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一縷の閃光



まさに、それは雷に打たれたような衝撃だった。
目の前に星が瞬く。地面が揺れる。割れる。
その場では爆発が起こっていたのだから、本当に揺れていたのかもしれないが。
彼奴が、かろうじて自身の生死を伝えた無線から、割り込むように、その人の声は聞こえた。がさがさと途切れ途切れで、萩原の声は少しだけ無理をしながらも、なんとか腕と顔と頭は無事らしい。
外にいた俺たちに、ぱらぱらと上空から爆発した瓦礫が落ちる。
爆発する直前、逃げ遅れた人間を避難誘導するために、萩原は爆弾の前から離れたはずだ。萩原以外の仲間からは無線が入らず、現場は騒然とする。殆ど爆弾の解除は終わっていたはずだが、犯人の遠隔操作で爆発したらしい。
錯綜する現場の中、唯一の無線がなり、萩原の声が聞こえる。相変わらずへらりとした声で無事を伝えていた。


「ザー……えー……こちら萩原、至急応援を求む、えー、ここは、…ザー……」
「おい!萩原無事なのか!?」
「あ、陣平ちゃん、無事だって言ってるじゃん。でも瓦礫が、あと俺以外に、1名避難中の民間人、女性がいます。ここどこだ、ウッ」
「萩原!?」


周囲は瓦礫が崩れる音が鳴りやまず、ザーザーと砂嵐の音がする。現場は、萩原の声で一瞬安堵したようだった。
萩原の声しか聞こえなかった無線から、割り込むように女の声が聞こえた。


「動かないで!足挟まってるから!」
「えっ、アンタも頭から血出てるじゃん!」


堅苦しい伝達報告から男女の声が聞こえる。そのおかげで、彼らが傷一つないわけではないことを知る。既に、救出隊はビルの中に入っているが、彼らが現在どこにいるのかは分かっていない。


「おい、萩原!?場所は」
「場所は、15階。爆発する前は19階だったから、恐らくそこから爆発の影響で床が抜けて吹っ飛ばされてる可能性大です!周りが瓦礫だらけで、私たち2名で降りるのは難しい。至急救助隊の応援を求めます!この位置から、エレベーターから見て北西3メートルほどの位置にいます。階段はかろうじて倒壊していないですが、他の道は私では判断がつきません」


女の的確な言葉に、思わずこちらは固唾を飲んで俺が持っている無線を見つめた。近くにいた救助隊の責任者が、すぐに女がただものではないと悟ったのか、俺の無線に呼びかける。


「現在、救助隊を向かわせています。あなたたち2名の容態は?」
「22歳男性、爆発物処理班の萩原さんは、初見では頭、腕、手に怪我はありません。正常に動く模様です。脈拍・呼吸も現在は正常範囲内。しかし、左腹部に擦傷あり。出血は特段多くないですが、トリアージ黄色で、早めの処置が必要です。また、左足が瓦礫の下に埋まっていて、私では動かせません。本人は重いだけで痛くないとは言っていますが、早めに移動できるに越したことはないかと」
「まじ?道理でなんか痛いなーと」


呑気な萩原の声が聞こえて、感情の起伏が分からなくなる。


「わかりました。その旨伝達します。あなたの容態は。」
「私は…」
「あんたもやばいでしょ。全然動いてるけど、あんたの方が頭から血出ててやばい人に見えるよ!?」
「教えてください」
「…分かりました。26歳女性。恐らく頭を打ち額を切ったと思われます。血は、額左側上から出ていましたが、現在は血は止まりかけです。今のところ、眩暈・吐き気などは起こっていませんが、念のため検査はした方がよいかと」
「わかりました。あなたもできる限り動かないように。本来は動き回ってはいけないトリアージ黄だということは分かっていますね」
「はい…」


トリアージの知識なら、警察官、しかも俺たちのような現場に出動する隊の人間ならある程度は分かる。緑以外は油断はできない。


「あんたは一体…」


俺の呟いた言葉が聞こえたように、救助隊の責任者が問いかける。


「あなたのお名前、所属先を教えてください。あなたも私たち側の人間でしょう」


一瞬、無線の向こう側の音がやんだ。薄く風が吹いた。
意を決したように、彼女の声が聞こえた。


「私は、藤峰ナマエ。米花中央病院救命救急センターの救急科医です。」


彼女の澄んだ声が、脳髄を駆け巡る。まさに、雷に打たれたように、俺は目を瞬いたのだった。





title by 星食
20221016