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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -







あれから真選組も日が経ち、人も増え、江戸にも染み込んだ。
隊士でやっとこさ回していた食堂も、今では女中を数人ずつ雇い、大変なときには隊士が助けに入ることもあるが、殆どがおばちゃん達による御飯で賄われるようになった。しかし、特例措置を除く女人禁制という法度に乗っ取り、掃除洗濯は食堂から少し離れた長屋で生活する俺たちがすることとなった。そういっても、唯一の幕府役人である女中秋月が精力的に動き回り、俺たちの負担を大分軽減してくれていた。
藍の小袖を着て高く団子に結った彼女の後姿が若草に包まれた縁側に風流だった。









「おい、名前はどこだ」

磨かれた廊下を歩いていると山崎に出会った。さっと隠したミントンのラケットのグリップが、微かに見えているのが分かっていないのだろうか。たらりと冷や汗をかいた山崎の首筋を見て見ぬ振りをする。いつもなら怒鳴り声をあげていてもおかしくないが今はそれどころじゃないのだ。あいつは、どこ行った。

「へ?名前さんなら私服でどこか出かけていきましたけど」
「あいつは今日非番じゃねェはずだが」
「ああ、それなら、木村さんと前に交代したらしくて、昼からあいつは非番ですぜ」

山崎の後ろからひょっこりと蜂蜜色を覗かせた総悟の頭にはいつもの生意気なアイマスクがか
かっている。

「総悟!!おまえまたサボってただろ!!」
「うるさいですぜ土方さん。そんなこと毎日のことじゃないですかィ」
「分かってンなら改めろオオオオ!!!」

胸ぐらをひっつかむも慣れたように手をほどこうとするこいつの真っ黒な目が憎らしい。

「まあまあ。土方さんも酔狂なやつだ。一介の女中の非番を覚えてるなんて」
「うっせえよ!それにあいつは一介の女中なんかじゃねェだろうが」

あいつは女中の中でも隊員の中でも古株に入るくらい俺達と長い間ともにしているのだから、いわば家族ような存在だ。
そう考えていると、じっと見つめる総悟に気づいて、なんだ、と問うた。

「なんでもないでさァ」

そう目を掠めて興味を失ったように素っ気なく言った。どうせくだらないことでも考えているのだろう。

「名前が行ったのは万事屋の旦那のとこでさァ。早く迎えにいきたいのなら行ってくだせェ」

しっしっと眉根を寄せて手を振るから、大人気なくむきになる。

「ちげェ!!なんでおれがあいつなんか」
「いったい誰が大きな声で汐呼んでたと思ってんでさァ。誰だって分かってますぜ」

うるせえと悪態をつきながらも、図星な心臓を従えていつの間にか門を出ていた。







「その阿呆さ加減が、あいつを苦しめてるなんて、あの人は思ってもいないんでしょうねィ」


title by 東の僕とサーカス