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ナマエが倒れた。
すぐさま沖矢さんが彼女を担いで、博士の家へ運んだ。ベッドに運ぶやいなや俺たちは外に追い出され、灰原だけが彼女の世話をした。

真っ青な顔をしていた。倒れた後も白さはかわらず、まるで透けて消えてしまうかのように儚かった。もともと色白だったが、あまりにも異常だった。駆け寄った時に見えた首の筋が浮き上がっていて、窪んだ鎖骨が痛々しかった。手首すら、子供の力で折れてしまいそうなくらい細い。


「、灰原」


険しい顔をした灰原が部屋から出てきた。近くにいる沖矢さんを一睨みして俺の方に近寄る。


「大丈夫よ。今は寝てるだけ。でも、」
「なんだ?」
「栄養失調、過労、寝不足」
「栄養失調……?」
「このご時世、栄養失調なんてなかなか起きないわよ、普通の生活をしてるならね」


灰原が睨む。


「そしてあの細さ。どう見てもまともな食事をしているとは思えないわ」
「………」
「ねえ、彼女に何が起こったのよ」


あなた、知ってるんでしょう、と、黙ったままの俺の肩を掴みかかりそうな勢いで、灰原が言った。


「何も起こってないわ」


声が聞こえてきた方をいっせいに見る。扉の近くに彼女がもたれて立っていた。


「あなた!まだ安静にしてなきゃ駄目でしょう!」
「大丈夫よ。軽い立ちくらみよ」
「そんなんじゃっ!」
「哀、大丈夫だから」


言いたげな灰原を見つめて、優しげに微笑む。その表情に息を飲んだ。


「ごめんね、コナン君。私帰るわ」
「えっ、家は」
「有希子にはちゃんと言っておくから」
「ちょっと待ちなさいナマエくん。お茶くらい出させてくれんか」


阿笠博士が引き止める。彼女がふと我に返ったように目を瞬かせた。

灰原が無理やりにソファに座らせ、自身も斜め横にかけた。まるで監視するみたいに。クッションを抱きかかえる彼女は苦笑いしながらそれを見つめる。沖矢さんはソファに腰掛けることはなく、近くのダイニングテーブルの椅子にもたれて腕を組んでいた。表情はいつもの如く読めない。
彼女は運ばれてきたコーヒーを一口だけ啜って置いた。


「で、どんだけ食ってねーんだよ」
「……お腹がすいたら食べてるわよ」
「倒れておいて何言ってんだ」


暫く彼女は黙っていたが、こちらの様子が折れる気がないと分かったのか、爪を見ながら目を逸らした。


「その点については謝るわ。迷惑をかけてごめんなさい」
「そんなことじゃ!」
「そんなことよ。コナン君」


冷めたように言う彼女の瞳が嫌いだった。無意識に下唇を噛む。


「………お願いだから、」


その言葉の続きはなんだろう。苦々しく口を噤んだ。そんな俺に、よくわからない海の底を感じさせて彼女は瞬きをした。


「で、どうしますか」


突然割って入った声は滑らかで、水が流れたように空間に小波が走る。あの家から姿を現した彼は、眼鏡をくいと上げて言った。


「今日からあなたは工藤さんのお宅で住むのでしょう」
「そうよ、そのことが問題だわ」


沖矢さんの発言で彼女が静かに言った。


「この人はいったい誰かしら、コナン君」


その瞳は険しくて、どこか寂しい。彼女は、いつからそんなに目を伏せるようになったのか。


「住んでいたアパートが火事になってしまったので、ご親切にそこの坊やが工藤さんの家に住まわせて頂けることになったのです」


俺が言おうとした途端、彼が簡潔に説明する。


「あなたに聞いているわけじゃない。それに質問に答えていないわ」
「それは失礼しました。私は沖矢昴と言います。東都大学院で工学を少々」
「院生なの」


興味のなさそうな口調でいて、その目は未だ彼を見ては目をそらし続ける。


「こちらが自己紹介したからには、あなたも名乗るのが筋でしょう」


嫌味でないその言い方は穏やかで、それが余計に彼女の眉をあげた。


「私は医者よ」


それ以外の肩書きはないわ、と付け加えて口を閉じた。


20150716
title by 東の僕とサーカス