような笑みなどどこかいってしまって、彼は大きな瞳を潤ませこっちをじっと見つめていた。それに気づかないふりをする。これはこれで気持ち悪いな。


「中間出さなかったら落単だって」
「……なまえさん」
「あとあれ選択必修だから落とすと再履だよ」
「まじかよ!」
「組んだときに言ったでしょうが」


こんな会話を今期に何度しただろう。
ばしん、と顔の前で手を合わせてこちらに頭を下げた。


「神様仏様なまえ様!」
「……」
「焼肉!」
「……仕方ないなあ。飲み付きでね」
「うっ!」
「嫌ならいいけど」
「背に腹はかえられねえ」
「しっかり稼いでるでしょう」
「お前もだろうが」


恨めし気な顔をする彼に気付かないふりをした。毎度の事なのだ、これは。


「お、太刀川さんじゃん」


ゆるりと少し低めの声が空気を揺らした。波のようにそれは影響を知らぬ間に消える。


「迅ー、お前んとこのがいじめるんだけど」
「どうせレポートとかでしょ?」
「なんでわかんだよお前お得意のサイドエフェクトか」
「なくても皆分かるって」


苦笑いを浮かべた迅がぼんち揚げ片手に私の隣に立った。


「早かったね」
「うん、まあね」
「お前らもう帰んの?」
「用事は終わったしね」
「迅早く帰ろー、お腹すいた」
「はいはい。なら太刀川さん、またね」
「またー。大学行くんだよー」
「……おー」




顔が広い人間の横にいると、それに巻き込まれてこちらまで好奇の目に晒される。それに私はいつまでたっても慣れることは無かったが、知らぬふりをするのが一番だ。


「太刀川さんまたやばいの?」
「レポートがね。あいつも懲りないわ」
「まあ、太刀川さんだしね」


隣を歩く彼は私より頭一つ分以上高い。太刀川ほどではないけれど十分高いその背は、大きくてどこか遠い。私の方が年は一つ上なのに。春の空のような色を背負って、彼はひらひらと歩く。


「それ、飲んでいい?」


まだ私が持っていた缶のことだろう。もう温いミルクティーは少し残っているけれども。


「これめっちゃ甘いよ」
「知ってる」


そう言って私の返事を待たずに、少し上にあげた手からひょいと取り上げた。


「あま、」
「だから言ったじゃん」


一口しか飲まなかった彼は、もういいというように私につきかえす。
少し減ったそれを、ぐい、と飲み干した。
あまい。
誰ともなく呟いた。外に出る前に置いてあったごみ箱に投げ入れると、空っぽになったそれは空虚な音をたてて落ちた。



20160109
title by へそ