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ひどく、真っ直ぐな背骨を持つ女だと思った。
女ではない。まだ小さな餓鬼だ。
そんな、子供が瞳を蒼くして真っ直ぐに言う様は俺よりも年がいったように達観していた。


恐ろしいほどに落ち着いて、真っ直ぐな背中を折って挨拶する様を見下ろしながら、その背中がいつかぽきりと壊れてしまいそうに脆く見えたのを覚えている。


そんな透き通るような出会いだった。









「総悟には私がよく言っておきますから。伊藤くんも頑張ってくださいね」


思わず泣きそうになるくらいに大きく頷いた彼は、深々と頭を下げて少しだけ晴れ晴れとした様子で食堂を出て行った。
時計を確認すればすでに真夜中。暫くしたら丑三つ時になる時間。これから寝たとしても数時間足らずしか眠れないと思うと寝るのを迷った。とりあえず火の元をもう一度確認する。それはもう職業病だ。綺麗に揃えられた台所からでて、自室に戻ろうとすれば人にすれ違った。


「こんな時間にどうしたんですか、土方さん」
「お前こそ遅ェな」


青の着流しを来てゆるりと扉付近に姿を見せた彼は煙草をくゆらせていた。


「また愚痴につき合ってやがったのか」
「ここは厳しいですから。新人さんは大変でしょう」
「これくらいで音をあげてもらっちゃ困るんだが」


揺らぐぼんやりとした灯りに照らされて、赤く色づいた煙草の先がじわりと音をたてた。


「まあまあ。大方聞いていると総悟のお気に入りにされたようで、毎日毎日稽古につき合わされてるそうですよ。それで泣きついてきたんですから仕方ないですよ」


真選組一番と噂される剣の腕前の持ち主は、その可愛らしい容貌に反して意地の悪い性格の持ち主だ。何度も何度も自分に向かわせては、捻り潰す。それは言葉通りに。そして当の本人は涼しい顔を崩さない。飽きたらもっと楽しませてくだせぇと冷めた目をして道場を出て行くのだから負けた方は堪らない。真選組に来る者自体ある程度の剣の心得をもってやってくるから、当然自負もプライドもある。それを粉々に壊されるのだから、心も体もずたぼろだ。


「まああれが総悟なりの新人への洗礼なのでしょうけどね」


彼が気に入るのは強い奴だから、というのは心の中に閉まっておく。土方さんや近藤さんはもしかしたら気づいているのかもしれないが、大抵の人は可哀相だと苦笑いを残してゆく。


「……仕方のねェ野郎だ」
「それで?土方さんこそどうしたんですか。お茶なら入れましょうか」
「あァ、ただ灯りが見えたから寄っただけだ。もう遅ェから早く寝ろ」
「もう寝るところでしたよ。土方さんこそどうせ仕事してたんでしょう。体壊したら元も子もないですからね」


本当にただ寄っただけだったらしい。月明かりに照らされた廊下を静かに歩きながら彼の横顔を見る。いつものように瞳孔が閉じない眼は暗闇で余計に白く見えた。


「んじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」


ぐしゃりと掻き乱された髪の毛を軽く整えながら、襖をぱたりと閉じた。
彼の無意識の行為にぽとりと火を灯しながら、溜息でその火を消した。


title by 東の僕とサーカス
20130916