自分から母さんに頼んだはずなのに、いやだいやだと駄々をこねる姿は何かから自分を守ろうとしているみたいだった。この人とは住みたくないと、それなら帰ると、帰る居場所もないはずなのに、子供のように灰原を抱きしめ、沖矢さんから背を向ける姿に唖然としながら、沖矢さんは彼女を、決して人に流されるようなタイプではない一匹狼の彼女を、無理やりにも丸め込んで家に連れ帰ってしまった。その手腕はあまりにも華麗で、呆然とした。
「連れてきてどうしようっていうのよ」
荒々しい口調で、どさりと工藤宅のソファに沈みこんだ。
「どうもしませんよ」
感情の読めない平坦な顔で飄々と言った。
「なら帰る」
言いくるめられて連れてこられたものの、意志すらも言いくるめられた訳ではない。拒絶する感情は確かに存在する。
「どこにですか」
「ここじゃないどこかへ」
「子供みたいなことを言わないでください」
溜息をついて呆れられた。初対面の人物になんでそんな呆れられないといけないんだとむっとするも、私も人のことを言えないと内心では冷静に思う。
「貴方も貴方よ。今日会ったばかりの他人に対して世話を焼きすぎじゃないかしら」
刺々しい言葉が、喉を通った。しかし一方で、正論だと思う。こんな面倒くさい女をわざわざここまでして引っ張り込む理由がわからない。
捨ておけばいいものを。
「さて、何故でしょうね」
顎に手をやり、小首をかしげた彼に思わずため息をついた。
「訳もなしに、」
「ただ、」
私の言葉を遮る彼の声は、どこか逆らえないようなひりひりとした静けさがある。
「あえて言うのなら、貴女を放っておけなかった、というのが理由でしょうか」
20150912
title by 東の僕とサーカス