×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -







甲斐甲斐しく働き始めた彼女は、瞬く間に真選組に溶け込んでいった。
俺の印象は少し儚げな静かな女だと思っていたがそんなことは全然なかったらしく、寧ろ年相応に快活とした女だった。てきぱきと働きちょこまかと動き回るそいつに最初は戸惑う輩もいたが、彼女の人見知りしない性格と雰囲気から伝わる柔らかさに自然と絆されていった。
見る見るうちに綺麗になってゆく屯所に格段に旨くなってゆく飯。男だらけの屯所に言葉どおり一輪の花となっていった。
たった一人だけ、真選組の中でも一番幼かった総悟だけが、彼女を受け入れようとしなかった。ただの女中であるのになぜか敵対視して視界に入る度舌打ちをしてちょっかいをかけていた。彼女も彼女でそれをするりとかわして怒るでもなくいつものように柔らかく笑っていたから、余計気にくわない存在だったのだろう。


「総悟のことだが、何とも思っていないのか」


一度聞いたことがある。俺の部屋に塵を集めにきたときに。その日も朝から彼女が作った朝飯を総悟はがんとして受け取らなかった。それに俺が我が儘言うなと拳骨を落としても、憎々しげな顔をしながら結局食べたのは他の隊員が作ったやつだった。そこまでされているのにも関わらず、困ったように笑えるのはなぜなのか。


「総悟くんはいい剣士となるでしょうね」


彼女はふわりと笑いながらそう言った。確かに総悟は幼いながらに剣筋は格段によく、天才的な感覚を持つ。しかし、それが彼女とどう関係があるのか。黙って先を促すがそれ以上何もいわず、塵を集め簡単に掃除をしてあっさりと帰っていった。










その次の日。信じられないことが起こった。あれだけ昨日頑として受け取らなかった朝飯を総悟はわざわざ彼女と指定して受け取っていた。少しだけぎこちなく目を逸らしながら受け取り、彼女は相変わらず微笑をたたえていた。
それを見た隊士も近藤さんもざわざわと食堂は鳴り止まない。あれだけ拒絶していた総悟に何が起こったのか。昨日今日で変わるような浅い拒絶の仕方ではなかったのに、たった一日で総悟が変わった。


「お前、総悟と何があったんだ」


驚いて聞いても彼女はてきぱきと俺の分の味噌汁をつけながら、総悟の方を見る。


「それは総悟くんと私だけの秘密です」


悪戯するように笑う彼女の顔が何故か総悟と重なった。


「そうでさァ土方さん。これは俺と名前の秘密でさァ。精々おめェは目を白黒させてるこったな」


いつの間にか食べ終わったらしく俺の横に食べ終わった食器を置きながら彼女を見た。


「名前、こんな味音痴なマヨラーなんかほっといて遊びにいきやしょう」
「お前何言ってやがんだマヨ嘗めんな!!!てかお前は今日一日稽古だろうが!!!」
「そんなの土方さんがしてればいいじゃないですかィ。俺は名前とランデブーするんで」
「させるかあああああああ!!!」


苗字を呼ぶことさえ嫌がっていたのが名前を自然に呼ぶまでに急激に仲良くなった理由は分からないまま、小さい頃から変わらない総悟の生意気さに振り回されていた。

title by 東の僕とサーカス
20130923